第117話 お昼ごはん

「で、結局その子はウミワジなんかに襲われてなんで無事だったのさ?馬車はどうなったんだい?」

「だから、天使様のお力でドカンと一発なんだって!それでルビーも無事、馬車も無事なんだよ。」

やっぱり昨日の話だ。この少年は年頃も似ているし、ルビーさんの仲間なのかな?もしかしてタータさん?

「ホントかねぇ…天使様だなんて。馬車に凄腕が乗っていてこっそり助けたんじゃないかい?」

あ、そっちに話を持って行かれると非常に困る。これはあくまで天使様のおかげってことにしておいてほしい。

「あのね、オレきのう、その馬車にのってたよ。天使様においのりしたんだよ。」

「なんだって!?君、もしかしてユータ?」

「うん!お兄さんがタータさん?」

少年は目をぱちくりさせて頷いた。やっぱりそうだったんだ!


詳細を話せと3人が詰め寄るので、天使様マシマシで大いにお話を盛り上げて話してあげた。

「なんていい子だよぉ…っ!ルビーぢゃんん…!」

女性が大泣きしてしまった…少年たちも鼻をすすっている。うん、ルビーさんは本当に凄い人だよ、もっとみんなに知られていいと思うよ。

「ユータ、ありがとう。あいつ、そんなこと何も言いやがらなかった!」

「天使様のお守り、タータさんがあげたんでしょう?タータさんに返してねってあの時預かったの。ちゃんとルビー姉さんに返しておいたよ。だからタータさんのこと分かったの。」

「あいつっ……!」

タータさんは乱暴に袖で目元を拭った。



「でも、ウミワジってどうして出てきたの?あの辺に魔物はあんまりいないってきいたよ?」

オレはそこが気になってたんだ。あんな危ない魔物がいる場所なら、形ばかりの護衛なんて使わずにもっと戦える護衛を雇っていただろう。

「ああ、それはギルドの調査が入ったよ。なんでもクザラが打ち上げられてたらしいじゃないか、そこにくっついていたんだろうって話だよ。」

なんでもクザラっていうのはくじらみたいな大型の魚で、ここから離れた沖合の海に住んでいるらしい。ウミワジはよくクザラに寄生する形でくっついているようで…今回のことは本当に運が悪かったとしか言いようがなかったんだね。


さて、聞きたいことも聞けたし、貴重な時間は有功に使いたいからね!オレはお兄さんたちにお礼を言ってギルドを出た。

ぶらぶらとこの辺りを歩いてみようかな?そうだ!この機会に外に出てみたらどうかな?!お外なんて普段行けないから、そう思い付いてワクワクしながら門まで行ったんだけど…。


「だーめ!大人の人と一緒じゃないと出られません!」

ダメだった……門番さんに通してもらえなくてすごすごと戻ってくる羽目に。3歳だもんねぇ…仕方ないか。とりあえずメインストリートに沿って、面白いものがないか見て回ろう。

あ、そういえばもうすぐお昼だけど、ごはんはオレ一人で食べないといけないのかな…隠密さんも一緒に食べるかな?

メインストリートを歩きつつ隠密さんの様子を探ってみたら、あれ?隠密さん…なんだか疲れている?なんだろう、体調悪そうな気がする。昨日まではもっとシュパッ!シュパッ!って移動してたと思うんだけど…なんだか普通にてくてく歩いて着いてきている感じだ。そして時々蹲ったりするので、ちょくちょく待ってあげないといけない。お仕事熱心だなぁ…具合が悪いなら休んでいればいいのに。



「きゅっ!」

ゴツッ!

「ぃてっ!なっ……?!」

物陰でガンガンする額を揉んでいたら、突然固い物で肩を殴られた。何者!?と身構えると、目の前に小瓶。慌ててキャッチすると、瓶の向こうに小さな生き物が見えた。

「これが…ラピスってやつか?」

やばいな、コイツ。俺に気付かせずに近づいて一撃入れやがったな。…断じて二日酔いのせいじゃないとも。

視線をやると、ぽんっと消えてしまった…。何だったんだ?思わずキャッチした小瓶を見ると、『おつかれさまです、回復薬どうぞ』、と子どもの字で書いてある。思わず気が抜けてうずくまった。くっそ……何なんだよアイツ!!

