第62話 お魚
「うーん・・?おはよう・・?」
ふわふわして大きなものがオレにすりすりしている。のしかかられて結構重い・・こんなに大きいのは・・
薄く開けた瞳に映るのは、この世界でオレが初めて見たあの生き物。
「ふふ、オレのお部屋に来てくれるの、久しぶりじゃない?」
私だって忙しいのよ、プリメラはそう言いたげに大きな顔でぐいっとオレのほっぺたを押した。
さらさらしたお布団の感触と、ふわふわした温かく柔らかなプリメラの感触。気持ちいいなぁ・・。大きな蛇の胴体を抱きしめて微睡むなんて、なかなかない機会だ。
うとうとしていたら、するすると腕の中からプリメラが出て行ってしまう。残念だなあと思っていたら、今度はオレの背中の下に潜り込んでぐいぐいと押してくる。
「・・・なーに?起きるの?」
ねぼすけさん、起きるのよ!まるでそんな風に言われている気がする。なぜプリメラはお姉さんっぽい気がするんだろうね・・。
はいはい・・・起きますよ。気持ちのいい微睡みから渋々体を起こすと、んんーーっと伸びをした。
「ラピス、ティア~おはよ!もう起きるんだって!」
ラピスは今日はティアの横で丸くなっていた。ちっこい2匹がくっついて寝ているのはとってもかわいらしい・・オレもその中に混じりたいよ。
オレが起きたらプリメラは気が済んだのかするすると出て行ってしまった・・ホントに起こしに来ただけなのか・・こんな目覚ましなら毎日快適に目覚められそうだ。
起こされちゃったし、本を読んで朝ご飯を食べたら海岸に向かった。特に目的はないんだけど、海に来るだけでオレは楽しい。釣りとかしてみたいねえ・・・ふと考えたらすごくやりたくなってきた。
一旦館に戻って、エサになりそうなものを厨房から見繕い、丈夫そうな料理用の糸ももらった。随分太い糸だから、魚から丸見えだね・・まあ、釣れなくても楽しめたらいいや。針はね、ちょっとやってみたいことがあるんだ!
「ぼっちゃん、糸なんて何に使うんです?」
「楽しいこと!」
釣れなかったら照れくさいから誤魔化して、いざ出陣!!
途中でがらくた置き場から釘を拾って、手頃な棒を探しながら歩く。どんなお魚がいるかな?そのへんの棒で大丈夫かな?
とりあえず林道の近くで丈夫そうな棒を拾うと、海岸沿いの手頃な岩場に陣取った。
釘を手に取ると、これは鉱物・・と自分に言い聞かせて集中する。鉄だって鉱石だったんだから変形させられるんじゃない?そう思って錆を落としつつ少しずつ形を整えていく。
「できたー!・・う・・うーんちょっと大きいけど・・まぁいいか!」
初めての釣り針!一体何を釣るんだってぐらい大きな針と糸を結んだら、エサをつけて海に放り込む。いいんだ、釣れなくてもこうしてのんびりしたいなって思ったんだから。太公望みたいな気分に浸るんだから。
砂浜と違って黒々とした海は海底の深さを物語り、岩場に当たる波も白く砕けて荒々しく感じる。小さな体は大波ひとつで簡単に攫われてしまいそうだ。それに、釣り針が結構大きいから・・サメとかいたら怖いな・・引っ張られて落ちないように気をつけよう・・。
少し怖くなったオレは自分の周りに砦を作った。絶対落ちないように周囲を囲って、釣り竿を出す穴とのぞき窓を開けておく。土魔法なら手慣れたもので、このくらいの作業なら朝飯前だ。
「大物がかかるといいねぇ。」
そう言いながらのんびりと天井に窓を開けて空を眺める。お弁当もってきてゆっくりするのもいいね。
「きゅきゅう!」「ピィッ!」
「わわっ!」
さてのんびり、と思ったらぐいんと竿を引かれる。あらら、幼児の力じゃ全然ダメだ。咄嗟に竿ごと石に埋め込んで固定してしまう。ピシピシと即席の竿に亀裂が入っていく・・でも、糸自体を岩に固定してしまえば・・・竿がどうなっても大丈夫!糸が持てばね・・。
「・・でも、これどうやって引いたらいいんだろ。」
「きゅきゅ?」
ラピスが引っ張り上げる?と聞いてくれるけど、毎回ラピスに頼んでいたらオレが楽しくない・・ここは水魔法の練習を兼ねて色々挑戦してみよう!
