第63話 フライ騒動
「ルー!できたよ!!熱いから冷まして食べてね!」
「俺は帰れと言ったが・・・。」
そう言いつつ鼻をひくひくさせてのっそりと起き上がる。
オレ達も即席テーブルにつくと、お皿とコップをそれぞれの前に出して水魔法でお水を注ぐ。お水にはちょっと生命魔法を混ぜると美味しくなると最近発見したんだ!これはオレの中での大発見。魔法が上手くなったらジュースとか出せないのかな?
はふっはふっと大きな口でフライを頬ばるルー。ラピスは小さなお口をめいっぱい開けてかぶりついている。ティアまで・・こんなの食べて大丈夫なのかと思ったけど、嬉しそうにつついている。見た目はみんな動物だけど・・ヒトが食べられるモノなら食べても大丈夫らしい。食べなくてもいいらしいけど。
「いただきまーす!」
ザクッ!っと頬ばると、熱々の衣の軽い食感。白身はぷりっとした弾力と共にほろりと崩れて、ほのかな甘みとうまみが広がる。ああ・・考えてみるとお魚って久しぶり!フライなんてこっちで初めてだ。海が近いのにお魚料理があんまり出てこないのは不思議だね。
そうだな・・厚みのあるフグとかキスみたいな感じ。臭みなんて全然なくてとっても美味しい!このお魚は大当たりだ。
はふはふしながら食べて、しまったと思う。もうすぐお昼ご飯だ・・お昼ご飯食べられなくなっちゃう。
ルーのために大皿にたくさんフライを置いておき、カロルス様たちにも食べさせてあげようと急いで帰る。ちなみに釣り上げたお魚はまだいる。持って帰る方法が思いつかなくて、ラピスの魔法で海水を浮かべて空中生け簀にしつつ見つかりにくくする魔法をかける、という手の込んだことをして持ち帰っている。館に帰ったら厨房の裏庭に即席生け簀を作って放り込んでおいた。
ちょうど厨房では昼食を出すところだ。
「ねえジフ、これも出してもいい?まだ熱々だよ!」
「あ?・・・なんで熱々の料理が外から届くんだよ・・。で、なんだこれ?」
「これ、お魚のフライ!」
「魚ぁ?これが魚??・・カロルス様はあんまり魚が好きじゃねーぞ?」
「これなら大丈夫!食べてみてよ!」
魚料理に限らず衣を纏って中身が分からない料理は一般的ではないらしく、切り身を揚げたフライに不思議そうな顔をしながら口に運ぶ。ジフにはトンカツを伝授してあるから、揚げ物自体に抵抗はないようだ。
・・・ザクっ。用心深く一口、あとはカッと目を見開いてがつがつと。待って待って!残しておいてよ!
「この野郎!また新たな料理を・・!これはあれか、魚のカツか!」
「うん、カツと一緒。お魚を揚げたものだよ!美味しいでしょ?」
「美味い!!これならカロルス様も喜ばれるだろう。これだけしかないのか?」
「だってジフが食べちゃうから・・お庭にまだ魚がいるよ。」
「は?庭に置いてるのか?」
「うん、こっち!」
・・・いっぱい怒られたオレは大人しく昼食の席についている。
うん、色々怒られた・・。お庭に生け簀を作るのも大きいお魚を捕るのも、魔法で運んで来るのも、そもそもあのお魚は危ないって事も・・えーと他にもあったかな?そういえば魔法使ったらダメって言われてたと今思い出した。魔法使ったのはラピスってことにしとこう・・。
目の前には渋い顔のカロルス様。
「お前・・・また無茶したな・・!クラウドフィッシュを狩るって・・一体なんでそんなことになったんだ?」
「無茶してないよ?釣りしようと思っただけだよ?お魚釣りはどうしてダメなの?」
「釣り?」
「・・釣り、このへんではやらないの?糸と針でお魚を釣り上げるの。」
「何言ってんだ?糸と針でお裁縫でもすんのかよ・・それでどうやって魚が捕れるんだ?」
「違うの!曲がった針に糸をつけて、針の先にエサをつけて・・」
言葉で説明するって難しい・・オレは釣りに使ってた道具を見せながら説明した。
このあたりでは釣りはしないみたい。魚を捕るのは漁師で、一般人が魚を捕ることはないそうだ・・そして漁師はそんなチマチマ1匹ずつ釣るなんて効率の悪いことはしないから、釣りをしようってなるヒトがいないってわけだね・・。
「いや、そもそもお前・・クラウドフィッシュは危険な魔物だぞ?」
「え?魔物?これ普通のお魚じゃないの?」
「フツーの魚が雷放つかよ!こいつがいるからこの辺りで漁はしねーんだぞ?」
「そうなんだ・・この辺りではお魚も魔法を使えるんだと思った・・。」
「そんなワケあるか!!魔法を使うのは魔物だ!」
お魚なのに水じゃなくて風系と相性のいい魔力だったから、変わった魚だなとは思ったんだけどね・・・そっか、魔物だったんだ。でも魔力弱かったけど・・・あれじゃ雷なんて大それたモノ出せるかなぁ・・。
