R6461


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「ふふふ~ん! 私のかち~!」













 全身ずぶ濡れにされ、地面に横たわる金髪の獣人の視線の先には誇らしげに胸を張り、見下ろす獣人の少女。少女は薄いクリ色の長い髪を手で分けにやりと笑みを浮かべていた。






「……今のはズルだろ」




「作戦勝ちだもんね~! これでお兄ちゃんより私の方がつよいってわかったでしょ?だーかーら! お母さんたちを説得するの手伝ってね!」






 少女は可愛らしくお願いをするような姿勢を取るが、なんとも腹立たしい。







 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。






 時を遡ってみよう。






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 ジン・オルトリア




 冒険者になり4年が経つ今日この頃。







 冒険者としては可も無く不可も無く、順調というより順当な成果を残してきた。


 ようやく3等級の冒険者になることができたので、1度も帰ることのなかった故郷【ルクスメリア国】に荷馬車に乗りながら帰省中。







 思い返せば本当に大変だったのは1年目。何度も最初は帰る事を悩んでしまったぐらいだ。






 まず第1に問題なのが金銭。


 冒険者は例外なく、最初は【5等級冒険者】から始まるのだが、【5等級冒険者】に受けれる依頼は自身の等級か、1つ上の等級までの依頼と決められている為、5等級か4等級の依頼しか受けることができない。









 そして5等級依頼には討伐系の依頼がない。




 これは冒険者組合側からしての配慮で、冒険者になりたては自分の限界がわからないため無茶をしがちの為、少しでも死亡率を下げるための措置らしく、おかげで簡易的な依頼しか受けることが出来ない。配達、安全性の高い場所にて採取などが主である。




 だからこそ1つの依頼だけでは報酬が少なく、量をこなさなければならなかった。




 最初のうちは両親から貰った金があったので無理しない程度でも生活はできていたのだが、知らない街は危険だった。


 まさか恐喝に合うなんて、ちょっとは予想してたけど本当に合うなんて普通思わないだろ?






 ちょっと近道だと思って路地裏通ろうとしたら




『おぅおぅ!ここを通りたいなら金だしな!』


 ってガラの悪そうな3人組が腕を鳴らし近寄ってきたから




『あ、なら通らんっす!』






 っていって普通に避けようとしたのにボコボコにされるわ、宿泊費をまとめて払ってしまおうと持ってた金貨を5枚も取られるし。こっちは子供だってのに全く容赦なかった。


 まぁ、この出来事があったからか金がどれだけ大事かって事をこより考えるきっかけになったので良かったような悪かったような。…………悪い出来事ですよ。









 ちなみに


【4等級冒険者】以上になった場合は5等級依頼を受けることはできない。これは新人冒険者たちに仕事がなくならないようにする仕組みらしい。






 一応冒険者組合では依頼は受けれないってのが前提だけど、【5等級冒険者】が2等級相当の依頼を遂行する事は可能である。


 依頼という扱いでなく、個人での討伐って扱いになるため金銭は通常よりも低い金額になってしまうので相当な実力を持つ者ができる限り早く上の等級になりたいか、周りに力を示したいもの以外は順序を踏む方が良い。









 4年目にもなれば1人身での暮らしにも多少余裕が出てきたし、良い機会だと考えて帰省する。


 手紙は約束通り月1程度だが送っているので、両親は昇級と帰省にも前もって知らせを送っている。







 ちなみに3等級冒険者になるのに4年かかっているが、決して早いわけでも遅いわけでもない。


 挫折から冒険者を辞めてしまう者が最も多い等級が第4等級から第3等級にあがるまで。




 単純に討伐系が増えるから危険も増える。







 3等級にでもなればそこそこの冒険者として認められるが、最も長いと言われるのが2等級冒険者である。


 長年の冒険者でもここで止まってしまう。







 そして、1等級冒険者。条件としては、1等級魔獣を1人で討伐でき、複数の対峙でも討伐、撃退ができ生き残ってこれた者が与えられる等級。敵を倒しても倒されない、当たり前のようで難しいことだ。


 ここまでくると国から指名での依頼を貰うことが出来たり、貴族、王族として迎え入れる事も。自身で何か事業を始めようとした場合でも、それなりの地位がある人物や冒険者組合が後ろ盾してくれる。


 名誉も名声も、報酬金による富も最も得ることが出来るので、冒険者の目指す地点。










 あと一つ、噂上の等級【特別等級】


 これは冒険者組合設立時から僅かな人数しか到達した者はいらず、その強さは計り知れない。それ故に照合に近い、人類の到達点。圧規格外な力を持つものに与えられる等級らしい。




 噂上2人とか3人とかが現代でも活躍しているとかいわれているが、全く根拠がない。あっちで見た。こっちで見た。あいつが実はそうじゃないか。子供に読み聞かせる本にも英雄的存在で出てくるぐらいだ。小さい時は本当にあると思っていた。




 聞いた話では1等級冒険者になると直接的な依頼が増えてくるので、もしかしたら特別等級もいるかもしれないが、規定上は1等級冒険者まで。










 さて、そろそろ到着するであろう故郷。


 実は荷馬車も護衛含む荷物の荷下ろし手伝い依頼として乗せて貰っている。







 この付近に強い魔獣は発見されたこともなく、短い平原を1つ渡るだけなので比較的安全だが、それでも依頼をしている人はいる。


 そういった細かい依頼でも受けて少しでも稼ぐことがコツである。









 検問所を通り抜け、積み荷を荷馬車から下ろし、依頼達成




「無事終了っと! じゃぁおっちゃん、署名してくれ」




 荷物の中から契約書を渡し




「おぅ、ちっこい兄ちゃんありがとよ!」


 署名を受け取る。




「ちっこくねぇ!」






 護衛関連の依頼は冒険者組合で依頼書の発行、完了後は依頼者から署名を貰い、冒険者組合にて報酬を受け取る流れになっている。


 依頼を受けた場所でなくても冒険者組合はそれぞれ繋がっているので受け取る場所は問われない。







「はい完了です。では冒険者証を出して下さい」






 魔法刻印にて冒険者証の更新を行われる。


 冒険者証は、冒険者にとって身分証明書になり、依頼をこなすと刻印にて更新される。




「では、こちらが報酬の銀貨20枚になります」




「ど~も」




 報酬を受け取り、実家に向かう。


 距離と地域を考えると銀貨20枚は悪くない。手伝いも込みになってはいるが、量的にもすぐ終わったので問題なし。






 辺りを見渡すも昔とあまり変わっていない。


 僅か4年、されど4年だと思っていたんだが、普通に懐かしい街並みだなと。








 玄関先に到着し、扉に設置されたチャイムを引くと家の中ではチリーンと高い音が鳴り響く。









 しばらくもしないうちに扉が開き、2人に出迎えられる。




「おかえり、私達の息子よ!おおきくな……ってない……大変だミラノア! 息子が成長していない!」




「そんな訳ありませ……んわ、ま、まだ成長期に入ってないだけです! これからです!」




「わたしは18の時から背丈が変わっていないのだ……きっとこれ以上は……」




 久しぶりにあった息子にかける言葉ではない。




「父さん、母さん、久しぶり。これでも少しは大きくなっているから」








 15才の時に両親の元から去り、19才になって戻ってきたジンはほぼほぼ身長が変わらずにいる。出てから4年間身長を測る事をしなかった。したくなかった。最後に計ったときは153cm。服が少しきつくなっているから大きくはなっているはず。

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