第11話 黒い影
そっと・・そうっと・・・
しのび足で這いずる影に近づくと、目を凝らした。窓からの月明かりが、黒い影をほんのり照らしている。・・ふわっとした体毛、大きめの耳、ちょっととがった鼻。
一見して黒いねずみかと思ったけど・・これ・・・・・・コウモリ?腕の部分には小さく畳まれた翼膜が見えた。どうやら
と、コウモリがオレに気付いたようで、ビクリと小さな身体を震わせてこちらを見た。飛べたらすぐさま逃げていたのだろう・・見るからに焦った様子で、視線がオレと
「だいじょうぶだよ、それがほしいの?あげるよ?」
思わずコウモリに話しかけて、驚かさないようゆっくりと近づく。お目当てらしい
「どうぞ」
言葉は分からなくても、雰囲気が伝わらないかと声をかける。それでも逡巡していたらしきコウモリだが、サッと素早く花を口に入れた。すると、ほわっと花のいい香りと共に、微かな光がコウモリを包んだ。光が消えた頃には、先ほどまでうずくまっていたコウモリが、ちゃんと身体を起こしている。わさわさと試すように翼を動かすと、いざ飛び立たん!と机の上からジャンプしたものの、ちっとも高度が上がらず敢えなく墜落した。
「だ、だいじょうぶ?!」
思わず両手ですくいあげると、小動物特有の柔らかく温かい感触と、わずかな重み。どことなく気落ちした様子のコウモリは、オレが危害を加えないのが分かったのか大人しくしている。
見た目にケガはないけど、まだ弱っている様子だ。
どうしたものかと考えて、マリーさんがかけてくれた回復魔法と、この間の魔法教室を思い出す。オレは生命魔法が得意らしいから、魔力で元気にしてあげられないかな?妖精さんに魔力を流してもらった時も、ドレイン発動しちゃった時も、魔力を身体に入れるのって心地よかったから、それをしてあげるだけでも違うんじゃないかな?
手のひらで大人しくしているコウモリを、両手でそっと包むようにして目を閉じた。
イメージ、イメージが大切、だね。小さなコウモリにたくさん魔力を流して害があったら困るので、少しずつ、かつ身体の内部の不調を治すイメージは・・
オレの明確なイメージに沿って魔法が発動する。穏やかな光がコウモリを包み、光の滴がぽたり・・ぽたりと頭上から滴る。
ほんの数滴のしずくを受けただけで、コウモリは見違えるほど元気になった。体毛はつやつやと、瞳はきらきらと輝いてオレを見つめている。
オレがイメージしたのは『点滴』だ。随分効果抜群の点滴だな・・
「よかった、とべそうだね。」
窓を開け放ち、外へ手を伸ばすと、微かなと振動をオレの手に残して飛び立った。よろよろしていた様子はもう微塵も感じられず、目で追えないほどの速度で闇の中を飛び回っている。ほんのりと、コウモリの体温を残す手が、ちょっと寂しかった。
バイバイ、と手を振ると、スッと戻ってきて窓に貼り付き、何か口からはき出した。コロコロと転がったものは、カタンと椅子の足に当たって止まる。オレがそれに気付いたのを確認すると、コウモリは今度こそ闇の中に飛び去っていった。
・・なんだろう?コウモリがはき出したモノを拾い上げてみると、ガーネットのような深い紅の、飾り気のない小さなリングのようだった。今のオレの小指にはまるくらいの、本当に小さなリング。お礼のつもりだったのかな?右手の小指にリングをはめると、くすっと微笑んだ。ファンタジーのコウモリはなかなか義理堅いらしい。
ーーーーーー
翌朝目覚めて、すぐに右手を確認すると・・・あった。小指に小さな紅いリング。深い深い紅が、朝の光を透かしてきらめく。昨夜のことは夢じゃなかったみたいだ・・コウモリに会って、回復魔法モドキを使えた・・・・やっぱり窓は開けておくに限るね!
魔法らしきものを使えたことで、オレは朝から上機嫌だ。自主練にもさらに身が入る!魔素を色んな場所に集める練習、明かりの練習、そして日課になってる
そうだ!コウモリにはできたし、いつも貰うばっかりだから、オレも
-ふわわわわ・・
おっと!注いだらその分
「おおお・・!」
なにこれ、すごい。心地よさ倍増、なんかキラキラと体が清められていくような気さえする。しばらくオレと
これは、新しい日課に決定だな!
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