第7話 青い鳥

「そのダンジョンからは無数の甲虫が飛び出て、世界中に様々な影響を与えました。一番影響が大きかったのが、空と海に住まうドラゴン以外が滅びてしまったことですが、人も大きなダメージを受け、中でも大きく数を減らしてしまったのは、リザードマンという種族です。本来、固い外皮で身を守っていましたが、甲虫の口には勝てませんでした。そして、生き物だけでなく建造物も食べられ、文化的に大きく後退してしまい、300年ほどかけ、最近ようやく元の水準近くまで戻ってきたところです」



「その、虫はもういなくなったんですか?」


「ええ、ダンジョンから飛び出てきた甲虫は何億といましたが、ダンジョンによって無理やり進化させられた甲虫は生殖能力を持っていませんでした。そしてドラゴンに大きな被害が出始めたころには、甲虫の出どころがダンジョンにあることが分かり、このダンジョンを封鎖しました。ただ、その時に甲虫以外にも多数のモンスターが地上に出てきて、あちらにある山脈の向こう側にあるダンジョンを中心に、今足元にある、ライスト大陸はモンスターで溢れ、大規模なスタンピード集団暴走が起きることになり」



そういいながらクォートさんは右側の山を指した。



「ライスト大陸は特に被害が大きかったせいもあり、大陸に住むあらゆる人類とドラゴンが、ダンジョン由来のモンスターに対し共闘しました。それは戦のあとも継続し、種族間の壁はほかの大陸と比べかなり少ないです。なので、航が降りるとしたら、ライスト大陸が最初というのがいいと思うんです。もちろん、最大限サポートはしますから安心してください」



そっか、神様が言っていたのはこの浮遊島じゃなくて、地上で生活してみろってことなのかな、と航は考える。


「わかりました、そのへんはお願いします」


「ありがとう、航。では、紹介をしたいモノがあるんです。『ライネ、おいで』」


少し大きな声で、建物前に広がる庭園に声をかけると、スズメくらいの大きさの、水色の鳥が飛んできた。


クォートさんはその小鳥を指に止め、話し出す。


「このこはライネ。種族的に危険察知に非常に優れている賢い鳥類です。人の言葉も理解できて、コミュニケーションも取れますよ。この子を一緒に連れていたら危険なことの大半は避けられるはずです。ライネ、挨拶を」


クォートさんがそういうと、指の上から「ピピッ」とライネが鳴く。


「ライネ、よろしくね」

そう言いながら指を差し出すと、ライネはぴょんと僕の指に飛び乗ってきた。

かわいい。


これまで、鳥にあんまりかわいいって気持ちを持ったことないけど、こうして指の上に止めてみていると首をかしげてこっちを見る仕草はすごくかわいい。


「クォートさん、この子なでても平気ですか?」


「えぇ、頭を撫でてあげてください。撫でて欲しいところをアピールしますから、そこを優しく触ってあげてください」


ライネの小さい頭を優しく撫でると頭を下のほうに反ってきた。

後頭部を撫でて欲しいってことかなと思って、そこを優しく撫でる。


羽がふわふわしていて気持ちいい。


そうしていると、今度は顔を右に傾げるのでそこも撫でてあげると、満足したのか指から飛び立ち、僕の方に留まった。


「気に入られたようですね。ライネはご機嫌のようですよ」



耳元で「ピッ」とかわいい声が聞こえる。


「トイレに行きたいときは、勝手に飛んでいくか、肩なら頬を軽くつついてから飛んでいってしますから、しばらく肩の上に置いてあげてください。その子は他の生き物の意識に敏感で、特に害意のあるものに対して察知することができます。人が好きなので連れて行ってあげてください。嫌だったらここに自力で戻ってくるでしょうし」


「わかりました」


よくわからないうちに、かわいい相棒が出来たみたいだ。




「それでは、ここと地上の説明をしましょう、こちらへ」


そう言いながら歩き出すクォートさんを追いかけ、僕も歩き出す。





案内された部屋には壁一面に本が並べてあった。




「本が気になりますか?」


「本というより文字が気になってます。見慣れない文字だけど意味が分かると思って」


「あぁ、主上から聞いていません?こちらに来る際は、会話と文字は刷り込み学習である程度は習得できていると思いますよ」


「言葉は訊いてます、けど文字は言われてないかもです」



「なるほど。主上にとってはどちらも同じようなものなんでしょうね。主上もルクスの民も身体を持たないので言語も文字も一緒なのかと」



そう言いながらクォートさんは壁の本の中から一冊の本を取り出す。


「この本はスフィアの大まかな歴史が書かれているものです。差し上げますから、気が向いた時にでも読んでみてください」


立派な装丁をされた革張りの本を手渡された。


角には金属で補強をしてあって、サイズはB5くらいの大きさで、本自体の厚みは2センチくらいだけど結構重い。


「それじゃあ、この世界の勉強をしましょうか」


そう言いながら説明してくれるクォートさん。


基本的にこの世界は12進法が主流らしくて、一日は24時間、一月は12日を3回重ねて36日、一年は10月であまり日本と変わらないみたいだ。


季節もあるけど、太陽を公転しているわけじゃなくて、太陽の活動が1年で変動するらしいけど、夏と冬は少し暑くて少し寒いくらいらしい。


太陽は斥力を発生させていて、地上へ重力が発生している状態になっているとのこと。


数字は10進法だけど通貨は12進法だと言われて、えっ、と思うとクォートさんが説明してくれた。

そう言って長い袖の服を捲って手を見せてくれる。



「私の指は片手6本なんです。これも理由がありルクスの民がお創りになられたのですが、地上の人は基本5本指だから、計算は10進法がやりやすい。ただ、通貨を発行している教会が、私の指となぞらえて『神は12進法である』っていって、12進法を無理ないように使っています。正直、これには不満もありますけど……」



「地球でもたまに6本指を持ってる人いるらしいですけど、初めて見ました!」



そういうと、クォートさんは苦笑いしながら答えてくれる。



「この羽より指のほうが珍しいみたいですね。」



「あ、いえ、それでクォートさん神様ってことになってるんですか?」



「ええ、不本意ながら。これは教会そのものの思惑もありますが、人を助ける機会も多く、いつの間にか教会組織が出来上がっていたんです。教会を構成するのはある種族が主立っており、その人たちは6本指なんですよね。私は権威付けの為に利用されているわけですよ」




「ピピピッ」


肩のライネは、クォートさんを慰めるように鳴いた。

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