第32話 豪快に行こう!
さて、森の中を歩き始めたオレたち。魔力の網を張ると、面白いように魔物の位置がわかる・・分かるんだけど、これはしんどい。もうちょっと効率よくできないもんだろうか?ずーっと監視カメラ見ながら歩いてるみたいで大変だし、むしろ見落としそうだ。うーん、こう・・もっと単純にしてレーダーみたいに、近くに魔物が来たときだけアラームが鳴るとか!魔法なんだしなんでもできるんじゃないの?
外側に行くほど魔力を薄く、オレに近づくほど魔力を濃く調整し、試行錯誤を繰り返す。んーできなくはなさそう・・だけど慣れがいるなぁ。これはこれで疲れるよ・・ずっと展開していられるかな・・。・・よし!帰るまでにこれをマスターすることを目標にしよう!
疲れるけど優秀なレーダーもどきのおかげで、今のところ魔物と遭遇することなく歩けている。これならピクニックと変わらないね!峡谷は本当に魔物が少ないみたいだ。
けど・・・それにしても幼児の足は短い・・・後ろを振り返っていくらも変わらない景色にため息をつく。これ、いつになったら帰れるんだろうか・・・馬とかいたら・・いや、いても乗れないか。
「きゅう!」
飛んだらいいのに、とラピスが言う・・無茶言わないで・・。
でも、風で吹っ飛ぶことならできるなぁ。むしろその方が早いだろうか・・?でもこんな森で吹っ飛んだら木々や岸壁に激突してお陀仏しそうだ。
うーーん・・
取り立てていいアイディアも浮かばないまま地道にテクテクと歩いていると、レーダーもどきが魔物を捉えた。捉えたが・・ヤバイ、すごい速度でこっちに向かってくる!
「わ、わ・・ラピス!魔物が来るよ!速すぎる!逃げられないっ!」
もう、すぐにでも遭遇してしまう!たまたまこっちへ走っているだけであることを祈って進行方向から逸れた位置に隠れる。オレの前をふよふよ飛んでいたラピスがオレの肩に乗った。
ドドッドドッ
メキバキ!
藪や細い木々をものともせずに突っ込んできたのは、どでかい・・・熊?黄色っぽいまだら色をしているのが違和感あるけど、巨大な熊だ。突っ込んできたと思ったら立ち止まってフンフンとあたりを嗅ぎ始め、オレはゾッとする。オレのニオイを辿ってきたんだろうか・・ニオイなんて消せないし絶対見つかっちゃう・・あのスピード、巨体・・風は効かないだろうし光で目くらまししたぐらいじゃ振り切れない・・!
どうしよう、どうしよう・・・必死に考えを巡らせるが、何も浮かばないうちに黄色い熊がギラギラした目をこちらに向けた。
ゴアアア!
ビリビリするような太い声でひと鳴きすると、迷わずこちらへ駈けてくる・・!4mはあるだろうか、その迫力に足が今にも崩れ落ちそうに震える。
に・・逃げなきゃ・・
這ってでも転がってでもここから離れなくては・・そう自分を奮い立たせた時、すいっと光が熊とオレの間に入った。
・・あっ!!ラピス?!
「きゅーーっ!!」
ささやかな鳴き声を張り上げるラピスを、慌てて自分の方へ引き寄せようとしたその時、
ドドドッ!
アオオオーゥ!
熊の悲鳴が響き渡る。オレは呆然と目の前に浮かぶラピスと熊を交互に見た。空中で四肢を踏ん張って堂々と胸を張る小さなラピス。対する巨大な熊は・・全身に氷の槍を生やして倒れ伏していた。
「え・・・なに?これ、ラピスが・・?」
唖然とした呟きに、もちろん!と振りかえったラピスが嬉しげに手のひらに乗った。
褒めて!と全身でアピールしている。視線は熊にとらわれたまま、わさわさとラピスの全身を撫でくりまわしていると、少し落ち着いてきた。オレの手は小さいけど、小さなラピスなら十分包み込める。手のひら全体でわしわしやると、きゃっきゃと喜んだ。・・・・こんなちっさくてかわいいのに。オレはもう一度チラリと熊を見た・・熊はもう、動かない。これを、ラピスが・・?
