「説得って何を説得するんだよ?」



「そんなの冒険者になるって事に決まってるじゃない?」



「はぁ?なんで冒険者になりたいんだよ」



「お兄ちゃんばっかり楽しく旅してるのってそれこそズルでしょ?」



「いやいや、お前学院いくんじゃないのかよ」



「確かに学院もいってみたいよ? で~も、学院って19才になるまでに入れば良いんだし少なくてもあと3年は大丈夫だよね!」



「なら逆でもいいじゃないか、学院を出てから冒険者になったって」




 冒険者になること自体は年齢は関係ない。



 なので、学院を出た後に冒険者になることは可能である。




 可能ではあるが、なる者は少ない。



「そんなこと言ったってわかってるんでしょ? 学院上がりから冒険者になる人なんてオカシイって思われるって、だから今がいいの!」





 賃金の違いはもちろん、業務としての安全性に名誉性、推薦により様々な特典があるのだ。




 学院上がりから職につき、冒険者になることももちろん可能であるが、推薦から抜擢された仕事の方が優先度が高くなるのは必然であり、時間の使い方からせいぜい両立したとしても長年の月日をかけてもよっぽどの器用さと実力がなければ3等級冒険者までが限界だ。



 そして、国務に関する仕事などにつけるなら少なくても3等級冒険者相当の賃金以上は得る事が出来るためである。




 もう1つ、たとえば兵士としての職に就いた場合、一部の国以外では冒険者との両立を禁止している。


 この国もそれにあたる。





 推薦の最大限活用できる機会は学院を出ると同時であり、どの職にも枠というものが存在する。


 枠が埋まってしまえば必然的に下へ下へといった業務になってしまうからだ。だからこそ最初がもっとも大切にされている。



「いや、まぁわかるけどさぁ……」



「お兄ちゃんこそ学院にいかないの? 今ならまだ間に合うでしょ?」



「ん~……俺はもういいかな。金もないってのもあるけど、冒険者やってみたら結構性に合ってただよ。今でも金の心配はあるけど、自由奔放に生きてるってのがな」



「ほらやっぱり楽しそうにしてるじゃん!」



「話もしただろ? 最初は大変だったって!」



「でも今は?」



「慣れた」



「じゃぁいいじゃん!」



「それとこれは別だって。絶対父さんも母さんも反対するに決まってるし。俺の時もめちゃくちゃ反対されたんだぜ?」



「それでも説得できたんだから大丈夫だって! お兄ちゃんも説得するの手伝ってくれたら2倍力だよ! 2倍力!」



「いやだってさぁ、危ないぞ? 普通にケガするし」



「回復魔法使えるもん!」



「ほれよく見て見ろよ」





 ミーシャに向けて腕を向ける。


 帰ってきた当日も見えていただろうが、深くはない傷がいくつか残っていることを強調する。




「回復魔法だって別に万能なもんじゃないだろうが。傷だって残るんだよ、ミーシャは女なんだから傷ない方がいいだろうが」



「お兄ちゃん、回復魔法そもそも使えないんでしょ? それが原因でしょ? 私なら傷が付いてもすぐに魔法で直せるから跡なんて残らないし!」




 回復魔法は肉体を活性化させることにより、傷を治癒する。怪我を負ってすぐならば回復魔法の精度によるが大抵の傷は直すことはできるが怪我をしてから時間の経ってしまった傷については、体に定着してしまうため完全に治すことは難しくなる。



 冒険者の中には傷がないことを誇りに思う者や、自身のこれまでの傷を誇りに思うものがいるが女の場合は前者が殆どしめるだろう。




「魔力切れだってあるだろうが。さっきぐらいので疲れてるなら回復魔法なんて宛にならねぇぞ」



「今日は少し張り切りすぎただけだもん! 色んな所に描いたまほ……ううん、なんでもない。でも今日はちょっとやりすぎただけだし、まだまだ成長期だもん!」



「普通にバレてるから。さすがにそこから修正は無理があるだろ」



「それでもお兄ちゃんに勝ったけどね!」



 痛い所をついてくる。


 最初に口には出していないながら褒めていた点にまんまとハマって負けている。



「てか、なんで後ろに来るってわかったんだよ」




「そんなの簡単だよ? 昔からお兄ちゃんって遊びの時後ろに回って驚かそうとしてたよね。だから近くに来たら絶対そうしてくるなって思ったから、近くに近寄ってきたらこうしようって決めてただけだよ?」



 負けた。これについて作戦ってだけじゃなく完全敗北だと言える。確かに子供の時はそんな風にしてた。いや、していたことを言われて気がついたし思い出した。





「はぁ……わかった、負けたからには言うことを聞いてやるよ。だけど絶対反対されるからな? 少しぐらいなら手伝ってやるけどあとは自分でなんとかしろよ? 俺もミーシャが冒険者になるってのは賛成じゃないからな?」



「うん……だから1人で説得出来ないと思ったからお兄ちゃんに手伝って貰おうと考えたんだ! でもどうしてお兄ちゃんは賛成してくれないの?」



「そりゃ、お前の事が大切だからな。学院に行った方が絶対に良い生活できるし」




 金も盗まれるし、変なやつも中にはいる。普通にいる。逆に良い奴ももちろんいて、紹介してもいいって思える仲になったヤツもいる。



 生活だって今までふかふかなベットが当たり前だったのに失の悪いベットだったり野宿だってあり得る。依頼内容によっては野営、すなわち野宿なんて当たり前だったし。




「……ふ~ん。でも大丈夫! 説得する自信もあるの!」




 ミーシャはこちらの顔を伺いながらか少し考えるようにした後、話を続けるが今のところ自信とはなんだろうか。



 確かに勝負には負けてしまったが罠ありき。それで父さんと母さんを説得するようなら手伝ってやるといっておきながら邪魔してやる。



 あんな方法毎回通用するわけないからな。

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