第三部
「十二年前、ビルブァターニは存亡の機に迫っていた…いや、存亡の機に突入していたの」
存亡の機……連邦という名前が付くことから、少なくとも日本並みの権力を有していることは明白だ。そのような国家が、滅びそうになったとは…
「ルリム・シャイコースと呼ばれる、神が狂われた。当然、一般の兵士など太刀打ちできない。しかも、奴は海から来た。鎮めようとした連邦直属の
ここが仮に地球ではないとして、こっちの世界では"神"という存在があるのか。
「シクシン広場に迫る神、荒ぶる国民。ビルブァターニは、自国民の鎮圧にも手を焼いたの。そんな中、迫りくる神の上空が曇り始めた。丁度、上空。しかも、雷がバチバチと鳴ってそれはそれは怖か…緊張感が倍増したわ。べ、別に怖かったわけはないからね!」
あーあ、今までのが台無しに……けど、
「気を取り直して…そして、そこから現れたのは、なんと空飛ぶ鉄に乗ったお父様だった。十数キャリル先にいる筈なのに、シクシン広場にまでその轟音を轟かせて…ヴィレッキュア様の救いの祈りが通じたのだと確信したわ。戦闘機から発射されたミサイルというもので、神のおなかには大きな穴が開き、神は消えた。これが、あたしのお父様が救世主たる
キャリル…とか言う訳の分からない単位?のようなもの以外はよく分かった。
F-35Aもこの世界に来ている。
そして、確信した。ここはもう、私の知っている世界ではないと。
「成程…ちなみに、"地球"という単語に心当たりは?」
「お父様の生まれ故郷よね。こっちの世界にはないと思うけど」
佐貝艦長が聞いた。そして、とんでもない返答が返ってきた。いや、まあ、予想はできていたけど。
ん?するとなると、こっちの世界は私たちの世界を認識しているということに…?ん?なんか、頭がこんがらがってきた。
「あ、あのー、パジャシュ殿、私たちの要求を呑んでくれれば幸いなのですが…」
佐貝艦長が腰を低くしている。
「そもそも、私達があなた方の船を検査するはずでして…そして、この包囲を解除してもらわないと、我々としても航路の安全が確保できないということで攻撃もやむなしとなる場合もあるのですが」
「そうだよね!元々あたしは応じるつもりだったのだけれど、部下たちが先手必勝とうるさくて…それに」
途端、パジャシュは佐貝艦長に向けていた目線をあらぬ方向へと向けた。向けた先は、小隊が展開している箇所だ。
パジャシュは、先程までの面影を一瞬で消し去り、もうすっかり獲物を睨む猛禽類の目をしている。だが、口元は笑っている。
正直、教育隊やレンジャーの時の教官より怖い。背筋が凍るどころの話ではない。
「そちらにも訓練された兵士がいるようで。しかも、見渡す限り魔導化歩兵とは。恐れ入ります」
この娘、私の部隊をすべて把握した?
「では、了承を得たということで。そちらに私の部下を送らせていただきます」
パジャシュ達は、梯子を下りていく。後ろにいた騎士が、なにやらパジャシュに物議をかましていたようだが…当の本人は受け流しているようだ。
「ふぅ…小隊!作戦終わり!」
私がそう声をかけると、隠れていた隊員たちはみんな出てきた。
「あ、愛桜隊長!怖かった…」
「はは…」
鈴宮は子供か。
まあ、私も人のことを言えないが。
「小隊は再び、大型にて待機。揚陸を待て」
「了解!」
鈴宮各位は、あんな体験をしておきながらも威勢のいい返事を聞かせてくれた。目が合っていない私でさえ怯えたのだ。彼らは相当なものだっただろう。
小隊は、さっきのことを振り返りながら自分らの大型へと歩いて行った。
「それよりも、愛桜隊長。さっき、あのパジャシュって幼女、ルリム・シャイコースって言ってたじゃないですか」
「そ、それがどうした?」
お前は容赦がないな。
「ルリム・シャイコースって、クトゥルフ神話の神話生物ですよ」
「…その、クトゥルフ神話というのはなんだ?」
「詳しくは知らないんですけど、とある雑誌から生まれた完全架空の神話です。それが、何故この世界に浸透しているのか…なんか、ワクワクしてきました!童心をくすぐられました!」
鈴宮は、完全に“自衛官”ではなく“オタク”になってしまった。何と言えばいいのやら。
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