第147話 食うか食われるか?

「えっ…?コレ…魔法?」

「そのスライム、オレの召喚獣なの。簡単なシールドが使えるんだよ。なんだかここ、ネズミが多いみたいで危ないから、走ろっか!」

「えっ……スライム…シールド??」


飛びかかるネズミを蹴り飛ばしつつ促す。ダンの頭にハテナが浮かんでいるが、今はとりあえず走ってほしい。モモのシールドがあればネズミの攻撃くらいは防げるけど、ランクの高いのが来たら危ない。

左右から来たネズミを、くるっと回転しつつ横なぎに一閃。

「早く着いたらクッキー1枚おまけするよ~!」

ダンの目がキラっと光った。訳も分からずとにかくクッキーのために走る。オレはそのすぐ後ろを走りながら飛びついてくるねずみをたたき落としていく。なんでこんなに襲ってくるのかな?弱い魔物だから、あんまり襲ってくることはないって書いてたけど。


しんがりの冒険者を追い抜かす頃にはねずみは襲ってこなくなった。魔物避けの香が効いているからかな?クラスの最後尾に戻ると、今度はシャルロットもアイダもちゃんといた。

「お待たせ~!大丈夫だった?」

「うん!アイダったらすぐどこかへ行こうとするんだもの…目が離せないわ!」

「ロッテは私を引っ張って行くくせに足が痛いって言い出すから心配だよ。」

うん、二人はセットでお互いを見守っていてもらおう。とりあえずオレは倒したねずみを集めておかないと、大きな魔物や熊が来たら厄介だ。山では血の臭いをつけているだけで狙われたりするからね、血を流さないようにはしたけど、あんなにエサをばらまいた状態は危険だろう。


「ユータ、走ったぞ!クッキー!」

「あっそうだね。はい、みんなもどうぞ。元気が出るおやつだよ!これお水。オレちょっと離れるから、前の班から離れないでね?みんないなくなったら、オレ迷子になっちゃうよ?」

「仕方ねえな!ちゃんとついて来いよ!」

「これ美味しい!」

クッキーと共にすこーしだけ生命魔法を流したお水を渡して、その隙に後方へ走る。オレの班はモモが守ってくれるだろう。空気の読めるモモは、ネズミがいなくなった時点でシールドを消している。


―ねずみ、出てこなくなったの。

「ホントだね~あんなにいたのに。ラピス、ティア、倒したネズミ、みんなで集めてくれる?」

はたき落としただけで倒していないのも多かったと思ったんだけど、絶命していたのは12匹。はっきりとオレの手で魔物の命を奪ったのは、これが初めてだ…。血の臭いをまき散らさないことはもちろん考えたのだけど、実際は刃物を抜きたくなかった気持ちもある。獲物にとって撲殺と斬殺に何の違いがあるっていうのだろう。そこにあるのはただオレの覚悟の甘さだ。


ネズミを集めて収納に入れると、一息ついて走り出す。

覚悟は足りなかった。でも、平和な国で生活していた時ほどの抵抗感はない。次からは大丈夫、魚でできるのに動物でできないなんておかしな話だ。オレも食物連鎖の一環であるこの世界で、こんなエゴは通用しないと気を引き締めた。


