第12話 絶叫デイ
魔法がイメージでできるなら、他の魔法も使えるんじゃないの?
絶好調のオレは、さっそく実践しようと意気込んだ。
-コンコン。
・・と、出鼻を挫くようにノックの音が響く。
はーいと返事をする前に、ガチャリと入ってきたのはいつものマリーさん。マリーさんていつも返事を待たずに入ってくるよね・・まあオレが寝ちゃってることがしばしばあるからかな。
「ユータ様、明後日は旦那様がハイカリクの街に行かれます。ご一緒されますか?」
「いっていいの?!いく!ぜったいいく!」
ハイカリクは町でも村でもなく、「街」なのだ!つまり、都会!!このあたりは辺境の中でもかなり田舎の部類なので、文明的な所へ行ける機会なんてそうそうなくて、普通の村人は年に数回行ければいい方だ。乗合馬車は日に1本だし、来ないこともある。
「そう言われると思いました。では、明後日のご衣装を選びに行きましょう。」
「・・・服?いまから?どうして??」
「外出用のご衣装は色々ありますから、何がお似合いになるか選んでいただかなくては。」
「・・おれ、なんでもいいです・・」
「いえっ!是非とも着ていただかなくてはいけません!!」
外出の二日前に服を選ぶなんて・・普通なの?オレそもそも貴族じゃないしいつもの外出着で全く問題ないハズだけど?けれど、抵抗むなしく強引にマリーさんに拉致されていく。ああ・・オレの魔法自主練の時間が・・。
マリーさんはぐいぐい廊下を進み、とある一室にオレを放り込んだ。
ガチャ!
「「「「お待ちしておりました」」」」
ひいっ!?
ドアを開けたら、目を爛々とさせた大勢のメイドさんが目に飛びこんだ。な、なんでこんなたくさんメイドさんが?!思わず後ずさるオレに、方々から手が伸ばされた。きゃあきゃあ言いながら・・よってたかってひっぺがされるわ何やら着せられるわ・・・狼の群れに放り込まれた子羊の気分で、オレはされるがままに翻弄された。
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「あ・・あのだな・・館にメイドがおらんのだが・・・。その・・ぼうず、めしだぞ。」
入室から数時間後、昼食の時間になんと領主様直々に知らせに来るという異常事態が発生。
オオカミの群れから救出されたオレは虚ろな目をしていた・・。子羊どころか、洗濯機の中の洗濯物の気持ちだった。
・・・・これでやっと解放されたと一息ついたオレに、無情な一言が突き刺ささる。
「では、また明日お願いしますね♪」
メイドさんたちは、なんだかツヤツヤしている。
・・ぽん、とカロルス様が無言で肩に手を置いた。
ヘロヘロしながら昼食の席につく。今日は・・・小ぶりの芋と、同じくらいのサイズのお肉がごろごろと入ったスープに、固いパン。オレのスープは火傷しないようにほどよく冷ましてくれている。ジフ料理長はあんなナリでどこのゴロツキかという口調だが、料理は繊細だし、こんな風に細かいところに気が利くできるヤツなのだ。ほこほこした芋を口いっぱいに頬ばると、おふくろの味みたいな、優しい風味がした。
カロルス様は、なんで街へ行くのか食べながら話してくれた。手紙を出すついでに必要なモノを買いそろえたいということらしい。長時間になるし、距離もあるから安全策をとって向こうで1泊するらしい。なんと!初めてのお泊まり付き!!
