第47話 天狐と管狐とフェリティアと
久しぶりのオレの部屋。
自分の部屋なのに何となくどきどきしながら扉を開ける。最後に出たときとなにも変わらず、メイドさん達がキレイに整えてくれているんだなと嬉しく思いながら、窓辺に近付く。フェリティア、枯れちゃってるだろうなぁ・・ごめんね。
申し訳なく思いながらかごをのぞき込んだんだけど・・・
「あ・・あれ??」
なにこれ??
えっと・・・・・なにこれ???
いくら目をぱちくりさせても目の前の光景は変わらない。
何がどうなっているのかサッパリ分からないけど、フェリティアのかごには、ころりとひとつの、『たまご』が転がっていた。
どう見てもたまごだ・・・恐る恐る手に取ってみる・・淡いグリーンでウズラと鶏の間くらいの大きさだ。
いや、卵はともかく・・フェリティアはどこにいったの??枯れちゃったからメイドさんが片付けたのかな?枯れきっていなかったら回復できないかなと思っていたので少し残念だ。
森から一緒に帰ってきた方のフェリティアもお外に出してあげようと、かごを開けてみる。
「わっ?!」
ふわわーっと柔らかな光が溢れた。
卵とフェリティアが光ってる!?
何事かと慌ててしまったけれど、この光が悪い物とは思えない。気持ちのいい朝の光みたいだ。
と、光の中からぴょいと小さなものが飛び出してきた。
「ピィ!」
それはしばし飛び回ると、ちょんと窓辺にとまった。
淡い緑の・・毛玉みたいな丸っこい・・小鳥だ。かわいらしい以外に特におかしなところもない、普通の鳥だ・・スズメより小さいくらい。
オレが手に取っていたたまごは影も形もなくなっている。
「あれっ?!フェリティアがない!」
たまごが消えた不思議もさることながら、かごの中にさっきまで入っていたフェリティアまで消えている!ど、どうして?!
フェリティアならそこにいるじゃない。
焦るオレに、ラピスは事も無げに言う。
「え・・『いる』って・・この鳥のこと?」
小鳥が答えるようにチョンチョンと近づいて来て、一声鳴いた。
そうだとラピスも答える。
「フェリティアって・・・集めると鳥が生まれるの??」
そんなわけない、とラピスがコロコロ転げ回ってきゅーきゅー笑っている。
フェリティアは世界樹の目だから、気になるものがあれば、移動できる小鳥の姿をとることがあるそうな……けれど、ここにあるフェリティアは大地との繋がりがないから、エネルギーが足りなくて休眠体……卵の状態で留まっていたんだって。そっか、そこにオレが新たなフェリティアを連れてきたから、そのエネルギーも含めて一緒になることで生まれ(?)たんだね。
「ピピッ」
フェリティアは嬉しそうにチョンチョン、チョンチョンとオレに近づいて来る。手を差し出すと喜んで飛び乗った。小鳥の姿をしているけど、フェリティアの時と同じように魔素を放出しているし、同じ魔力だ。本当に姿が変わっただけなんだね!
「この姿ならどこにでも行けるね?どこに行きたいのかな?」
オレがにっこりすると、何故か不服そうな気持ちが伝わってくる。
「ピィ!」
フェリティアは肩に乗ると、オレの首すじにぴとっとくっついた。ふわっと羽毛の感触がくすぐったい。
「・・・?もしかして、ここにいたいの?」
「ピィ!!」
喜びの感情と共に、オレのほっぺたに頭をスリスリした。
同時に覚えのあるあの感覚・・これ、従魔契約の・・?
世界樹の目なのに、この姿だったら一羽の鳥として認識されるのかな??せっかく自由の身なのに契約しちゃっていいの??オレが困っていると、フェリティアは再び目の前の窓枠にとまると、悲しげな瞳でオレを見つめた。
「えーと、一緒にいる?・・ホントにいいの?」
「ピピィ!」
喜ぶフェリティアと、よろしくねとじゃれ合うラピス。フェリティアは見た目が普通の小鳥なので騒がれることはなさそうだ。従魔であることさえバレなきゃペットで通用するのが助かる。
そうだ、名前を考えないとね!
「フェリティアのままでもいいけど・・他にフェリティアがあるときにややこしいよね・・えっと・・じゃあ、『ティア』でどう?」
「ピピッ!」
いいよ!と言ってくれたようだ。ラピスは今やなんて言ってるかバッチリ分かるけれど、ティアはなんとなく気持ちが伝わる感じだ。言葉までは分からない・・普通の小鳥っぽいから言葉で話したりしないのかもしれないけど。
小さな仲間が増えたなぁと、にこにこしながらじゃれ合う2匹を眺めていると、窓の外から声がする。
「あーーーー!!!」「いた!いたよ!!」「どこいってたの!」
懐かしい声・・・妖精さん達だ!
