十三


  私生活に関しては、普通に生活する分に当たっては特に困ることがなかった。学校に行く必要がない代わりに朝から畑の手伝いや、荷物の運搬に関しての力仕事を任され、少ない若い男手ということで歓迎されていた。



 村長の娘のリムルちゃんにはなんとなく距離を置かれているのが感じがする。年齢も近いからもしかしたらサーモルとそういった関係なのかもしれないと思うと悔しくある。



「はぁ…家……帰りたいな」


 ふと数日前までの生活を思い返してしまう。




  困ることはないといってもバイトもしたことがなかった自分にとっては、労働は最初は良いものの途中からしんどいと思ってしまった。


  それでも自分よりも年下の子たちでも生活のために働いていると思うとやらなくてはと体を動かすことができるが、いなくなって気が付く孤独さ。




  友達はもちろんだが、何よりも家族はいて当たり前だったのに対して3日会うことができていない。


 今頃家ではどうなっているんだろうか。親は心配してくれるのだろうか、妹はしっかりしているのだろうか。





  元の世界に戻る手段、あちらと行き来するような手段はあるのだろうか。もし戻れたとしても、元の世界では時間の経過はどうなっているのか。


  もし今後戻ることができず、世界での生活しかできないのなら、無事だということぐらい連絡は取れないのだろうか。





「兄ちゃん、帰りたいっていったけど街にいきたいんじゃなかったの?」




 村に結界の確認完了報告と獲物を持ち帰り、一緒に休憩していたケイリーに問いかけられる。




「いやー、なんていうかホームシックみたいなやつ?わかる?」




「ほーむしっくってなんだよ?」




「家族が恋しくなるってやつかなー」




 へぇ~……と特に興味なさげにケイリーが返事する。




  俺は異世界からきて、帰り方わかんねーや!だからちょっと助けてくれ!って言ってたほうがもうよかったんじゃないかなって思う。


  最初に変な嘘つくべきじゃなかったなーっと思うも後の祭り。





「そいや兄ちゃん、兄ちゃんのことリムル姉ちゃんが言ってたよ」



「何を?」




「いくら私が可愛いからって見すぎ!そこまで意識されると逆に接しずらい!」



「まじで!?」




「みたいなことを遠回しで伝えてほしいって言われてたんだよ」




「いやいや、直球すぎて受け止めるのが辛いんですが」





 ニヒヒ、と少年は笑う。




  仕事の手伝いも今はケイリーと行っているが、リムルとに行動する機会もあり、見た目もそうだけど、同じ村の人と接している姿を見ていると性格の良さにも惚れてしまっている。


 けどもやっぱりサーモルといる時が一番楽しそうに見えてしまう。





「なぁ、ケイリー」




「どうした兄ちゃん」




「どうしてこの村って若い人が少ないんだ?」




「別にこの村に限らないんじゃないかな、どこでも田舎より都会に行きたがるだろ?俺ももう少し大きくなったら村をでて冒険者になって、畑仕事おさらばするんだ!」




「おぉー、ならその時は一緒にやるのもいいなー」




「足手まといになりそうだから兄ちゃんとは組まない!」




「やっぱしひでぇ!」




  こちらの世界でも若い人は、田舎よりも都会に出る人が多いらしく、いったん夢を見て出て行ったもののある程度年がたつと元の暮らしていたところに戻る人も少なくないらしい。


  出て行って、結局あっちで生活が成り立たないものの、単価を切って出て行ったものは意地でも帰らないってのもあって似たり寄ったりだと思ってしまった。





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 次の日 早朝


「タケルー! 今日はケイリーと一緒に村の子たちをうちに集めるように動いてちょうだい!」




「何かあったの?」




「お父さんが昨晩からせわしなくしていたから、たぶんだけど近くに魔獣が出たんだと思うの! だから念のため子供たちはみんなうちに集めて、大人たちに外の様子を見てもらうようにしてるの!」




「ちょっといってくる!」




「絶対に村の外に出たらダメだからね! 絶対だから!」




  せわしなく家の中で動いているリムルだが、出ていくときは見送ってくれた。少しのやる気と緊張感を持ちながらケイリー宅に向かう。





 家の扉を叩く。


「おはようございます。タケルです。ケイリーのご家族の方いらっしゃいますか!」





  ご両親が対応してくださり、今の事情とケイリーにて手伝ってほしいことを伝えてもらい、すぐに行動に移していく。





 1時間ほどで子供たちは村長の家の中や周りに集まり、大人たちも集まってくれた。




大人たちの目線の先には村長とサーモルに向けられていた。





「皆さん落ち着いてください。子供たちは中で待機してもらい、皆さんには中央広場にてお話さしていただき、そこから各自の判断にて行動をするようにお願いします。教会担当であるサーモルがここにいるということである程度察しの良い方はお気づきだと思いますが、慎重に進めていきたい内容ですので落ち着いて焦らず移動をお願いします。 リムル、これからまだここに集まってくる人もいるだろうから、その際は子供はここに、大人は中央広場に来るように誘導するように。」




「お父さん、わかったわ。みんなー中に入って待ってようね!」




 大人組と子供組に分かれる。




「ケイリー、早くこっちにこいよ」




「兄ちゃん、おれはもう子供じゃないんだぜ? 大人たちと一緒にいくよ!」




  ケイリーだけでなく、近い年齢の子たちも中央広場に行こうとしていた。もちろん親が説得、ケイリーは頭を少し叩かれていただが残るようにと言いつけられ、ふてくされていながらこちら側に残ることになった。




「リムルちゃん、俺ってあっち行くべき?」






  大人たちの大半が移動し終わった段階で小声で聞いてみた。年齢だけでいうならこちらの基準でいうなら行くべきなんだろうが。





「タケルはいいの、村の問題は村の人たちで解決しなくちゃならないから。それに、タケルは武器ももってないんだから私と一緒に子供たちがどこかに行ってしまわないか見ていてくれるだけでも有難いわ」




  男として全く情けないが本当にその通りだろう。たぶんケイリーの方が俺に比べてもいろんな面で優っていると思う。ナイフの扱いについても、森の中での軽やかな動きでも、当然のように自分よりできてしまっているのだから。

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