第102話 草原でのんびりしよう
名残惜しそうな冒険者たちは、一通りカロルス様と握手すると、何度も振り返りながら街へ帰っていった。カロルス様、まるでハリウッドスターみたいな扱いだね。
「はー参った。やっぱり街では生活できねえなあ・・。」
「カロルス様は英雄って言われるの嫌なの?」
「嫌だろ!ケツがこそばゆくなるわ・・。貴族のふりしてんのもキツイしな。」
カロルス様、貴族のふりをしてるつもりだったんだ・・具体的にどのあたり?
「まったく・・父上ももう少し貴族らしく振る舞えたら王都で生活できるのに。」
「嫌だね!!あんなとこで生活できるかよ!」
「でも食事のレベルとか文化レベルが違うでしょ?」
「俺は村のレベルで何も不自由してないぞ。しかも飯っつったか?ふふん、今や飯のレベルはうちが一番だ!」
「ああっ!そうだった・・僕もごはんはこっちの方がいいや・・。」
そっか、やっぱり王都って一番の都会だし色々違うんだろうな!ごはんもおいしいのか・・!カロルス様を見ると貴族付き合いは大変そうだけど・・オレは貴族じゃない・・と思うし一度は行ってみたいよねぇ。
途中でとんでもないトラブルがあったけど、何事もなかったかのように優雅な食後を楽しんだ。ちなみにジュースは目をつむって選んだら、紫色で結構すっぱ苦いグレープフルーツみたいなものだったので、カロルス様の黄色いジュースと交換してもらった。こっちはバナナとミカンの間ぐらいの、結構甘くてもったりした味わいでおいしかったよ!
「ねえねえ、二人は魔法を使えるの?それとも魔法を使える剣なの?!剣、光っててすごかった!」
「光ってる?ああ、ユータは妖精も見えるもんな。俺達は魔法使いみたいに魔力が豊富じゃないから、魔法は使えないな。でも剣技として一瞬発動させることと、剣を体の一部と認識することはできるぞ。それができたら、体内の魔力が剣にも伝わるって言ってたか。」
「剣技はね、魔力がなくても発動できるんだよ。魔法みたいでしょ?僕が使った剣技は雷を纏うものだよ。父上が使ったのは遠くまで剣の波動みたいなのを飛ばすやつでね、剣で遠距離の攻撃ができる人はそうそういないんだよ。」
そっか・・!剣で遠距離もばんばん攻撃できたら魔法使いいらないもんね。カロルス様ってやっぱりすごいな。でも魔力がなくても発動できるっていうのはどういうことだろう?
「魔力が全くない人もいるの?その人は全然たたかえないの?」
「うーん、全くないって言うと語弊があるかな?どんな人でも生きてる限り体内魔力はあるんだけど、外に出せるほどの魔力量がない人はたくさんいるよ。それでも剣技は発動できるから不思議だよね。」
セデス兄さんが立ち上がると、剣を抜いて何度か振って見せた。本当だ、相手に到達した瞬間だけ発動する雷の魔法。
「セデス兄さん、それ妖精魔法みたいになってるよ?」
「えっ?どういうこと?!」
「えっとね、セデス兄さんが周りの魔素をちょっとだけ集めて魔法を使ってるよ?」
「えーっそうなの!?それってすごい発見じゃない?自分以外の魔素を使っているってことはわかってたけど、妖精魔法って人は知らないからね・・妖精魔法をヒトが使える可能性があるってこと?」
「え・・・使えるよ?だってオレ使ってるよ?」
「いや、ユータは別だと思ってたよ!」
ひどい・・オレも普通の人間ですけど!でも、体内魔力が少ないと魔素を動かすのも難しいから、今みたいな使い方が一番効率的なのかな。いいな・・オレもあんな風に剣を振ってみたいな!短剣でもできるのかな?
