第76話 トト


今日は朝から曇り空で、中々スッキリ目が覚めなくてゴロゴロしていると、プリメラが起こしに来てくれた。


「よっ・・・と!」

オレの体にじゃれついた長い体を抱えて立ち上がってみる・・・おお、プリメラを持ち上げられるようになった!結構重いからなあ・・抱っこしているというよりプリメラが上手く巻き付いてくれているから支えられるんだけど。なんだか止まり木になった気分だ・・もしかして、オレちょっと背が伸びたかもしれないね?!

あらあら、大きくなったわねえ、なんて言いそうな顔をしたプリメラは、どこか満足げだ。

ちょっとふらつきながら抱えて廊下を歩いていたら、ここで結構よ、としゅるしゅると下りて行ってしまう。気ままなお姉様だ。



本日のお勉強はセデス兄さんと二人。エリーシャ様はカニの件で話を詰めるためにしばらく王都に帰らないといけないって、数日前に泣く泣く出て行ったよ。本来ならカロルス様が動かないといけないんだけど、「この人は王都では役に立たないの・・」だって。貴族づきあいがイヤで田舎に引っ込んでるもんだから伝手やら人脈を持ってないらしい。領主様・・・それでいいのか・・。

何か決定したりすると連絡をくれるので、カロルス様もいずれは王都に呼ばれるんだけどね。向こうにも別宅があるらしいから、色々と本格的に動き出したらオレも一緒に王都に行けるんだ!ドキドキするなぁ!


「ユータ、もうこの辺りまで勉強が進んだら十分だよ。学校の入学にも問題ないし、一般常識も・・・・とりあえず頭では理解できてるでしょ?これ以上進めたら学校の勉強がつまらなくなっちゃうかも。」

「そうなの?お勉強、もうおわりなの・・?」

ちょっと残念に思う自分を可笑しく感じる・・勉強が終わって残念だなんて!

「・・ユータはお勉強が好きだよね・・羨ましいよ。学校で習うこと以外で知りたいことはないかい?ぼくが分かる範囲なら教えられるよ?」


「学校ってどんなところ?どんなことするの?あと、冒険者のことも聞きたい!あとあと・・・!」

「ふふ、ユータは色んなコトに興味津々だね。いいよ、学校のことは確かに知っておいた方がいいね。少しずつ教えていくね。冒険者のことは・・ぼくが冒険者じゃないから、一般的なことしかわからないけど・・。」


学校は6歳になって、ある程度の学費を支払えば誰でも行けるらしい。貧しい農村なんかでも読み書きやその知識が次世代を担う重要な財産になるので、優秀な子は村が補助して学校に行かせたりするらしい。貴族の子ももちろん来るけれど、王都の貴族学校の方が人気は高いんだって。ちなみにセデス兄さんは貴族学校に行っている。人脈のないカロルス様を継げば苦労すること間違いないので、小さいウチからの人脈作りのためにエリーシャ様と王都で生活していたようだ。エリーシャ様は色々と考えているんだな・・カロルス様、頑張れ・・!

学校は最長で7年だけど、それまでに家業の手伝いなどでばらばらと卒業していくことも多いらしい。最低3年いれば卒業とみなされるんだって。ちなみに貴族学校にはさらにその上に5年制の学校がある。


オレは今3歳・・ということにしているので、4歳で入学したら2年分も飛び級することになるけど、さすがにこの体格でそれ以上誤魔化すのは厳しいし、そんなに待っていられない!

それに、「何歳で入ってもどうせお前は目立つ。なら早い内に集団や世間一般になれておいた方がいい。『まだ4歳だから』で誤魔化せることもあるだろう。」だって。


聞いているとわくわくしてくるね・・もうすぐ行けるんだな・・!!

