第122話 ただいま

「えっと…その……オレ、これがはじめてのおつかいでね、心配されていっぱい回復薬もってたの。大変そうだったから一番いいやつを使っただけで……。」

注目を浴びてぼそぼそと言い訳する。

「知らずに最上級薬を使っちまったのか…まあ、カロルスなら怒りはしないだろうが……。勿体ないとは言えんな、それなしでは助からなかったろうしな。あんたは運が良かったな!破天荒の息子はさらに破天荒だったみたいだな!」

オレが知らずに使ってしまったと聞いて、そしてオレがカロルス様の養子みたいなものだと聞いて、青くなって頭を抱えてしまったパパさんを、リーダーさんが励まし(?)た。



ちょっと日陰を背負ってしまったパパさん達を乗せて、馬車は進む。

「頼む!知り合いなんだろう?相手は領主なんだ!」

「いや、俺は知ってるけどな、向こうは覚えてねえって!悪いやつじゃないから平気だって!」

パパさんはリーダーさんが顔なじみだと知って、一緒にカロルス様の所へ来てくれと懇願していた。リーダーさんはひたすらめんどくさそうだ。

もうすぐヤクス村が見える!初めてのおつかいは、無事に達成できたよね!そわそわしだすオレを見て、小柄さんがけらけら笑った。



粗末なヤクス村の門…ガタゴトと馬車が通ると門も揺れる。たった1泊の旅行だったけれど、大冒険から帰ってきた気分だ。門をくぐれば、ゆったり走る馬車にもうガマンできない!ぴょんと飛び降りて、一直線に館に向かって走り出す!…と、ひょいと首根っこを掴み上げられた。

「おいおい、どこへ行くんだ?」

笑いを堪える低い声、荒っぽい強い手……。


「カロルスさまー!!」

くるっと回って手を外すと、そのまま飛びついた。

「ただいまー!!」

チクチクする無精ひげ、大きな固い体。やっぱり、大好きだ。

自然とこぼれる笑顔でぎゅうーっと抱きしめると、強い腕もオレを包んだ。

「おう、おかえり!」


カロルス様は顔をくしゃくしゃにして笑うと、頭がぐらぐらするくらい、強くわしわしと撫でてくれた。そしてぼさぼさにしたオレの髪をそのままに、そっと下ろすと耳打ちした。

「あっちも行ってやらんとマズいぞ。」

そこには滂沱の涙を流してハンカチを噛みしめるエリーシャ様と、ちょっとむくれたセデス兄さん。オレはカロルス様と顔を見合わせて笑った。



みんなとただいまの挨拶をすませて館に帰ったら、マリーさんも滂沱の涙だった。セデス兄さんが教えてくれたところによると、マリーさんはどうしてもオレのことが心配で様子を見に行きたくなるからって、セルフ監禁していたらしい……斬新だね…。


「本当に、申し訳ない。知らずに貴重な最上級薬を使わせてしまった……!」

館に戻ってほどなく、オレ達を追いかけるように青い顔をしたパパさんと、パパさんに無理矢理連れてこられたリーダーさんが尋ねてきた。まずいよ!まだ何も説明してないのに……!必死でアイコンタクトを送るオレ、最上級薬なんて渡した覚えがあるはずもなく、困惑するカロルス様。

「あ、ああ、アレな!うん、いや、昔の在庫があったからな、持たせただけだからな!気にしないで結構だ。うん、効いてよかったとも!」

たどたどしく誤魔化すカロルス様に、演技下手な夫を呆れた目で見るエリーシャ様。そしてオレにじっとりした視線を寄越すセデス兄さんと執事さん。

平身低頭で謝罪と感謝を告げるパパさんをなんとか追い出して、リーダーさんに連れ帰って貰う。

「おうレンジ、久しいな!また後で来いよ!」

去り際、カロルス様がリーダーさんに声をかけると、リーダーもといレンジさんは驚いた顔をしていた。




「さーて、じっくり聞かせてもらおうかな?」

久しぶりのロクサレン家での夕食。セデス兄さんに促されて道中の出来事を話していく。誤魔化したって隠密さんが見てるからねえ。

「ああ…素晴らしいです!ユータ様はまだこんなに幼いのに…!!」

「ユータちゃん、えらいわ!ちゃんとおつかいできたのね!!怪我もなくて本当に良かった!」

「無事にはすむまいと思ったが……ガッターに行くだけでどんだけトラブルが起こるんだ…!」

「よくもそう次から次へと…。」

話してみると、なんだか色々あった気もする。道中の馬車が襲われることなんてそうそうあっては困ることなのに、往復で襲われちゃったし中々危ない状況だったし。でもそれ以外は特に問題もなく過ごせたと思うんだよね!

「それでお前、最上級薬って何の話だ?」

あっ……それ忘れてた。でもあれナイショだから誤魔化さないといけないよね…。

「えーっと、オレが作ったお薬だよ。チル爺に手伝ってもらったら特別なのができたの!」

えーい!オレはチル爺に全部丸投げした。妖精が作ったお薬だから特別、うんカンペキな理由だ!

「なんだと……チル爺さんはもっと常識のある人物だと思ったが…。」

チル爺ごめーん。濡れ衣で評価の下がったチル爺に心の中で謝っておいた。


「で、まだあるだろ…お前、海人と知り合いって本当なのか?」

「ナギさん?そうなの!オレの欲しかった調味料をもってきてもらったんだよ!」

嬉しそうに話すオレにため息の数が増える。海人って、昔たくさん陸の人に捕まったことがあって、あまり仲良くはしてないんだそうな…今でも海人は陸に近づかないし、人目に付かない所で生活しているから、あまり接点がないらしい。そうなのか…じゃあホイホイ呼んだらナギさんに迷惑がかかるんだな、気をつけよう。

でもそれってオレが向こうへ遊びに行くときも気をつけないといけないね。

「あとな、お前の持ってるのは海人の至宝、『絆の契り』だ。海人と陸人の伝説に登場する品だぞ?きちっと収納しとけよ…貴重なもんだ。」

うわーやっぱり!ナギさん…オレそんな大事なもの持ってるの困るよ…。今度ぜったい返そうと、オレは決意を新たにした。


「あとは何もなかったのか?」

そんなことはないだろうという目で見られるけど、いやいや、もう全部言ったよ?

「ないよ!ガッターについたらすぐに宿に行ったし、次の日は仲良くなった子のお店のお手伝いしてたら時間なくなっちゃって、すぐ帰ったもの。あ、ニースたちに会ったんだよ!あとは帰りにゴブリンに会ったのは話したでしょ?」

「ニース?ああ、あの時の3人か。ふーむ、まあ詳しくはまたスモークに聞くとしようか。」

スモークって隠密さんのことかな?お手柔らかに…と窓の外へ手を振って、オレは席を立った。


「お前そこにいたのか。バレてんなー。」

「うるせえ!」

笑いを堪えながら窓を開けたカロルス。

「で、あいつの報告通りで大丈夫か?」

「そんなわけねえよ。ま、大事はそんなもんかもしれねえけど。」

「だよなぁ……。」

肩を落とすカロルスたちに、あいつが話してないことを事細かに聞かせてやる。

へっ、お前らも頭を抱えやがれ!



「うおお…色々やらかしやがって……!」

その日ロクサレン家の夜は、ユータの暴露大会を経て、随分と酒が進んだ。その後出来上がったカロルスたちに、途中でレンジ達も加わって、明け方には死屍累々の大惨事となった。


あのスカした執事野郎……なんで潰れねえんだ……俺はもう酒は飲まねえ…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る