「あいつらはな、群れで生活するから・・まるで雷雲みたいだっつうんでクラウドフィッシュって言うんだよ。網をかけようとしたら一斉に電撃放つんだぞ?積極的に襲っては来ないが漁師にとってかなり危険な相手だ。」
「・・そうなんだ・・群れで放つから電撃になるんだね・・。でも、1匹ずつだととっても魔力が弱いから、こんな風に釣り上げるならあんまり危なくないと思うよ?」
せいぜい強めの静電気ぐらいじゃなかろうか?それもまぁ痛いけど命がどうこうはならないと思う・・この世界に心臓ペースメーカーを使ってる人はいないだろうし。
「なんだと・・?ふむ・・・」
お?どうやら釣りにもスポットライトが当たりそうな気配がしてきた。そうなると、オレもお咎めなく釣り出来るかもしれないね。
「カロルス様、こいつがそのフライってやつです。カツみてえに魚を調理したモンで、味は俺が保証します。」
ジフが新たに揚げたフライを持ってやってきた。
「うむ・・まあ味見してみようか。」
あまり気乗りしない様子だが、変わった見た目に興味をそそられたのか、サクッ、と用心深く一口、あとはカッと目を見開いてがつがつと。あれ、この光景さっきも見たような。
大皿に盛られたフライを一気に半分以上がっついて、ふう・・と一息。
「・・・・・うまい・・。・・魚・・魚?これは魔物だから美味いのか?これが魚とは思えん・・!肉とは全く違うこの美味さ・・これは、ロクサレン地方を救うかもしれん・・。」
お魚のフライがなんだか勇者の登場みたいな扱いになっている・・。
「ユータ・・この料理、この地方で広めてもいいか?それとも、お前の国の秘伝か?」
「全然!全然そんなことないから!でも王都の方とか同じような料理があるんじゃないのかな?」
「いや、もしあったとしても魚のフライなんざ海の近くじゃなきゃできねーんだから、地方を救う料理になる可能性がある。しかも、漁の邪魔にしかならんクラウドフィッシュを使った料理だと・・ふむ、これは真剣に検討するか。」
名物料理かあ・・それならこうしなきゃね!
「じゃあ、お芋も一緒に揚げて添えてほしいな!オレの住んでた所じゃないけど、そういう名物料理のところがあるんだよ。美味しいよ!」
「芋を揚げるのか?ふーむ、そんなに美味いモノとは思えんが・・・。」
「庶民の味だから、高級なものじゃないけど、すごく人気があるんだよ。ちょっと待ってて!すぐに作れるから。」
ジフ、行くよ!と厨房へ駆け込むと、ジャガイモっぽい・・・というかこれはジャガイモだと思う。そのジャガイモを出してきてもらって、説明する間に油を熱しておく。
手早くカットしながら説明しつつ、とりあえずカロルス様の分を二度揚げして塩を振ったら一丁上がり!
時間もないし、どんなものか分かれば十分でしょう。カリっと感とか色んな工夫は料理人さんに任せよう!
「どうぞ!こうやって手でつまんで食べるの!色んな味のソースをつけて食べたりもするんだよ!」
「ほう・・・間食にはいいかもしれんな。油はやや高価だが芋なら価格も手ごろに抑えられるか。」
芋と聞いているので大した期待も持たずにつまみあげると口へ運んだ。
ふふふ・・カロルス様、あなたは魔性の芋を甘く見ているよ・・。
ぱくっと一口、あとはカッと目を見開いてがつがつと・・・あれ、この光景さっきも・・・・。
それにしてもカロルス様は胃が丈夫だ。こんなに油モノばっかり食べてるのにまだそんなにがっつけるとは・・。皿に盛られたフライドポテトはあっという間にカロルス様に吸い込まれていった。
その後は大変だ。この辺境の地に光明が射したと執事さんやらジフやらと追加のポテトを囲んで真剣な顔で額を突き合わせて議論している。なんだか大事になってしまった・・。
でもポテトやフライが手軽に食べられるようになったらありがたい。頑張って地方に広げていってもらいたいね。
オレはこれ幸いとその場を抜け出した。子どもは議論の邪魔になるでしょ?退散しますよ。
釣りは怒られるしまたルーの所に行っても怒られるし、何しよう?チル爺たち来ないかな?ちょっと期待して駆け足で部屋へ向かった。
ーボスンッ!
「わっ?」
「おわ!?」
完全に油断していたオレは、角を曲がった所で思い切り誰かに突っ込んだ。
驚いた顔でオレを見つめたのは、金茶の髪に緑の瞳のすらりとした青年。見たことのない人・・。
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