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路地裏にいくとそこには3人組が1人の髪の毛がぼさぼさの、見た目からして父さんと同じ歳ぐらいだろうか、男を1人を囲んでいた。
「おいこら! 誠意って言葉知ってんのか!」
「そうだ!しっかり誠意みせろや!」
「なんで銅貨なんだよ! せめて銀貨だろうが!」
3人組は獣人1人と人間2人。うちブルドッキは人間の一番最初に話していたやつ。
そして絡まれている男の方は絡んでいる者たちよりも背丈は少しばかり大きく、【ジンベイ】という羽織るだけでよいものを1枚は着て、下は短パンに草履を履いている。
なぜ1枚かというと【ジンベイ】の前を止めておらず胸から腹を見せているからだ。そこに髪がボサボサという要素が加わってしまうと、見た感じ浮浪者そのもの。
正直これに構う方も構う方である。
金など持っていなさそうではないか。
「銅貨だけにどうか・・・ゆるせといっとろーに」
ハハハと一人笑いを行いながら頭を掻きむしりながら訴える姿は第三者からしても全く誠意を感じることはできない。
それでもミーシャはすでに動いていた。
「もう許してあげなよ!」
できるなら関わらずに去りたい者だ。
「んだよ!あぁん!?」
「あ、ブルドッキ、あいつオルトリアのミーシャだ」
「だからなんだってんだ!……おいおい、ミーシャよー、そいつはもしかしてジンか?」
「お~、少女よ、このガキどもの友達か~、どうにかしてくれ~」
男はまったく空気を読まず手を振りながらこちらに呼びかけてくる。
「えっと、友達じゃないです~!」
「おいこらお前! 余計こといってんじゃねぇぞ! お前のせいでこうなってんだろうがこらぁ!」
ブルドッキの連れである一人が男に向かい怒鳴りつけるが、男はまったく反省した様子もなく、わかったわかったと頭をかきながら返答する。
「おいジン! お前いつかえったんだよ!」
「昨日」
「はは~ん! 冒険者になるっていって出て行ったって聞いたけど、どうせ追い出されたんだろ? でも自分じゃどうにもできないからって帰ってきたってオチか!」
「お兄ちゃんはしっかり冒険者になってるもん!」
「はぁ? てかミーシャよぉ、いまだにお兄ちゃんとかいってんのか? そいつお前の親に拾われたんだろ? 髪色で完全にわかってんだよ!」
昔はジンに対しては直接言ってきており、ミーシャの前では言ってくることはなかったのに、今では随分と険悪的な態度をとるな。ミーシャの方を見るも別段気にした様子は取らない。やっぱり知っていたんだなと。
「それでも俺はミーシャのお兄ちゃんだ。そろそろそのおっさん離してやれよ、見るからに何ももってねぇじゃねか」
「うっせぇ捨て子! お前みてっとむしゃくしゃするんだよ!」
「お~い、仲良くおしゃべりしているみたいじゃし、もう行っても良いかの~」
「空気よめやこらぁああ!」
男はいかにも自分は関係ないといった雰囲気で立ち去ろうとしたが1人が捕まえて元いた場所に戻される。
「ブルドッキ、こいつどうすんだよ」
「ちょっとまってろ! おいこらジン! お前どうせ冒険者でも上手くいってないんだろ! 俺もいま冒険者やってんだよ!」
「ぁ、そうだ、ブルドッキ君のお母さんが冒険者になったっていってたよ?」
「へぇ~」
「お前じゃどうせ4年立っても4等級のままだろ? 俺なんて1年で4等級になってるんだぜ! 捨て子のお前にゃ才能なんてないんだよ! さっさとのたれ死ね!」
「お兄ちゃんになんてこと言ってんの! それにジンは4等級じゃないし!」
「はぁ!? なら何等級なんだよ!? 3なんてそいつが「3等級になったから報告しに戻ってきたんだよ」
昔から妙に競いたがる性格があるブルドッキ、たしかに体格差とかで喧嘩した時は負けてたがそれも昔の話である。いまでなら勝てる。たぶん。
