36.
包帯をほどき終える。
その先にあった事。
それは、更に隠すように、見えなくするようにされていた縫われた後。
上瞼と下瞼を縫い付けられた上で包帯を巻かれ隠されていた。
「……アオ、本当に見えないのか?」
目を無くした物を見たことはある。
そいつは義眼を入れる事もなく、空白の目を持っており、瞼を閉じると顔からすれば少し平べったいように見えていた。
「…………? は、い」
だが、普通に外から見れば微かに膨らみのある眼部。
顔がやせ細っていることを除いてもだ。
視力を失っているだけなら、縫い付けるまでの事はさすがにしないだろう。
「アオ、痛くないの? 大丈夫?」
縫い跡も雑な風に思えるほど糸ははっきりと外側から確認できるほど、下手すれば眼球を傷つけているのではと思ってしまう。
上から回復魔法なんてかけてしまったら、下手に定着させただけではないのだろうか。
「……いた、く、ない。……見えるの、右目、だけ……むかし、から……」
盲目は生まれついたもの出ない限り、多少直る可能性はある。
けど、ただ盲目なら気味が悪いなどいうのだろうか。
「アオ、痛ぇかもしれねぇが、その糸とってもいいか?」
「……どうせ、なにも、ない、です……が、好きに……」
軽く瞼の上から触るが、確かに何かに触れる感触。確実に目の形をしたものはある。
中を傷つけないように、小さなナイフを消毒し、慎重に糸をほどいていく。
「ぁ! あぶ……いつでも回復魔法かけるからね!」
と、皮膚だけを雑に縫われた糸をほどき、上から念のため回復魔法をかけていく。
「よし、とりあえず糸は切れたと思うが、どこか痛い所はないか? 少しでも切ってたなら言えよ?」
「だ、いじょぶ……で、す」
「お兄ちゃん、最初はあんな事言ってたのに、ふ~ん?」
「うるせぇ、アオ、大丈夫なんだな?」
本当なら長くても今朝の目覚めた段階で出て行くように言っておくべきだ。
「で……す」
「なら、右目開けれるか? 瞼は動かせるか?」
「……た、ぶん」
アオの右瞼はピクピクと小刻みに動き出す。
どれだけの期間、右目を開けていなかったのか。
見えないのなら使うこともないのは普通の事なのか。
それでもゆっくりと瞼を上げていく。
こちらに見せるように小さく開かれた左目よりも少しでも見開くように。
「こいつは……」なんだろうか。見たこともない目。
そもそも目なのだろうか。見えないと言っていた事も考えると目ではないのかもしれない。
鏡が近くにないため自身では確認できず、今のアオの目に入っているナニかと自身の目を比べる事は容易い。俺ともミーシャとも、人の目とは明らかに違うナニカ。
髪の色が人によって異なるように目の色が違う。
決しておかしなことではない。
目の色が別なんておかしなことではない。
だが、目の様なナニかは見た目からしてオカシイ。
「……本当に、何も見えてないのか?」
「……だから……いった、のに……」
そう呟くアオの声はどのような反応をされるか分かっていたように寂しそう。
アオの目は明らかに異常であった。
目とはそもそもなんだろうか?
例えば、一般的な目なら回りが白く、中に色がある。あまり詳しくないが、角膜や虹彩だったり、瞳孔があって、目って言うじゃないのか? もっとざっくりと例えるなら眼球があれば目と言っても問題ない。
だけどアオの目はそんな要素が見当たらない。
全てが青色。水色というのか? それは良いように言い換えれば宝石や魔石の様に。悪く言えば石のような明らかに目ではないものがはめ込まれているといった風に捉えることが出来る。
義眼の様な感じでもなく、瞼の上から触れるとそれは形だけは目と同じように丸みを帯びているが、瞼を引っ張って多少奥をのぞき込むようにするが、形自体は丸くなっている。
光の加減のおかげで綺麗に輝いて見えなくもないその目、の様なモノ。だが、両目を開けていると明らかに人の生まれ持って持つ目ではなく、異様で不気味に感じる。
「アオ本当に大丈夫? 私、そんな目の人初めて見たから……嫌だってわけじゃないんだよ! ただ、初めて見たから驚いちゃって。お兄ちゃんは私より冒険者してたんだし見たことあったりするんじゃないの? ねぇ?」と問いかけられてた所で答えはないの一点張りしかできない。
義眼なら最悪あり得なくはない……のかもしれないが、よっぽどの金持ちの道楽だと言われてようやく納得できるぐらいだ。
「その目、いつからだ?」
「……わか、んない……」
目の様なモノの中には微かに白く薄い模様が浮かんでいる用にも見えなくはないが、決してそれが眼孔だとは思えない。石についた汚れだと言われてしまっても全てがオカシイので納得せざるおえないぐらいだ。
「だか、ら……いつも見せるなっていわれ、てた」
悲しそうに話す、事もなく。さも平然といったように、アオは答えを返すが、本人もわからない謎。医者に診せればわかるかもしれないが、少なくても俺に分かることは何もない。
本人もあまり気にしていない様子だったが、あの目を無闇に見せてしまうと良く思わないかもしれないな。
一度取った包帯は長くつけていた事から小汚くなってしまっており、何か無か別になるものは無いかと辺りを見渡せているとミーシャは自分の持ち物である綺麗な模様の入った布をアオに巻いて上げた。
「うん、似合ってる! 私はアオの目も嫌いじゃないけど、お洒落も大切だからね!」
朝食は昨日と殆ど変わらない品。席は昨晩と同じようにミーシャはアオの近くで一緒に食事を行う。アオは食べ方はおぼつかなく、シチューを救うためのスプーンの持ち方はがっしりと掴んでいるため、零れそうになりながら、それでもゆっくりとだが顔を近づかせて一生懸命に食べている。
「ほら、こいやって持つんだよ~」
「……こ、う」
「そうそう!」
「ミーシャ、今日は早いうち街へ向かうぞ?」
「はーい! アオも早く食べちゃおうね!」
「……アオは、置いてくぞ」
「ぇ? あ……でも、こんな誰も知り合いのいない村に置いてっちゃうの?」
「…………」
そういった約束。
安全な場所までは面倒を見ると言った約束。
魔獣に襲われた場所に比べたら、街に比べては見劣りするかもしれないが十分に安全な場所だ。もう一つどうしても回りから嫌煙されてしまうものとすれば、手についた手枷。こいつを外すには、少なくても奴隷商に行き、誰かが主人として開放させるか、主人が死んだことを伝えたら……どうなるのだろうか。
そこまでは関わるってのは、もう世話をする。奴隷を飼う、良いように言えば救うとなるのだろうが、1人だけ救うのは許されるものなのか。
「怪我も治したし、飯は食わせた。あとは自分でなんとかしねぇとな」
「せめて、せめて街までは連れてってあげようよ! アオもそっちの方が良いよね?」
「……べつ「ほら! 絶対街まではついて来るっていってるんだから連れてって上げようよ!」」
「いってねぇだろ、それに街まで連れてっても結局一緒だぞ? その後はどうするんだよ」
「なら、私が!」
「私がなんだよ、責任持つってか?」
「うん!」
「うんじゃねぇって、責任ってじゃぁ何なんだよ、言ってみろ」
「えっと、もう少し元気になるまで……育てる!」
「育てるって……じゃぁ、なんでアオなんだ?」
「じゃぁって?」
「奴隷は別にアオだけじゃなかったろ?」
「じゃぁなんでお兄ちゃんはアオだけ連れてきたの?」
「今質問してんのは俺だろうが、それにあのままだったら確実に救い損になるって言っただろうが」
「でも、このままじゃアオだって絶対普通に過ごせないよ! もうちょっとまともに生活できるまでは面倒みようよ!」
「だーかーら、アオみたいな奴隷がまた現れたらどうすんだよ?」
「ならその人も助ける!」
「できねぇって言ったろうが! 奴隷がどれぐらい多く居ると思ってんだよ、アオみたいな奴隷だってバカみたいに多くいるんだよ」
「でもさ! アオだってまだ一緒にいたいよね?」と同意を求めるがアオは自分の事を話されているなんて思ってないのか食事を続けており、こっちの事なんてお構いなかった。
「ならアオだけにする!」
「んだよ! なんでアオだけ助けるになるんだよ!」
プッツン
そんな音がしたら最初に耳をふさぐ事もできていたのに
「んんん!!!!! もぉぉーーーーーー!! うるさいなぁ!! ジンお兄ちゃんはいつからそんなグチグチ変な理屈をいうようになったのよぉ!? なんならお兄ちゃんが先に連れてくって決めたんじゃない!! 先に自分がやっておいて私がするとそんな風に言うのっておかしいよ!! あぁーあ!!わーたーしーがぁあ! そうするって言ってるの!! アオだけとか、アオだけじゃないとかそんなのどっちでもいいの! いーま!わーたーしーがぁ! そうしたいって言ってるの!! はい、おしまい!! アオもいくって言いなよ!! だからジンお兄ちゃんもこんなに意地を張っちゃうんだよ!! もう、知らない!! 出て行く!!」
大声をあげてミーシャは食事中のアオの手を引っ張り部屋を出て行く。
「……ぁ…っ……」
せっかくの食事を途中で切り上げられたせいで、アオは捕まれていない手を伸ばすが、すでに距離遠く届かない。
あまり変わらない表情は初めて会った時よりも少し和らいでいたように思っていたが、引っ張られていくアオは初めて会ったときと同じように悲しそうな表情をしていた。
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