糸に手を添えると、索敵の時と同じように、水中に魔力を広げる・・・・・あ、いた!うーん、これを・・そうだな、水流で包んで・・ぐいぐい押してきたらどうだろう?陸からオレが糸を引いて、水中から水流で押す。これなら釣りと言えるんじゃないだろうか?!
「行くよーー!そぉーれ!そぉーれ!!」
「ピッピ!ピッピ!」「きゅ!きゅ!きゅっきゅう!」
ラピスとティアも腕に乗ってオレの真似して参加しているつもりらしい。参加してほしいのは声じゃなくて引っ張る方だけど・・・オレお歌を歌ってるわけじゃないんだなぁ・・まあ楽しそうだからいいか。
水流で押すと同時に引いて、引き戻されないよう固定・・この繰り返しで近づいてくる魚影!
「わぁー!大物だ~!」
なんとかたぐり寄せるのに成功して、岩場をピチピチ跳ねるお魚。あ・・これどうやって持って帰ろう・・?そもそも食べられるのかなあ?とりあえず土魔法で生け簀を作って放り込んでおいた。知らない魚はね、毒があったりすると困るので不用意に触ったらいけないんだよ!これは地球での知恵。ここでは風やら土やらの魔法で作業できるからお魚も傷つかないしとっても便利!これはこっちの世界での知恵?
「よーし次!」
オレはうきうきしながら糸を放り込んだ。この辺りは同じ種類のお魚が多いのか、どんどん釣れる。
うん?なんだかお魚にも魔力を感じる。こっちの世界では植物でもお魚でもみんな魔力を持ってるんだね!やっぱり虫なんかも魔法を使ったりするんだろうか・・。
お魚に魔法でやられちゃうとかシャレにならないよ・・感じるのはほんのわずかな魔力だし、ドレインで集めて・・・吸収したくないから魔石にしとこう。カバンから相性のいい魔石のカケラを取り出して種石にすると、数匹分のお魚の魔力で小さな魔石ができた。これなら売っても大丈夫な大きさじゃないかな。
「お魚いっぱい捕れたね!でもこれ食べられるのかな・・?」
「ねえ!ルー!これって食べられるー?」
「・・・・・てめ・・・・そんなことでいちいち来るんじゃねえ!!」
怒られた。でも一番聞きやすいのがルーなんだもん。
「クラウドフィッシュ・・食える。・・・捕れたらな。・・・ホラ帰れ!生臭ぇ!」
ちらっと見て顔をしかめると素っ気なく答えてくれる。食べられるんだ!じゃあルーにも食べさせてあげよう!
いそいそとキッチンスペースを作ると魚を捌く。捕れた魚はオレの片腕から両腕を広げたぐらいの大きな魚だ。こんな魚を釣り上げ(?)られるのは魔法さまさまだね!
この大きな魚を小さなナイフで捌くのは結構大変だ・・。
身は白身っぽくて厚みがある。うん、美味しそうだよ?寄生虫とかいたら嫌だからとりあえず焼いて味見。
「うーん、おいしいけど・・焼いて食べるには淡泊かもね。」
ほろほろっとした身は美味しいけれど、焼くより煮付けやフライの方が合いそうだ。ムニエルでも合うかな?煮付けと言えば和風がいいオレは迷わずフライを選択する。フェアリーサークルでこそっと帰ってこそっと材料を調達。
ジュワワ~!ジュワジュワジュワ・・・
ラピスに火を任せてせっせとお魚フライを揚げていく。うーんいい香り!
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