「久しぶり!あのね、ちょっとわるい人にさらわれてたんだよ!」
「・・・それは『ちょっとお出かけ』のノリで言うセリフではないのぅ・・。」
チル爺!!
「久しぶりだの。何度来てもおらんから心配しておったのじゃ。無事で・・・無事かのぅ・・?まぁ何にせよ今無事で良かったわい。」
「うん!ありがとう!色々あったけど楽しいことも良いことも有って良かったよ!」
「・・・・大物じゃのぅ・・。」
「あ、そうだ、チル爺天狐って知ってる?」
「きゅ!」
チル爺はラピスを見て、目と口を限界まで開けてピシリと固まった。
チル爺、いつも目がショボショボしてるのにこんなに大きく開けられるんだ・・。
「・・てんこさま?」「これが、てんこさま・・」「わあ・・」
珍しく妖精トリオが小さく囁くように声を潜めてラピスを見つめている。
「・・ねえラピス、どうしてチル爺は固まってるの?」
知らなーいとしっぽを振るラピス。天狐は妖精のところでも珍しいからじゃないの?と。そうか、チル爺達でも珍しいんだね!
パクパク、パクパクとチル爺が口を開閉しているけど、音が出ていない。
「なあに?」
「・・・・なんで、天狐様と会話できるんじゃ・・?」
耳を寄せると、小さな小さな声が絞り出された。目はまだ大きなままでラピスに固定されている。
「なんでって・・あ、従魔契約したからじゃない?」
「なんっ・・!じゅっ・・・・・じゅっ・・従魔じゃとーーー!!!ばっバカもん!!なんと罰当たりな!」
真っ赤になったチル爺が突然怒りだした。やっと動くようになったと思ったら・・。
「どうして怒るの?」
「どうしてもこうしてもあるか!天狐様は東方聖域のご神体であらせられるぞ!魔物のように扱うなど・・!!」
ぼふっ!
ラピスがチル爺にしっぽアタックした。
「きゅきゅきゅ!きゅきゅー!」
何やら怒っているようだ。
ラピスはジュリアルスと違うの!ユータといるの!ラピスが契約したからこれでいいの!!
ラピス~ありがとう!オレもラピスと一緒にいる契約して良かったよ~!
「もっ・・申し訳・・・!!」
チル爺はラピスに怒られて今度は青くなって平身低頭だ。とりあえずオレが無理に契約したんじゃないことが伝わったなら良かったよ。そもそも無理に契約なんてできるものなんだろうか。
「ところでジュリアルスってなに?」
ジュリアルスは天狐。妖精のところでは神様みたいなものなの。
「ジュリアルス様とはもしや天狐様のお名前・・?ならば聖域の守護獣として妖精が奉っている天狐様のことじゃ・・。」
チル爺はラピスに怒られてちょっと堪えたの半分、身近に触れあえた喜びが半分てところだ。何にせよ再起動してくれて良かったよ。
「聖域?守護獣??うーん、妖精の守護獣は管狐じゃないの?・・アリス。」
ぽんっと現われたアリスに再びフリーズしてしまったチル爺。もう、めんどくさいなぁ・・。
「くだぎつね!」「くだぎつねはてんこさまの、みつかいさまなの!」「ようせいのもりにいるの!」
トリオの方がアリスに群がる。
「管狐は妖精の森を守る役目があるの?」
「ちがうよ!」「ううん、そうじゃないの。」「たまたまなの!」
うん?守護獣じゃないの?たまたま・・?
「くだぎつねもおなじもりにすんでるの!」「だからわるいヤツをやっつけてくれるの。」「ようせいがいてもいなくてもおなじなの!」
あーなるほど、共生してる感じなんだね・・聖域には天狐がいて、妖精の森には管狐がいると。
聖域から出てきた管狐は妖精の森に住むことが多いの、とラピスが説明する。聖域には管狐も天狐もいっぱいいるのかな?楽しそうだなあ。
「おぬし・・その、管狐も・・?」
「うん、直接契約してないけど、ラピスから生まれたからアリスも従魔なんだって!」
チル爺が絶句している。
あ、そうだ・・また説明するたびにフリーズされたら面倒だから言っておこう。
「チル爺、あとフェリティアが鳥になったの。それで従魔契約したいって言ってたから、ティアも従魔になったの。」
「ピピィ!」
よろしくね、と言うようにティアが進み出て一声鳴いた。
「・・・・・・・。」
「・・チル爺?!」
白目をむいたチル爺はばたーんと後ろにひっくり返った・・。
うーん、いっぺんに言っても面倒だったかもしれない・・。
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