31.
一台は無事な荷台、一台は半壊してるといっても屋根が破れ上からなら中の様子が分かるぐらいの壊れよう。
魔獣を倒す際に上から少し見えた事、そして声から分かるように中身は人。
「ミーシャ、助けるのは助けるが、それ以上はなしだからな?」
「え?どうして?」
「訳有りだからだよ」
外からは中の様子が分からないようにしっかりと閉じられていた。
どうして魔獣に襲われているとわかっても悲鳴だけで逃げ出さなかったのか。
どうして戦わなかったのか。
どうして冒険者を雇わずにただ襲われているだけだったのか。
まずは壊れかけの荷馬車、少し破れている箇所からこちらをのぞき込んでいる者もいるが。
布で閉じられていた空間を開ける。
「あぁああ」
「ありがとう、ありがとう」
「……助かったのか?」
「ひぃいい」
「私達この後どうなるの!?ねぇ!?」
「いやだぁあ、もういやだぁあああ」
貧相すぎる服、ただ布をローブのように被っている者、傷だらけの者、ボロボロの肌に髪の毛には一切のつやもない。年齢も性別も種族も関係ない人種。
人間も獣人もドワーフも。
逃げれなかった理由は全員が手枷と足枷をつけられ、それも鎖で1列に繋がれ、幅も狭く、ろくに身動きを取れないようにされていたから。
「お兄ちゃん、この人達って」
奴隷。
本来なら珍しくもない奴隷。
故郷のルクスメリア国にも、レコアンブルにすら奴隷はいる。
とすると、あの裕福そうな者は奴隷商人だったんだろうが
「違法奴隷商だな」
「違法?」
「あぁ、冒険者が護衛してねぇってのが変なんだよ」
正規の奴隷は質によって左右されるのはもちろんだが、それなりの価格をしている。理由としては、国が管理しているからだ。
各国の奴隷販売を認めている国は奴隷の販売につき、それにともなう手数料を多く取っている。奴隷商を国が管理することによって、名目上は違法性を低くし、許可を貰えた奴隷商にのみ奴隷印を発行し、国内での商売を行えるようにしている。
奴隷印の発行するにも、商売を行い続ける限り高額な手数料を取られてしまうので、法を犯してでも確実な利益を取りにいく商人がいる。
買う側も危険性があるものの、正規の金額の半値ほどで買うことができるので、なかなか無くならない。
護衛がいないって理由もコレで解決。
冒険者組合として、違法性のある依頼は受けることがない。
「……おい、あんたら! 俺たちをどうするつもりなんだ!」
「あなたたち、あの人達の仲間じゃないんでしょ! これ解いてよ!」
「そうだ! 助けてくれ!」
ミーシャはどうすれば良いのかわからない様で、俺の様子を伺うように顔を向けてくる。
奴隷、この場合逃亡奴隷になってしまうのか?
奴隷は、手首か足首に奴隷印を焼き印として押されている。
そしてすぐに手枷や足枷をつけられるため、自然治癒ではまず直らない傷をつける。
仮に回復魔法でも、手枷などが邪魔するので綺麗に直ることはない。
枷さえ外してしまって、しっかりと回復魔法を行う事で多少は傷は消えるが、一度奴隷になってしまうと、確認されると元奴隷だって分かってしまうだろう。
「まぁ、このままほったらかしには出来ねぇよな。ミーシャ、回復魔法は使うなよ?」
「え?どうして?」
「奴隷ってことは、大抵が借金だったりで奴隷になってんだよ。それに奴隷印を消すように回復魔法をかけた者は違法だから捕まる事もあるんだよ、だから解放はしてやるけど、あとは何にもしねぇ。あんたらもそれでいいだろ?」
逃亡の手助けをしたと思われるからだ。
最悪、死刑もあり得る。
が、この場合、あの裕福そうな所有『物』であった奴隷が、主を失ってしまった状態になっているので扱い上、解放されたとなるのだろうか。
扱い上どうなるかわからない。だから奴隷印までは消さずに、ただ繋がれてしまっている鎖の解除を行う。
「ぁあ……やっぱり、あぁぁ」
「あっちの馬車は無事なの!? どうなの!?」
枷につけられていた鎖を解いていると別の荷台の様子を気にしているものが数名。
奴隷は単独で落ちる者。
一家揃って落ちる者。
親が奴隷だったから子も奴隷になってしまっている者。
さらわれて奴隷になってしまっている者。
奴隷として囚われている間に仲良くなった者もいたのかもしれない。
「あっちは……、こっちは無事だと思う」