「ただいま~!」

『こっちは異常なし、よ!おつかれさま。』

モモがぴょんと飛んでオレの腕から肩によじ登った。ダンは少し残念そうだ。

モモの声がみんなに聞こえたら便利なのに…どうやら召喚獣の声(?)はオレにしか聞こえないらしい。

「おかえり!」

「何してたの?」

「なあ、あっちにいっぱいいた黒いの、何だったんだ?」


「あっちにいたのはネズミだよ~!なんであんなに来たんだろうね?」

「ネズミ?」

「うん、これ。」

「きゃっ!これホーンマウスじゃない!魔物よ?!魔物がいたの?!」

うん、ネズミの魔物。でもネズミより大きくてツノが生えているぐらいで、別に魔法を使ってくるわけでもなし、動物と大差ない。

「なんかいっぱいいたんだよ。獲ってきたから食べられるかな?でもオレ捌けないんだ…。」

「でかした!君ってやつは本当に便利だな!!ウチの班の昼飯は豪華決定だ!捌くのは私に任せて!学者を目指す者が解体できないわけないだろ?」

ふんふ~んと鼻歌スキップを始めたアイダ。そっか、アイダは解体できるんだ!すごいな…。

「ホーンマウスって結構美味いんだよな。あんな速いのお前よく捕れたな!」

ダンも嬉しそうだ。ネズミの遺体を前にしてこの反応、この世界の子どもは逞しいな。それにこのホーンマウスは君を狙ってたと思うよ?よかったね…食べる側になれて…。

一応お嬢様系のシャルロットはさすがに遺体に近づかないが、美味しいと聞いて喜んでいるあたり、日本では考えられない光景だな。


ちなみにしんがりの冒険者は本当に何もしないし何も見ていない。

退屈だと思ったのか剣の手入れをしながら歩いていて、むしろ前すら見ていない。ネズミに襲われたのだって気づきもしてないだろう。もしこれが他の班だったらどうしたんだ…大惨事だったと思うよ?腹が立ったので、歩く先にこそっとくぼみを作っておいた。

「うごっ!?」

見事に引っかかって地べたに転がった冒険者に内心ガッツポーズ。

『ユータ……イタズラはほどほどにね?他の子が真似するわよ?』

モモに怒られてしまった。そうか、確かに周りの子に悪影響かもしれない。イタズラはもっとバレないようにやろう。



* * * * *


「はいはい!みんなよく歩きましたねー!ここで一旦休憩!朝ご飯も食べてないからお腹空いたでしょ?保存食しかないけど配るからね!何か持ってきてる班は食べていいよ!」

休憩、と聞いて安堵の空気が広がる。相当辛かったのか、へたり込む子もいた。


「みんなだらしないな!俺たちもっと歩けるぞ。」

「そうね!早く目的地に行って落ち着きたいわ。」

「おいおい、ロッテ、目的地についてものんびり座るわけじゃないよ?周辺の調査と食糧確保、設営があるんだから。」

そうだね~でもアイダ、周辺の調査は一番にはいらないと思うよ。君がそれやると帰ってこなくなるのは明白だ。そしてダンとシャルロットの変わり身の早さは見習うべきものがあるかもしれない…。


「えっと…みんな揃ってる…ね。やっぱりユータくんとこに入れて正解だったね!君ならなんとかなるような気がしたんだ!何事もなくて本当に良かったよ!」

保存食を配りに来た先生がとんでもないことを言う。何事もありましたけど?!先生ちゃんとオレ達のこと気に掛けてくれてた?!ジットリした視線を感じた先生は何を言う間もなくそそくさと離れていった。しまった、ねずみのことと冒険者のこと言おうと思ったのに…。後でちゃんと知らせておかないと。


「うわー保存食ってこれか。お腹空いたのに…。」

オレの手元をのぞきこんだダンが、ガッカリした声をあげる。保存食は以前の雑穀を固めた板みたいなものだ。一生懸命カシカシしているこども達が健気だ…。

「しばらく休憩するみたいだし、ウチの班はお料理しよっか!アイダ、捌くのお願い。」

「よしきた!」

キッチンセットを出したら目立つので、土魔法で簡易かまどと調理用のスペースだけ確保した。まずはお鍋にお湯を入れて保存食を柔らかく煮ていく。

「鍋…どこから?それにこれ、お水じゃなくて熱湯が入ってるのね?」

シャルロットは首を傾げながらお鍋をかき混ぜる担当。オレは火加減を見つつ、解体してもらう時間で野草を集めて回る。

「その草なんだ?」

「これは食べられる草だよ。この辺りの植物調べておいたんだ。」

「俺だって商品になるものは知ってるけど、そんな簡単に見つかるものか…?」

簡単に見つかるのはティアがいるからね…。


「できたぞ!」

見事に解体してくれたホーンマウス。鶏肉っぽいお肉をぶつ切りにすると、一旦塩胡椒してフライパンで表面に焼き目をつけてから鍋に入れる。鍋の方も塩で味をととのえて、お肉に火が通ったら刻んだ野草を入れる…卵がないのが残念だけど、これでホーンマウスの雑穀雑炊、完成だ!

「いい匂い…。」

「美味そう!!あちっ!」

「なあ、私君を嫁にもらいたいよ!」

アイダ、君がもらうのは婿だ。そして嫁はお世話係じゃないよ?


ホーンマウスは鶏肉と豚肉を合わせたような味で、ぷりっとした食感がとても美味しかった。まだ11匹分あるから、何に使おうかな?


はふはふ言いながら夢中で頬ばるオレ達に視線が集中する…ごめん……昼食は大きい鍋で作るよ…。


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