第91話 久々の街歩き

「またのお越しを!いい材料がありましたら、またぜひお願い致しますね!」

もみ手をする店主さんに見送られて店を出ると、さっそく執事さんに飛びついた。

「すごい!買い取ってもらえたの!?執事さんありがとう!!あのね、ブラシが買いたいんだ・・ブラシ、買えそう?」

「ブラシですか?それはまた・・・・。もちろん買えますとも、金貨6枚と銀貨8枚になりましたからね。」

「えっ・・・?」

金貨・・?石ころが・・・??

「もっと粘っても良かったのですが、まあ最初から欲張るのもいけません。このくらいが妥当でしょう。」

「・・・でも、オレ持って行ったの拾った石だよ・・?大丈夫・・??」

それ、詐欺にならない・・?ちょっと不安になってきたオレに、執事さんは微笑んだ。

「もちろん大丈夫ですよ。瑪瑙と水晶、あとはブルードロップとレッドストーンが少々でした。どれもあまり高価なものではないのですが、宝飾品としてそのまま使える状態ですし、あのバングルを高く買い取ってもらえましたので色がつきましたね。」

バングル・・・ああ、あの輪っかに成形しただけの・・・。うーんなんだか申し訳ない気分になるので石を持っていくのはやめようかな・・。


「お金はどうします?ユータ様は計算もできますのでお渡ししても大丈夫かと思いますが。」

ぶんぶん!と首を振って断固拒否だ。幼児がそんな大金持ち歩きたくないよ!しかもオレお財布持ってないや・・とりあえず執事さんに預かってもらったら、手を繋いでお店を覗きながら帰ることにした。

村と違って本当に色々なお店に、たくさんの人がいるから、歩いてるだけでとても楽しい。村にいると、ここはすごく未発展の国なのかと思ってしまうけど、街へ行くとそうでもないんだ。結構オシャレで、村にはないガラス(?)張りのショーウインドウみたいなのがあるし、機械の代わりを担う魔道具がたくさんあるから生活も便利そうだ。


「ああ、ユータ様、あそこでお財布を買いましょうか?ないと不便でしょう。」

執事さんが指したのは通りまでオープンに商品を並べた生活道具屋さん、かな?雑貨よりも布や皮の小物が多そうだ。

中へ入ると、開放的な造りの割に、ぷんと獣の匂いがした。奥ではトントンと革製品の調整をしている店員さんが見える。うーん、革製品はどれもカッコイイけど、オレがもつにはどうなんだろうか?もっと安そうなのがいいな。

聞いてみると、子どもの財布は軽い布の巾着が多いみたいで、迷わずオレもその中から選んだ。

「ユータ様は欲がないですね・・・もっといいものをお求めになってもいいと思いますが。」

「子どもはそんなの持ってても仕方ないよ!でもね、高価な物はいらないけど便利なものは好き!食べ物も美味しいのが好き!だから、そういうのに使うためにとっておくの。」

「それはそれは・・・しっかりしたお考えです。では、さっそくそのお財布に入れておきますね。」


店を出たら、執事さんが小さなお財布にぎっしり銀貨を詰めてくれた。子どもが金貨を出すのは良くないってわざわざ崩してくれたんだ。

「ブラシってどこに売ってるの?いくらぐらい?」

「生活道具の店ですが・・どんなブラシです?馬や牛用ならまた別ですね。」

「うーん・・・神獣用。」

「・・・・・・それは当然ながら売ってませんね。まさか馬用を使うわけにもいきませんし、あの黒き神獣のことでしょう?人用では小さいでしょうし・・幻獣店がハイカリクにあったかどうかですね。」

「幻獣店?」

「ええ、幻獣に纏わるものが売っている店ですね。・・・ああ、幻獣はモンスターよりも高位とされる生き物で、見た目はモンスターとさほど変わりませんが、知性が高く従魔術がなくとも人と共生できる部類です。」

うわあ!そんなところがあるんだ!ラピスやティアに使える道具とかあるかな?行ってみたいなぁ!

「・・ねえ、明日は幻獣店に行ってもいい?」

「まずはハイカリクにあるかどうか、商業ギルドの方で聞いておきますね。」

ああ、どうかハイカリクにお店がありますように!今回の目的は報告だったけど、エリーシャ様が来るまでもう少し日数があるみたいなので、しばらく滞在して遊べるんだよ。ガッターの町をすっ飛ばしてきちゃったけど、これも社会見学の一環だね。もう少ししたら学校に行って、オレもここで暮らせると思うとわくわくしてくるよ。


バヂィ!