鎖を解くと数名が急いで1台の馬車、1台の馬車だったものに向かい始めた。
「あぁあああ、この中にぁあああ……」
「リリシェ! あぁ! よかった!」
「あなた!」
「どうしてだぁああ! くそぉ! くそぉお!」
特に知り合いもおらず、ただ感謝の言葉だけを継げ、村か街は近くにないのかと聞いてくる者もいる。
「ありがとう!ありがとう! これで自由だ! 俺は自由だ!」
「あんたら、ありがとう!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう……、あ! お母さん!!」
「ねぇ、お兄ちゃん」
「んだよ、これ以上はなしだぞ?」
「でも……ここだって危ないよ?」
「でももなしだ、十分助けたろ? 今回は襲われていたから助けたけど、街中にいる奴隷に助けを求められたらどうする? キリなんてねぇぞ?」
奴隷は、村では殆どいないが街の中ではそれなりに見かける。
しっかりとした服、高貴な服をを与えられて幸せそうにしている奴隷もいれば。
仕事にいそしむ奴隷。
主人と結婚まで至る奴隷も中には存在するが、
ただ道具の様に扱われる奴隷。
いらなくなったら捨てられる奴隷。
買って貰った先次第で扱いは完全に異なる。
奴隷の身分でありながら、途中で奴隷を解放される者も、それでも主人の近くに遣える者もいれば、食事もろくに与えて貰えず、玩具のように殴られ、蹴られ、痛めつけられ、性の相手を行い、ぎりぎりで生かされる奴隷もいる。
奴隷を買うための条件としては『殺さない』ことが条件であるが、『死なせない』事ではない。
なので、ちょっとした事故で『死んでしまった』で終わらされてしまう事もある。
高額な買い物に違いないので、そうそう『死んでしまう』って事はないらしいが。
もう1台の馬車に囚われていた者たちも解放する。
奴隷の共通点として、魔法が使えなことが1つ。
魔法を使う事が出来ないので、比較的安全に飼うことができる。
主人がおらず、奴隷のみで検問近くを通ったり、一人で良く行動しているようならすぐに捕まり事情聴取。主人なしで街や国の外に出ることもできない。だから逃亡が困難な魔法の使えない者が奴隷として扱われている。
潜在的に使えたとしても、教えなければ問題ない。
魔法さえ使えれば道は広い。
そこから多くの事ができるようになる可能性があるからだ。
主人はどう判断するのか。
一つは契約書。
もう一つは、奴隷の一部に主人としての印を刻印することが一般的ではあるが、大抵が枷の上に堀っているらしい。
決して普通では外せない枷。
皮膚には奴隷印、その上に枷をハメ、枷にさらに刻印。
枷ありのこの人達はきっと街や国に入る際、かなり厳しい検査をされるだろう。主人がいないから入国できるかもしれないし、捕まるかもしれない。あとの事はわからない。
鎖の解除を終え、外で皆が去って行くまで待っていると、それぞれ感謝や悪態をつき、各方面に散らばっていく。破片の多く刺さっていた、裕福な男の亡骸に唾を吐いていく者もいた。
お礼を言ってきた子どもは、親も一緒だったようでほんの少し胸が降りる。
あんな風には言ってはいたが、せめて目の届く範囲にいる間だけでも魔獣に襲われないようにしばらく見守ってやろう。最後まで責任を持てといってくる輩もいたが、剣をちらつかせて追い払う。
大人の面倒なんて見れるか。
「みんな、行ったかな?」
「さすがにもういねぇだろ」
1台に8人前後乗っていたようで、それなりの人数がいたので、見えなくなるまで時間が掛かった。
「俺たちもいくか」
「うん! きっとあの人達も幸せに暮らせるよね!」
それはどうだろうな。
ここで立ち往生してたのも、1台の馬車のクルマが壊れてしまって、その間に襲われたように言ってた。
一台は完全に潰され、もう1台はクルマが動かず、ウマは1匹は逃げ、1匹はなんと御者が乗って逃げたようだ。
よく逃げれたもんだよ。
おかげで歩きで次の村まで向かわねぇといけねぇ。
その場から離れようとした時、一台の荷台から
ガタッ
といった音が聞こえてくる。
「まだいたのか?」
「ん~、みたいだね、人の感じだったよ?」
「ミーシャ、見てきてくれ。で、さっさと行くように言ってきてくれ」
「はーい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます