第101話 ゴブリンイーター2

内心ドキドキしながらカロルス様たちを見つめる。あんな大きなの、剣でどうやって倒すんだろうか・・?

怒った1匹が何やらぎゅっと体を縮めているのが気になって仕方ない。何かやりそうだよ?大丈夫?

ググ、ググゥ!

くぐもった低い声が響くと、魔力が動き始める。あ・・・魔法?このオオサンショウウオ、魔法使うの?しかもそれ土と相性いいやつだよね・・水じゃないんだ。いやオレがオオサンショウウオだと思ってるだけで本人(?)は水と関係ないのかもしれないけど。

ようやくゴブリンイーターに向き直った2人が剣を構える。魔法って、剣でなんとかできるの?!食い入るように見つめる前で、2人が2匹のゴブリンイーターに向かって走り出す。あんな大きな生き物に躊躇いもなく向かっていけるなんて・・すごいな。

ゴブリンイーターがその巨大な口をぱかりと開けると、シャーともガーともつかない呼気音が響き、周囲に岩石が浮かんだ・・これ、魔法だ!一気に殺到する岩石群が狙うのは、鎧もなければ盾も持っていない2人。だ、大丈夫、だよね?!

ガガガガガッ!

セデス兄さんは岩石を避けつつ、なんと剣で切ったり弾いたりしている!岩石が剣で切れるの!?目を凝らせば剣はうっすらと光を帯びて、魔力を纏っていることを示していた。

カロルス様はと言うと、いつものアレだ・・・岩石の剛速球を避けつつ、剣でするっと受け流している・・・いつも思うけどあれどうなってるんだ・・野球選手になったら打率が9割を越えるんじゃないだろうか。カロルス様も剣に魔力を纏って使っているようで、淡く魔力の光が見える。


「・・いくよっ!」

岩石群を避けきったセデス兄さんが前へ飛び出した!意外なほど速い動作で食いつこうとした巨大な顎を直前まで引きつけると、瞬時に真上に跳んだ。彼の真下でばくりと閉じられた顎に、オレの方がゾッとする。


ゴア、ゴアアアア!!

真下に来たゴブリンイーターの頭に、空中でくるりと回転したセデス兄さんが剣を突き立てた!

バチィ!

微かな音と共に巨大な体が一瞬痙攣すると、ずるずると弛緩していく・・。

ホッと息をつく間もなく、もう1匹がふとオレたちの方を向いた。あ・・マズイ。

こちらの方が明らかに弱そうだと判断したらしいゴブリンイーターが標的をこちらへ変え、猛然と迫ってくる!みるみる眼前に迫ろうとする巨体に若い2人が腰を抜かしてしまった。慌てて2人の前に立って振り返ると、安心させようとにこっとしてみせる。

「大丈夫。なにかあってもオレがまもってあげるね!」

実はオレも怖い・・でも、カロルス様がいるから、きっと大丈夫!


「てめぇ・・俺を無視するとはいい度胸だ!!」

ほらね、大丈夫。

迫るゴブリンイーターよりもさらに速く、オレ達の前に回り込んだカロルス様がスッと腰を落として構えた。


ググッ!グググ!

進路を邪魔されて立ち止まったゴブリンイーターが猛烈に怒って、象でも飲み込めそうなその口をがばりと開けた・・カロルス様ごと、まとめてオレ達も腹におさめようと言うのだろうか・・。オレは、信頼を込めて頼もしい後ろ姿を見つめる。


「ハッ!!」

鋭い呼吸と共に、気付けば瞬きよりも速く、その剣は振り抜かれていた。


・・ズズン・・。

沈黙するゴブリンイーターの頭が、元々別物であったかのように滑り落ちた・・・。

・・どうなったの?剣はまだ届かない距離だったのに・・。


ミシ・・ミシミシ・・ザザザザー・・ドォン!


「・・・あ。」

戦闘態勢を解いた後ろ姿が、やっちまったと頭を掻いた。


その視線の先では、ゴブリンイーターの出てきた森・・その木々の一画がきれいに切り取られていた・・。


「ちょっと!父上危ないでしょ!力入りすぎだよ!」

「いやーまいった。久々で加減が難しいわ。・・おぅ?!」

興奮冷めやらぬオレは、カロルス様に飛びついてぐりぐりと顔をこすりつける。

「カロルス様!!あれ何?!すごいっすごーい!!セデス兄さんもかっこよかったー!ふたりともこんなに強いんだ!!うわぁー!」

本当に本当にすごいよ・・!!オレ、こんな人達といっしょにいるんだ・・!

「おう、見直したか?俺は強いぞ?」

ニッと笑ってわしわしするカロルス様は、最高に格好良く見えた。


「ちょっとユータ、僕も褒めてよ?」

セデス兄さんがひょいとオレを抱え上げて、ほっぺをぷにっとした。

「セデス兄さん!すっごくかっこよかったよー!!あれどうしてバチってなったの?!あんな大きいのに一撃だった・・!!セデス兄さんがこんなに強いの知らなかったよ!」

興奮して思わずぺしぺしとセデス兄さんを叩いているのに、セデス兄さんはにこにこして嬉しそうだ。


「終わったかしらー?さあ、お茶しましょうか?ああ、あなたたちアレ欲しいんじゃない?あげるから解体とか面倒なのは任せたわ!」

とことことやってきたエリーシャ様、ゴブリンイーターを冒険者さんに譲るらしい・・でも冒険者さんたち・・聞こえてるかなぁ・・見開くのを通り越しちゃったみたいで、目は点になって口がぱっかりだよ。まだこっちの世界には戻ってきていないようだ。



「あ、ありがとうございました!!まさか、あの英雄カロルス様とは知らず!!」

「それはやめてくれ・・。おう、まあ気を付けてな。ギルドに言っといてくれ!」

冒険者さんたちのキラッキラした目に居心地悪そうなカロルス様が、とにかく早く追い出そうとしている。


あれから執事さんがチャキチャキと冒険者さんを追いたてて、解体やら後始末をすませてくれた。

「あの・・その、すみません。俺ら、あんまり金がなくて・・。」

上級薬代だけでもなんとか支払うから値段を教えてくれと言われたけど、あれただの水だし・・。素材などもこちらに渡そうとしてくれたけど、エリーシャ様がきっぱり断っていた。素材としては魔石、爪、肝、尻尾の肉があるらしい。あんなに大きな魔物だったのに、魔石の大きさはゴルフボールより少し小さいくらいだ。本には魔石の大きさと魔物の手強さは概ね比例すると書かれていたので、ゴブリンイーターの強さは真ん中より上あたりだろうか。ちなみにゴブリンの魔石なんて小指の先くらいしかない。

素材を回収した後は、執事さんが火力強めに焼き払って灰にしていたので、冒険者さんたちは再びあんぐりする羽目になっていた。



何一ついらないと言うロクサレン家に、そうはいかないと食い下がる冒険者さん、いいとこ見せようとしただけだし・・と呟いたエリーシャ様が、ふいにオレを前に差し出した。

「んーじゃあ、この子が街で困ってたら助けてあげてちょうだい?もうすぐ学校なのよ。」

「それはもちろんです!むしろ、この子にだってお世話になっちゃったし。」

少し恥ずかしそうにこちらを見た彼女が、オレの前にしゃがみこんで握手した。

「私たちを守ろうとしてくれてありがとう。あなたがいてくれて、とても安心したわ。あのとき、こんなちっちゃなあなたが前に出てくれて・・動けなかった自分が、とても恥ずかしかった・・。頼ってもらえるようにもっと、強くなるからね!私、オリーブって言うの、よろしくね。」

きっと名前の由来だろう、オリーブ色のボブを揺らして宣言した女性は、それだけで一回り強くなったように見えた。

「ホント、参っちゃうぜ。今の俺達じゃあ頼りないよな・・もっと、強くなれるように頑張るか!俺はセージ、こっちの無口なリーダーがウッド、こっちがディルって言うんだ。街でなんかあったら頼ってくれ。」

若い男性が少し照れ臭そうに紹介してくれる。ウッドさんが片手をあげて、ディルさんがよろしく、と言ってくれた。


「本当に、よろしいのか?助けていただくばかりで・・何もお返しできずに申し訳ない。」

ウッドさんがこちらへ頭を下げる。立派な人だ・・足を怪我して逃げられなくなったディルさんを助けて、年若い二人を逃がすために残った人。この人だけCランク、他の人はDランクの冒険者なんだって。

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