・・うん?話に夢中になってたら、何か至近距離で音がしたような。振り返ると人相の悪い男が倒れていた・・・どうしたの?!

バヂィ!

また・・!オレのすぐそばを通り抜けようとした人がばたっと倒れてしまう。慌てて駆け寄ろうとしたら、ぐいっと執事さんに引き寄せられた。

「ふふ、優秀な護衛ですね。ユータ様、あれは悪いやつらなので放って置いて下さい。多分これからもあんな風に倒れる人がいますが、悪いやつですので近寄らないようにして下さいね?」

「そう??執事さんがやつけたの?」

「いいえ、私ではありませんよ。」

そうなのか・・この街の防衛システムとか?なんと・・なかなか高度だな・・。

感心するオレの横で執事さんとラピスが何やらアイコンタクトをとって頷きあうのだった。

(ユータ様が着飾って歩けばこのあたりのスリが一掃できそうですね。ふむ・・これならユータ様がハイカリクで暮らすようになっても大丈夫でしょうか。)



「ユータ様、少しあのお店に入ってもよろしいですか?」

宿にほど近くなってから執事さんが入ったのは、こぢんまりとした閉鎖的なお店。なんだろうここ・・?お店の中も狭くて、商品もあまり多くないし、なんだか雑多な感じだ。布の袋があるかと思えばネックレスが置いてあったり、水筒やカバン、ブローチなんかもある。ただ、いずれも漂う魔力を感じるのが共通点か・・とても読みにくい文字で説明が書いてある。

「しゅ・う・の・う・ぶ・く・ろ・・・収納袋?あ、そっか、まほうの袋?」

「ええ、ここは魔道具のお店です。そちらの収納袋は大きなカバン一つ分くらいは入るんですよ。」

えっ・・?オレは違う意味で驚いてしまった。

大人の両手くらいの大きさの袋に、それだけ入ればスゴイとは思う・・思うけど、妖精魔法の空間倉庫って大きくすれば果てしなく入るよね?確か人の収納魔法は容量が少ないから、魔道具に付与して使うって・・オレ、魔道具にしたら空間倉庫ぐらい使えるんだと思ってた!チル爺~!魔道具に付与しても容量小さいって教えておいてよ!危ないところだったよ・・・。

なぜなら既にオレの空間倉庫には枕や布団まで入ってるから・・・だって馬車でお昼寝するときにあったら便利だと思って。そう言えば空間倉庫のこと、みんなに言ってなかったような・・・黙ってたらバレたとき怒られるから、帰ったら忘れずに言わなきゃね。


魔道具はどれも面白くて、注意深く見て回っていたら既に買い物をすませた執事さんが待ってくれていた。

「あ、もうおわり?なに買ったのー??」

「ふふ、ユータ様の物ですよ・・まぁ、ユータ様のためにと言うよりも私たちのために必要なんですけどね。これを買うよう言いつかっておりましたから。」

差し出されたのはシンプルなネックレス。細い鎖の先にぽつんと小さな青い石がついていて、漂うかすかな魔力は魔道具の証だろう。

「きれい!これくれるの?・・ありがとう!」

「いえいえ、お礼はカロルス様に。これは子どもや恋人に渡す、きちんと実益のあるお守りです。ペアで持つと互いの位置を知ることが出来る魔道具ですよ。ただ、位置を知るには魔法が扱えなくてはいけませんので、私がこちらを身につけさせていただきますね。」

そう言った執事さんの左の小指を、青い石の嵌まった指輪が彩っていた。

「わあ!おそろいだね!」

「おそろい・・・・。」

これがあればオレもカロルス様たちも安心だし、過剰な心配をされなくて助かるよ。発信器だと思えば恋人に渡すのは重い気がするけど、この世界は危険がいっぱいだからなぁ・・必要だろうね。




「ただいま戻りました!」

「おう、おかえり!街は楽しかったか?疲れたろう?飯食ったら早く寝るんだぞ?」

「とっても!疲れてないよ!でも明日も遊びに行くから早く寝るよ!」

「・・・で、どうしたんだ?そちらの執事さんはなんでそんなにご機嫌なんだ?」

「・・・・・・なんのことでしょう?」

執事さんを振り返ってみるけど、特にいつもと変わらない。もしかして執事さんも久々の街が楽しかったのかな?

首を傾げたオレは、ニヤニヤするカロルス様と、そっぽを向く執事さんを残して自分の部屋に戻ったのだった。



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