「オレもあんな風にできるようになりたい!剣術、もっとがんばる!」
「ほどほどにしとけ・・ヤバイことになりそうな気しかしねぇな・・。」
「うん・・教えて大丈夫なのかな・・。」
「お前は何になりたいんだ・・召喚士で魔法使いで従魔術士で回復術士で・・剣と体術も鍛えたら・・・うん?なんかこれ、マズくないか・・?」
「一人パーティだね・・・。なんか僕たち、ヤバイの育成してる気がしてきた・・・!」
どうして!?剣も使える魔法使いっているでしょう?執事さんだって剣使えるし・・召喚士とか回復とか、全部魔法なんだから魔法使いってくくりでまとめたらいいのに・・。
食べ終わったら帰るつもりだったけど、のんびりしているうちにお昼寝タイムが始まったらしい。剣のこと、もっと教えてほしかったんだけど・・草のベッドに横になっていびきをかく貴族様・・・これは王都では生活できないよね。エリーシャ様までテーブルに突っ伏して気持ちよさそうに寝息をたてている。
「ふあ~、みんな寝ちゃって・・でもここ、気持ちいいよね。こんなこと王都ではできないから、たまにはいいよね!僕もひと眠りしよっかな。魔物が近くまで来たら、みんな気付くからユータも寝てていいよ?ただ、近くまで来ないとわからないから、僕たちのすぐそばにいてね?」
そう言ってセデス兄さんもごろんと横になった。
レーダーがなくてもみんな魔物がわかるんだな・・それも無意識に使う体内魔法の一種なのかもしれないね。でも、野外で無防備に眠れるのはAランク相当の人たちの特権だろうなぁ。
「ユータ様、私は起きておりますから、どうぞご自由になさってください。」
そっか、執事さんは寝るわけにいかないもんね。でも、さっきの戦闘の余韻で興奮してしまっているので眠気は吹っ飛んでしまった。
そうだ、と思い出して今日買ったばかりの本を取り出すと、大きなカロルス様の上に寝転がって読み始めた。ゆったりとした呼吸と、穏やかな鼓動・・。カロルス様の大らかな気配はオレを安心させる。ルーみたいにふかふかしてないのだけが残念だ。
ふと見ると、カロルス様に乗っかるオレを見て執事さんがプルプルしていた。そんなにおかしい?居心地いいしカロルス様起きないからいいでしょう?
せっかく野外にいるんだから、植物図鑑を見るっきゃないよね!まずは、薬草とか調べたいね。あ、収納できるんだから手あたり次第に持って帰って調べてみようかな!
鼻歌を歌いながらぱらりぱらりとページをめくる。薬草って、本当に普通の草だなぁ・・草ばっかりの草原で薬草だけを見つけるのって結構大変なんじゃないの?もっと赤とか青とか特徴的な色をしてたらいいのにね。
「ふふ、ユータ様、これが一般的な薬草ですよ。一番見つけやすくて数の多い種類ですね。」
「わあ!執事さん見つけたの!?すごーい!」
お片付けの合間に見つけてくれたらしい・・執事さんって何でもできるなぁ!
「いえいえ、そのあたりに生えてますから、ユータ様も探してみますか?我々から離れてはいけませんよ?」
「はーい!」
勢いよく飛び起きると、オレの下でカロルス様がうぐっとうめいたが、ちっとも目を覚まさない。本当に魔物が来たらわかるんだろうか・・?
「よーし!薬草を探すぞー!」
「きゅー!」
楽しいな!冒険者になった気分だ。やってることは地味だけど・・執事さんが持ってきてくれた手元の薬草を見ながら、じっくりと周囲の草を観察する。ついでに色んな植物を、ぽいぽい収納に放り込んで後で図鑑で調べてみることにする。
「あっ・・?これ、そうじゃない?!やった!みーつけた!執事さーん!」
「はいはい?」
「これっ!これ薬草?」
「おお、見つけられましたな!そうです、これで間違いないですよ。」
「わあー!やった!」
これでオレも冒険者として初めの一歩を踏み出せるね!よーしもっと探してみよう!
「ピピッ?」
「なあに?・・これ?薬草だよ!これを集めてるの!」
「ピッピッ!」
パタパタ・・と珍しくオレの肩から飛び立ったティアが、すぐそばでしきりと呼んでいる。
「どうしたの?・・・あ、これ、薬草・・?ティア、わかるの?」
「ピッ!」
もちろん!と言いたげに胸を張ったティア。そっか・・元々植物?だから詳しいのかな?張り切って薬草の場所を教えてくれるので、どんどん集まってしまった。この狭い範囲でも結構生えているもんなんだな。薬草探知機おそるべし・・!
「ティア、も、もういいよ・・あんまり取りすぎたらなくなっちゃうよ!」
「ピ?」
そう?と言いたげに戻ってくると、再び不動の鳥モチーフとなったティア。
片手で持ちきれなくなって収納にも入れた薬草の束・・オレ・・薬草だけでつつましく生活できるかもしれない・・・。
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