しかも自ら煽ってきた内容で自滅してくれるなんて願ったり叶ったり。
「はぁ!?お前が3等級だぁ!?」
「っぷ、ブルドッキ、お前だせぇな、喧嘩うっててそれってダッセェー」
ブルドッキの連れの1人がまるで代弁してくれてるようで、味方意識が芽生えてしまいそうになるではないか、全員でこっちを攻めてくるかと思っていたけどブルドッキの顔がまるで赤面して腹を立てているようで面白い。
「ブルドッキ君のお母さんがいってたよ、初めての討伐依頼のとき」
「おいおまえら! そいつもういい! いくぞ! ミーシャもそれ以上言うんじゃねぇ! ジン、お前もすぐ出て行きやがれ!」
男を囲んでいた環境はブルドッキによって解放される。
「あとでミーシャと一緒にお前の家にでもお邪魔させてもらおうかな」
「てっめぇ……許さねぇ…」
すれ違い様に一言。数年越しの仕返しができ、気持ちが満たされる。悔しそうなブルドッキの顔を想像すると今日の昼飯はより美味しく食べることができそうだ。
「おじさん大丈夫だった?」
ミーシャが男のほうにかけより、安否の心配をするが、見ている限り暴力を振るわれるようなことはされていなさそうだったし、なんなら一発ぐらいもらって反省してもよさそうなほどのんきな顔をしている。
「お~、助かった助かった、これでなんとか仕事にも間に合いそうじゃわ」
「この国には仕事できたのか?」
見た目だけでいうなら仕事などしてなさそうな恰好と立ち振る舞い、いったいどんな仕事をしているのだろうか。なにかもっているようにも見えないため冒険者ということもなさそうだし。
「聞いてくれるか少年、わしは仕事なんてしたくないんじゃ! 来る前だっての~娘に海賊になるって言ったんじゃが、海賊じゃ捕まるからやめてっていわれての~、せめて海の王になれんかとおもって嫁に言ったらそろそろ働けと尻を蹴飛ばされてしまっての~、無理やり一緒にこの国に連れてこられたまではいいのじゃが、いつの間にか嫁は消えるわ、さっきの若いものに絡まれるわで、ほんと仕事とは大変じゃ!」
「ちなみにどうして海の王になりたいだよ?」
「海はどこにでも繋がっておるじゃろ? すなわち海の王とは世界の王! 王は働かなくても文句をいわれん!」
なんともダメな大人なのだろうか。
「奥さんを探すなら手伝いましょうか?」
兄としてミーシャが優しい子になってくれていたことは嬉しいのだけど、この大人とかかわっているとダメになってしまいそうなので早く別れたい。
きっと奥さんも娘も苦労させられてるんだろうな。
「いや~、そこまでは大丈夫、適当に訪ねりゃ~会えるじゃろ。まぁともあれ助けられた礼はせんといけんのぉ、ほれ」
男はズボンに手を入れたと思うと小さな金属音がこすれる音がする。そしてポイっと二人に向かいそれぞれゆっくりと放り投げられる。
ジンは片手でパッと、ミーシャは両手でしっかりと受け取り、手を開けると中には銅貨1枚、ミーシャの方を見ても同じく銅貨1枚
「礼って、銅貨1枚かよ!」
「わ~い! もっとほしい~!」
男は手を振りながら背中を向けこの場から立ち去っていく。
立ち去り際に一言。
「銅貨だけにどうか・・・おげんきで~」
男は最後まで笑いながらのんきにふらふらと立ち去って行った。一番関係のなかった2人が最後まで取り残されるという結果に、ジンはため息を一つ。
「なんか面白い人だったね~、あんな人冒険者にも多いの?」
「あそこまでは珍しいかな。はぁ、なんか疲れたな……ちなみにブルドッキの母親が言ってたって、何を言ってたんだ?」
「えっとね~、小さなケガをして帰ってきたと思ったらそれから一度も討伐系の依頼を受けてないんだってさ!」
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