第五部

 ともあれ、敵は間隔を空けて攻撃を行っているという事実は健在だ。その間にかけるしかない。我の目標は、味方の救出だ。


「各隊へ。下車戦闘準備。下車と同時にHMGが上空に射撃、第二分隊は下車直後、上空に対し射撃。牽制を行う。第一分隊は、北門検問所に急行し集合隊形、敵への牽制射撃準備にて指命」

「一中隊一小隊各隊、中隊本部。下車戦闘準備指命。下車戦闘と同時に、各装甲車はHMGを敵散兵に対し射撃。02は下車直後に、上空に対し牽制射撃。01は北門検問所に急行し、到着次第集合隊形を形成、上空敵散兵に対し牽制射撃準備、指命」


 一通り、次の段階の命令は終わった。

 これをCPにも伝える。言わずとも京谷はCPに向け発信していた。


「CP、一中隊。これより下車戦闘行う」

「一中隊、CP。了解した」


 CPの許可は取った。

 この下車戦闘。絶対に被害を出す。相手は武器こそ旧式ながらも、未知の戦力を保有している。この下車戦闘に、出来るだけ強襲要素を付け足すことは出来まいか。武器が旧式とは言っても、私が勝手にそう結論付けただけだが。

 牽制射撃だけではぬるいかもしれない。敵の機動力が並外れたものであったら、暫定的に見つけた敵の居場所をまた探さなくてはならない。

 夜明けを待つか?しかし、今も尚続く第一分隊への攻撃をそれまで耐えるとなると、物理的には可能かもしれないが、隊員への負担が心配だ。身も心も万全な状態な方が、生存性も上がる。

 待機中のニ、三小隊を使うか?通常、普通科中隊は、84mm無反動砲を装備する小銃小隊、01式軽対戦車誘導弾や87式対戦車誘導弾を装備する対戦車小隊、81mm迫撃砲 L16を装備する迫撃砲小隊が編成されている。我が中隊では、それぞれ第一小隊、第二小隊、第三小隊だ。

 対戦車誘導弾や84mm無反動砲、通称ハチヨンでは、人に対しては効果は見込めない。対戦車誘導弾はただ爆発するような榴弾ではない。現代に流通する爆発反応装甲に無力化されぬよう、特殊な炸裂をする。爆発して破壊させるのではなく、火薬の力で装甲に穴を開けるのが目的の球だ。ハチヨンには榴弾があるが、何かに当てて炸裂させ、破片を飛び散らせるような運用が出来ない。目標が上空に展開するというのは非常に厄介だ。

 とは言っても、迫撃砲は勿論対地兵器だ。上空に対しては無力極まりない。


「愛桜中隊長。下車戦闘と同時に照明弾を撃っては如何でしょう」

「照明弾……」


 鈴宮が提案をしてくれた。流石に熟考しすぎたか。

 照明弾か。敵がもし暗視装置やサーマルサイトを使用していたとしても、流石に夜目に慣れているだろう。そこに照明弾を撃ち込めば、一瞬ではあるが敵の不意を突けるだろう。照明弾なら、ハチヨンも迫撃砲、通称迫も撃てる。ハチヨンは少数だろうが、十分な後方支援を受けれる第三小隊ならいくらでも照明弾を撃てるだろう。いやしかし、数ではないか。

 不味い。不味いぞ。我は圧倒的不利な条件を積み重ねている。戦場の基本である、敵を見付け、我は見付からずという条件を完膚なきまでに破られている。


「敵の奇襲は大成功だな」


 反撃するいとまが無い。敵からしたら、ただの夜襲かもしれないが、敵が空中からやってくるというだけで、技術的奇襲も成り立っていたのか。

 もう遅い。今から、自衛隊の戦力では到底対応しきれない。


「いや……出来る」


 私は、自分の部隊だけで戦うことを想定していた。

 "自衛隊"の戦力なら或いは。


「京谷。CPに打診。派遣隊の74に、投光器が付いているのであればそれで敵散兵を照らせないか」


 74式戦車には投光器が付いている物もある。その大出力投光器で敵を照らせば、敵の存在を測定することも出来るし、座標の無い上空にいる敵散兵の位置を共有することも出来る。

 牽制射撃ではなく、敵への攻撃とすれば良いのだ。牽制射撃よりも高い効果が見込める。


「CP、一中隊。74の投光器にて、敵を照らし敵情共有を狙いたい。送れ」

「了解した。どうにかして、照らさせる。一中隊が攻撃するのか?」

「下車戦闘を相互支援する為、小銃等射撃する。その際、照明弾をも射撃したい」


 京谷が気を回して、照明弾使用可否について問うてくれた。私が未熟なばかりに、中隊本部班には本当に迷惑をかけている。勿論、宇野陸曹長にも。


「了解」


 照明弾を使うと、当然相手からも我の位置が露見する事になる。一中隊がどう動くかを決めるには、かなり広範囲の情報が欲しい。与えられた任務は救出だが、これ程までの奇襲、最早駐屯地存続にもかかわりかねない。これは、FTCではない。


「他部隊の状況等知りたい」

「CP、一中隊。他部隊の状況送れ」

「現在、北門以外を施設中隊が警備。他施設中隊、本管衛生小隊一部は、病天の患者をビルブァターニ本国へ移送する支援。送れ」

「情報感謝する。終わり……中隊長。よろしいですか」

「ああ。ありがとう。」


 施設中隊は、我の補填等を行っている。ならば、全力投入しても大丈夫だろう。


「待機中のニ、三小隊へ。第三小隊は、迫による照明弾の射撃。第二小隊は、第一小隊に欠員が出た際の補填として待機」


 こうした、適当ともとれる命令を、中隊本部班の幹部らがより精密に"作戦"として組み上げてくれる。


「第二小隊の一部隊員で、衛生を前線に送っては如何でしょう。WAPCくらいでしたら、孤立隊員を後送する車両にもなり得ます」

「丁度、衛生も送りたいし、良いね」


 まだまだ、指揮官としては未熟な私の欠点を、補ってくれる幹部の考えを見習わなければ。


「下車戦闘が始まったら、衛生を送るように」


 本管の重迫小隊も使えないか。上空の高いところで炸裂するようにすれば、地上にはさほど影響はないだろう。しかし、二個迫小隊挙げての照明弾の輝きに、敵はうろたえざるを得ないだろう。


「京谷、本管の重迫小隊に支援要請」

「CP、一中隊。本管重迫小隊に支援要請。統制は一中隊三小隊長に任されたい」

「一中隊、CP。了解した。戦車、重迫の展開が終了したら連絡する。作戦は、第一中隊長に一任する」


 後は、各部隊の展開だ。指揮は私に一任……実戦で……緊張する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る