「ところでユータはこちらで買い物したことはあるのか?」
「・・・?買い物は したことあります。」
買い物しない人なんていないだろう・・きょとんとして答えたが、オレ今2歳児だ・・普通買い物しないな。
「ああ、そうじゃなくてな、こっちの貨幣とお前の使ってた貨幣は同じか?島国だったんだろう?違っていることも多いからな。」
血族だけで続いている小さな島国、というか寧ろ民族と言うべきか、そういった国と言えないような共同体は結構あるらしい。航路が発達していないから未発見の島なんてザラにあるみたいだしね。だから島単位の国だったら、国交がそもそもないので貨幣が全く違うことの方が多いみたいだ。そういえばオレこの世界のお金って見たことないや・・
「こちらのお金のこと、ぜんぜん わかりません。」
「まぁそうだろうよ。ユータが金を払うことはないが、知らんと困るだろうからとりあえず貨幣の種類だけでも勉強しとくか。」
昼食後、テーブルについたままお金の講義を受ける。
この国の貨幣単位は「レル」で、貨幣の種類はこんな感じ
1レル=銭貨
10レル=半銅貨
100レル=銅貨
1000レル=銀貨
10000レル=金貨
そのまま「円」に直して考えて良さそうだ。ちなみに、金貨とか銀貨にも半金貨とかあるらしい・・半貨幣はそのまんま、普通に貨幣を真っ二つに割ったモノなんだよ・・ワイルド・・。でも計算が面倒だからあんまり一般的に使わないみたい。このあたりみたいに明らかに農村!ってトコだと学校もないし、計算は出来ないのが普通みたいだね。
「これなら だいじょうぶです。」
そもそも1円・・じゃなかった、1レルも持ってないんだから、細かく日本円に換算して考える必要はないし、円じゃなくてレルって言えばそれでいいだけなのは楽ちんだ。貨幣も大変わかりやすくてよろしい。これも学のない人が多いが故の工夫なんだろうな。ホッとして告げると、カロルス様の目がイタズラっぽく光った。
「ほほ~お前はこっち方面にも明るいか。じゃあ簡単なクイズを出してやろう!」
そう言うと、本当に簡単な計算問題を出してくる。『ユータくんがひとつ100円のりんごを3つ買いました、合計いくらでしょう?』みたいなヤツだ。ちょっぴりジト目でカロルス様を見ながら答えていく。どうやらちょっとずつレベルを上げていくようだ・・いくつか問題に答えたら、おもむろに執事さんに頼んで1枚の紙をもってきた。
「よし、最後の問題だ!こちらの納品書、実は1カ所間違っているところがあります。さてどこだ?」
簡単な問題に答えて「正解~!」と盛大に褒められることがちょっと楽しくなってきたオレは、ジっと手元の納品書?を眺める。うん、納品書とは名ばかりの・・ええと、手書きのレシートみたいなものだ。
・にんじん 100レル 15個 1500レル
みたいな。拍子抜けしたオレは1列目からサラッと見て行く。納品数はそこそこ多くて、30項目に及んでいたが、12項目目に間違いを見つけた。なんだ、簡単だったなと答えようとしつつ、品名自体に興味があったので何となく目は最後の項目まで追っていた。・・ん?ははーん、引っかけ問題だな!
「さすがに無理だったな、わはははは!」
顔を上げると、カロルス様が盛大に煽ってくる。ふふん!甘いな、ちゃんと正解を見つけたぞ!
「12こうもくめ、でしょう?」
「・・・・」
カロルス様が真顔になって沈黙する。オレは自信をもって答えた。
「それと、28こうもくめ、です!ひっかかりませんよ!」
そうなのだ。カロルス様は間違いは一つだと言ったけど、実は最後の方にもう一つあった。一つ見つけてその場で答えていたら笑われていたんだろう。
カロルス様は無言のまま納品書を受け取ると、執事さんの顔を見て、もう一度納品書を見て、オレの顔をみて、納品書を執事さんに返すとテーブルに突っ伏した。
「・・・・・けた・・。」
「・・・え?」
「・・・2歳児に負けたぁぁーーー!!」
突然大声をあげたカロルス様にビクリと驚いて、椅子から転げ落ちそうになる。
ぐらっと傾いだ肩を、強い腕がガシリと掴んだ。
「お前・・・・一体何したらそうなるんだ・・・?!」
肩を掴んで詰め寄られながら、抽象的な言葉に目を白黒させた。どうやらやりすぎだったらしい・・地球だったら英才教育したらアリなレベルだと思ったんだけどな。
ちなみに、あの納品書は12項目目の間違いに気付いて修正を命じた原本だったらしい。つまり28項目目は間違いのまま提出されるところだったワケだ。なんだかザルなチェックだなあ。
その後、散々カロルス様に詰め寄られたよ・・給料出すからお前納品書のチェックしろとまで言われてしまった・・。再びヘロヘロになりながら自室の扉を開ける。魔法の練習への意欲なんて吹っ飛んでしまった・・もう今日はゴロゴロして過ごそうかな・・。
ガチャリ、と扉を開けた途端、何かがオレに突進してきた。
「おそいよー!」「まってたの!」「きたよー!」
「わわっ!・・あっ!妖精さんー!!オレもずいぶん まってたよー!!」
「じゃあ まほうしよー!」
賑やかな声が響く。今は頭にもガンガンと響く・・今から魔法教室か・・ちょ、ちょっと補給させてもらおうかな。
「ちょっと、まってね・・・・」
妖精涙滴のところへ行くと、回路接続。ぎゅんぎゅん魔力を回すと、くたくただった身体が復活していく。
「・・ぬ・・ぬし、それはなんじゃ?!」
あっ・・チル爺いたんだ!
机の端にちょこんと腰掛けていたチル爺が、オレを見て目を見張っている。
「あ、チル爺こんにちは!・・こうすると、とってもきもちいいし らくになるよ。やってみて!」
チル爺は小さな身体をプルプルさせた。みるみる顔が紅潮していく。
「・・そんな・・そんなことできるヤツがおるかぁぁーー!!」
えぇーー??
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