第二章 行き着く先は

第一部

 恐らく、いや確実に日本人ではない。そもそも、私が知っている種族であるのかすらも分からない。


《ちょっと、貸せ!》


 え?今、日本語が?


「お、遅れました」

「遅れながら失礼、します」


 各隊長が、ようやく艦橋にたどり着いたようだ。皆、息を切らしている。

 全員がここに来れたということは、艦内にいる殆どの乗員は目を覚ましたということになるのか。


《今まで、訳の分からない言語で呼び掛けてすまない!》

「あ…この船団は、日本のでしたか」


 巻口隊長が安堵した様子でおっしゃった。

 だが、私は


「いえ、確実に違います」


巻口隊長の言葉を全否定した。


《最初に問おう!貴殿らは、自衛隊であるか?》


 自衛隊、という言葉を口にした。自衛隊の存在を知っている?

 しかもよく聞くと、幼い女性のような声だ。


「前方、呼び掛けている者を視認できないか?」

「マストが邪魔で視認できません!」


 艦長も何か情報を得ようとしている。


《こちらは、海上自衛隊である。これより、貴艦に対し立入検査を行う。直ちに接舷するため、協力せよ》


 護衛艦が接舷命令を下したようだ。海上自衛隊が言い終えると、声を出していたであろう船、ではなくおおすみの左舷にいた船が帆を展開し行動を開始した。

 おおすみの真横で、おおすみに船首を向けていた船がゆっくりと動き出す。

 突然のことに艦橋が大騒ぎだ。


「回避ぃぃぃぃ!!両舷前進強速!と~りか~じ!!取舵……何度だ?!と、とにかく取舵をとれぇぇ!!」

「と~りか~じ!」

「無線です!目標は、貴艦に接舷しようとしていると思われるため、貴艦が対応せよ。とのこと!」

「馬鹿か?!これは、輸送艦だぞ!……この野郎!やるぞ!接舷準備!」


 ここにいる陸上自衛隊で、一番階級が高い巻口隊長が艦橋の陸上自衛官をまとめる。


「よし。俺らは、戦闘準備だ。正直、艦上での戦闘は経験無いが、海に浮かぶ建物と思えば良い。中即連の複数小隊は戦闘準備。他は揚陸準備を整えてくれ」

「了解」


 私達は返事をした。


「艦長!艦内での無線使用許可を」

「分かった」

「全員、無線で連携を密に。周波数は出港時に伝えた通り。解散!」


 陸上自衛隊は艦橋から去った。

 来た道を戻り、大型に着いた。運転席に戻る前に荷台を見る。小銃もこっちにある為、効率が良いからだ。

 だが…小隊がいる筈の大型の荷台は空だ。

 私は中即連で常時携帯が許されている、9mm拳銃をホルスターから抜いた。

 拳銃は構えず、銃口は下を向いている。

 さっきから、声がしている方である左舷側へ向かった。

 そこには、帆船に囲まれるという二度と無いであろうシチュエーションに戦闘装着セットを付けた男達が群がっている。

 そんな中、雰囲気をぶち壊しても構わないと……ぶち壊すつもりで声を出した。


「第一小隊!戦闘準備!」

「あ、愛桜隊長…!」


 なんと、第一小隊が一人残らず気を取られていたとは…

 ああ、私より歳をとっている曹長まで。


「しょ、小隊!愛桜隊長の鉛弾が飛ぶ前に、小銃を持って戦闘準備!」

「了解!!!」


 小隊の構成員は、逃げるように私の前から消えた。

 何でだろう?全く分からないなぁ~。

 何はともあれ一分もかからない内に、小隊は私の前に再集結した。


「おおすみは右舷に帆船を接舷させる。我々は、万一に備えて戦闘準備を整える。第一、第二小銃班は前に、第三小銃班は他小銃班を支援、対戦車担当は出番は無いと思って良し。終わり」


 ここからは、班ごとで動くことになる。それぞれ班長の指示に従い、展開していく。係留されている大型や中型の下に隠れたり、物陰に半身を入れたりと順調に展開していく。

 私は士官として、巻口隊長と黒鎺隊長と共に佐貝艦長の後ろで側近のように立ち振舞う。

 遂に、海上自衛官数人により梯子が下ろされた。

 早速、段を踏みしめる音がする。


「んっ?おっと、な、なんだこれ段差が高い…日本は少女に優しくないの?」


 どうやら、段差の高さに対して不満を抱いているらしい。

 しかし、彼女が話しているのは日本語だ。しかも、日本を知っている?少なくとも私は、帆船をこんなに運用している国家も企業も知らない。そもそも、我々が"ここ"に来る前は夜だった。なのに、気付いたら昼。一晩過ごしたという感覚はない。

 私はしかめっ面をしながら、これまでのことを振り返り状況を整理していく。ふと、上を向いた。特に理由はない。

 空も変わらず、青い。雲一つ無い、綺麗な青だ。太陽もそれに同調し、あおく輝いている。

 ……碧いな。私の知っている太陽は赤色で、白く輝いて見える筈だ。ま、まあ、深くは考えないことにしよう。

 そうしているうちに、段々と足音は近づいていた。髪の毛が見えた。

 金髪よりの茶髪でショート。茶色の日本人の眼をしている。かなり鋭い眼光を目指しているようにも見えるが、自身の童顔で完全に掻き消されている。それどころか、逆に愛らしくも思う。そして、身に付けているのは半透明の薄い水色をしている鎧…鎧?!


「これが、海上自衛隊の軍艦ね!よっと!私が一番乗り!」


 甲板の下から姿を表したのは、中学生にも満たないほどのようじょ…ごほん!少女であった。

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