目を輝かせてそわそわするオレに、セデス兄さんはふふっと微笑んでわしわしと撫でてくれた。



さて、お昼ご飯をすませたら何をしようか?今日は訓練お休みの日。オレとしては毎日やりたいけれど、そんなに根を詰めなくてもいいって言われるんだ。

確かに、体は幼児だしあまり無理をするのもよくないかもしれないとも思う。今日は大人しく村でも行って遊ぼうかな。




「あ、ユータ!」

「ねえ、あなたトト見なかった?」


「えっ?見てないよ?いなくなっちゃったの?!おとなの人に言った?」

「ううん・・。」


村へ向かう道の途中、慌てた様子で声を掛けてきたのはリリアとキャロだ。トトはまだ3歳・・いなくなって大丈夫な年齢ではない。

・・・まあオレも3歳なんだけど。二人の様子から大分探したんだろう。


「とりあえず、ママとパパに知らせよっか?」

不安げな顔で頷き、村へ駆け戻った二人を見送り、オレもトトを探す。


「あ!ユータ!そっちにトト行ってねえ?オレと修行する約束だったのに、昼前からいないんだ。」

どうやらルッカスもトトを探してくれていたらしい。

「えっ?昼前からいないの?!」

てっきりついさっきいなくなったのかと思ったら・・もう日はてっぺんから傾き始めている。少なくとも3時間以上行方不明ということだ。この小さなヤクス村で3時間も見つからないなんてただ事ではない・・。


「オレ、カロルス様に知らせてくるから、ルッカスはリリアたちと合流して!みんなまとまってないと誰がいないのか分からないから、離れちゃダメだよ!」

「わ、わかった!」


大急ぎで館へ戻ってカロルス様に事情を伝える。

「ん?トトがいない?あいつはお前と違って大人しいし、そんな遠くに行くはずはないんだが・・・。」

「でも、昼前からいないんだって。いくら何かに夢中になっててもお腹がすく時間だよ?何時間も出てこないのはおかしいよ。」

「確かにな・・。ケガでもしてちゃコトだな。とりあえず村に行くぞ!セデス、お前はここにいて連絡を取り次いでくれ。こう言うのは人海戦術だ!兵の半分は捜索に出そうか。3人ひと組、組み分けと指揮はアルプロイに任せる。」

「はい。」


「・・私も出ます?」

「マリーか・・いや、グレイが俺と行くからお前達は館にいてくれ。」

「分かりました。」



村では村人総出であたりの捜索を開始している所だった。3人組は、村長宅で保護されてやや呆然としていた。なかなか事態が飲み込めないんだろうな・・自分たちで何とかしようと思ったんだろう。この状態でバラバラに探しに行かれたらそれこそ発見が遅れるところだった。


「みんな、大丈夫?」

「ん・・・。」

「ユータ・・。」

「あ・・わたっ・・わたしが・・ちゃんと・・見てなかったから!!」


キャロがぽろぽろと涙をこぼした。ずっと自分を責めていたんだろう。まだ6歳なのに・・ちゃんと面倒をみるなんてできるはずがないじゃないか・・・。

小さな子が後悔に泣く姿に胸が締め付けられる。

「キャロ、キャロ、だいじょうぶ。キャロはいつもがんばってるよ。りっぱなおねえさんなの知ってる。小さい子をね、ずっとみてることなんてできないんだよ。」

ぎゅっとして震える背中を撫で、ほんの少しだけ、ティアの穏やかな魔力を流してあげる。


「カロルス様も来たからね、もうだいじょうぶ。辛かったね・・キャロは、トトが帰ってきたらおかえりって迎えてあげて。」

「・・・うん・・。」

キャロの肩から、ふっと力が抜けた。まだ瞳は濡れているが、悲痛な様子は消えている。

にこっとしてキャロから離れると、オレも捜索に加わるべくカロルス様に同行する。


「・・・・お前・・将来心配だな・・。女に刺されないようにしろよ・・?」

う・・うん?なんで今そんな話に・・??

『?』の浮かぶオレの頭をわしわしと乱暴に撫でると、カロルス様はひょいとオレを右肩に担ぎ上げた。

ぐうんと上がった視界に目が回る。


「さ、お前の出番・・だろ?小さい声で話せよ?」

「・・うん!」


トト、どこに行ったの?無事でいて・・必ず見つけてみせるからね!!




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