こんなもんいるか!とあいつに投げつけてやろうかと思ったが、途端にまたこみ上げる嘔吐感。半ばヤケになって小瓶の中身を飲み干したが、酒で舌もやられたのか、苦みはあまり感じなかった。

俺は小瓶の字を見つめて、確かに楽になった体に舌打ちした。



うん、隠密さん調子良くなったみたいで良かった。

―でも、なんだか怒ってるの。たぶん一緒にごはんは食べないの。

「そうなの?じゃあ3人でどこかで食べようか!」

「きゅ!」「ピピッ!」

肩でポフポフと跳び跳ねる軽い気配。ふふ、そんなに動くと見つかっちゃうよ?



「あれっ?ユータだ!」

一人でレストランみたいな所には行きづらそうなので、屋台の集まる場所を探して歩いていると、突然名前を呼ばれた。振り返ると、赤ん坊を抱いたカレアちゃんがいた。

「あれっ?カレアお姉ちゃん!どうしたの?」

「ユータがどうしたのよ!もう帰っちゃったと思ってたわ。私はお店のおてつだいしてるのよ!」

そうか、カレアちゃんはガッターに住んでいるんだな。指差す方を見れば簡易テントでカレアちゃんの両親が何か販売しているようだ。

「ママ、パパ!ユータがいたの!」

「こんにちは!」

「えっ!ユータちゃん、ずっと一人でこの町に?大丈夫?帰れる?」

もしかして迷子になったのかと、とても心配されてしまった。大丈夫だから!むしろ楽しんでるよ。


どうやらカレアちゃんの両親はポルクを焼いたものを販売しているようだ。今はお昼どきに向けて慌ただしく準備の最中みたい。

「カレアお姉ちゃんはお昼ごはん、お店のポルクをたべるの?」

「そうよ!うちの店のポルク焼きはおいしいんだから!……でもね、ちょっとだけ飽きちゃった…。ううん!でもおいしいのよ?」

ふふ、カレアちゃんが一生懸命宣伝しているから、オレもここでお昼ごはんにしようかな?準備まで少しかかるようだし、さっき通ったお店で他のものでも買っておこうかな!ポルクだけだとちょっとね。



「いらっしゃい、いらっしゃーい!」

「美味しいポルク焼きだよー!」

お、お店がオープンしたようだ。二人が一生懸命声をあげている。

「ひとつ下さい!」

「あら、ユータちゃんはいいのよ?ほら、こっちにおいで。」

買おうとしたらあれよあれよとテント内に押し込まれて簡素なテーブルについた。

「えっ…でも……。」

「ははっ、遠慮することないよ!どうせ売れ残る分があるし、カレアもお友達がいる方が喜ぶから。」

おや……それはオレここにいなきゃいけないってこと?うーむ、もっと町歩きしたいけど…。ただ、目の前で嬉しそうに瞳をキラキラさせるカレアちゃんを見ると、ご馳走になっておいて放置して遊びに行くのも気が引ける。

「ほら!これがうちのポルク焼きよ。」

カレアちゃんがお皿に盛られたお肉をこちらへ押しやった。美味しそうだが、さすがに飽き飽きしているんだろう、あまり食欲は湧いていないようだ。うん、ここはオレが一工夫してあげよう!


「ママ!パパー!!これ、美味しい!これすっごく美味しい!」

カレアちゃんが興奮して飛び出していってしまった。お肉だけ食べるから飽きるんだよね、だからさっきパンを買っておいたんだ!お肉は食べやすく切って、お野菜は以前買ったのがあるから、彩りよくたくさん挟んだよ!ちゃんとバランスよく食べようね。


「ユータくん!これ、うちのお肉…?うちのお肉かい?!」

「ちょっとパパ!それカレアの!カレアのよ!」

ズザッと現れたパパさんにビクッとする。

「えっ?は、はい!」

「これ、すっごく美味しいんだ…店でこんな風に販売する許可をもらえないだろうか?ユータくんの所もこうやって売ってるのかい?」

「ううん、その、お野菜挟んだだけだよ……?どうぞ?」

「ありがとう!よし!ちょっと買い出し行ってくるぞ!」

「パパ!返して!それカレアの!」

二人は竜巻のように去っていった…。カレアちゃん…まだあるから大丈夫だよ。

「ユータくん!その間に作り方を教えてちょうだい!!」

さあ食べようと思ったら、今度はママさんがズザッと滑り込んできた。あの、オレのごはん……。


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