「ラピス、すごいね・・・魔法、使えたんだ・・。」
違うよ!・・ラピスが言う。使えたんじゃないよ、使えるようになったんだよ!と。
え?そうなの?・・オレが治療したあの時に使えるようになったそうだ・・・でも今まで使えなかった魔法をいきなり使えるなんて・・オレも妖精達も練習が必要なのに。けれどラピスたちにとっての魔法は呼吸するのと同じように、使えるのが正常で、使えないときが異常だったという認識らしい。オレも呼吸するように使えるようになりたいもんだ。
あれ?じゃあ、ラピスオレより上手く魔法使えるよね?
「ねえラピス、じゃあオレを風に乗せて運んだりできないの?」
うーんと考えたラピスは、首をふった。風で運ぶのはやはり操作が難しいらしい。オレは柔らかいから、ぶつけたらつぶれちゃう、と怖いことを言われたので諦める。と、何か思いついたらしいラピスが言う。
ゆーたは、泳げる?と。
うーんこの体になってから泳いだことはないけど、昔は泳ぐの得意だったから多分、泳げるよ。でもなんで?答えてから、はたと気付く。あ・・川か!なるほど、中央の川の流れがオレたちの向かう方角と同じなら、
船?と首を傾げながらラピスについて池に向かうと・・
「うわぁ・・。」
池はそう大きくもなく、直径10m前後だろうか。でも、そこに浮かぶものは大きかった。この世界ではなんでもでかいのだろうか?大きな桶みたいな葉っぱがびっしりと浮かんでいて・・ちょっと怖い。オオオニバスって知ってるだろうか?水面に丸い巨大な葉っぱを浮かべる植物で、実際地球にあったんだけど・・それに似ている。ただ、もう少し大きくて、本当の桶みたいにフチが深くがっしり頑丈にした感じだ。
これに乗れと?確かに乗れそうだけど・・・これ、乗ったらぱくっと食べられるとかないよね?ちょっと怖かったので、丈夫そうな一枚を選んだら風を使って岸まで引き上げてみた。細い茎が繋がっていたのでナイフで切って、よっこいしょと乗ってみる。乗り込む時にフチに乗り上げる形になったけどびくともしなかった。大丈夫そうだね!
よし、これを川まで運・・・・あれ?これどうやって運ぶの?葉っぱだけど・・・重いよ?オレ運べない・・。
どうしよう、と葉っぱに乗ったままラピスを見上げる。ラピスは、オレの顔の前に浮かびながら、なにが?という顔だ。
乗れた?と聞かれたのでとりあえず乗れそうだと答える。ラピスはオレの肩に乗ると、楽しそうに言った。
「きゅうううう!」
しゅっぱーーつ!・・・・と。
え?出発??
疑問符を浮かべるオレの体が、突然浮遊感に襲われ、思わず葉っぱにしがみつく。
ドドッドドドドドドォ!!
「うっひゃああああああ!!」
情けない悲鳴が後ろへ尾を引いていく。上へ下へ、激しく揺さぶられながらもの凄いスピードで景色が流れていく。ザバッザバッと波がかかり全身がびしょ濡れだが、オレはそれどころではない。突如始まった森の中を駆け抜けるサーフィン・・・いや、ラフティングだろうか?葉っぱから放り出されないよう必死でしがみつくので精一杯だ。
ドドドドドォ!
バキバキバキ!
「うわああああ-!」
鉄砲水のごとく流れる大量の水を呼び出して、オレの乗る葉っぱを乗せて運ぶという・・なんとも豪快すぎる力技をやってのけたのは、このちっこいラピス。オレ達が通った後は見るも無惨な森林破壊の跡が広がっている・・・ラピスは繊細なコントロールが苦手なようだ。
・・・にしてもこれは大胆すぎるだろうー!確かに速い・・速いけどぉーーー!オレの悲鳴はラピスが疲れてへばるまで、森の悲鳴と共に続くのだった。
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