四
少しの間の暗闇のせいで、光にの強さからすぐに目を開くことが出来ず、周りを確認するのに時間が掛かった。
何度か瞬きすることによって、次第に視界が明確になってくる。
森の中からスタートってやつです。チュートリアルもなしで、突然森の中にらしき場所の、少し開けた場所に放り出されたようだ。
服装は学校指定の制服
筆記用具や財布など入れている鞄
携帯
これが全装備。
試しに携帯を触っても勿論圏外。時計の機能は動いているようで、日付は変わっておらず、時間もあのまま帰っていたら学の家に着いていたであろうお昼の時間。
この世界に、携帯が普及していないなら、元いた世界で個人的に最も役に立つ発明品は、使い物にならないゴミに成り下がってしまうのである。
そもそも本当に異世界に飛ばされたのだろうか。なんだかんだいって、日本のどこかにある樹海の中に飛ばされましたというオチはご遠慮したいが、それを確認するすべを現状持ち合わせていない。電波があるなら携帯のGPSとか使えるんだろうけどそうもいかない。
そうなると、とりあえず人と合って、話を聞かないことには進まない。
「誰かいませんかー!道に迷ってます!助けてくださいー!」
少しばかり不安な気持ちはぬぐえない。自分を落ち着かせるため、大きな声が出したかった事を加え、近くに人がいれば良いなと淡い期待を持ちながら叫んでみる。
少し待ってみたが、風に揺られた木々の音以外、返事は帰ってこなかった。
不安な気持ちがこみ上げてくるが、なんとか今の状況を打開するためにはと考えていると近くの茂みからガサガサ
っと音が聞こえてくる
「まさか最初から強敵登場とかないよな?」
数歩、茂みから距離を取るように距離を取り、様子を見てみる。
「ウサギ?」
ピョン、と茂みから飛び出してきたのは見るからに、ウサギそのもの。ただし、自分の知っているウサギと違う点が一つある。角が生えているのだ。額の部分にチョコンと短めの角。
角の生えてるウサギっていたっけ?動物園でも見たこと無いから、新種とかで無い限り、たぶん異世界の生物なんだろう。
少し観察してみるも、襲ってくる様子もなかったが近所で飼われている犬だって、近づくだけで突然威嚇するように吠えてくるのだ。念のため、近づくことはしない。
ウサギらしきものもこちらの様子を見ていたようだが、何もしてこないことがわかったのか茂みの中に戻っていった。
俺もただ、そのまま突っ立っていても、時間だけが過ぎていくので、周りを見渡した感じ、まだ進みやすそうな方向を選択し、歩きだすことにした。
一人きりでこんな場所に放り出されたため、不安な気持ちに押しつぶされそうになっていた。
それでも、人気のあるような場所にでなければ、今の装備品だけで襲われたりしたら、たまったものじゃない。何がいるかわからないのだから。
舗装されていない山道は想像以上にキツかった。見たこともない人の赤ちゃんぐらいのサイズのあるムシが木に張り付いていたり、鹿のような生物がこちらの様子を少し離れた場所から伺っていたりしていたが、どれも襲ってくることもなく足下以外は比較的に安全に進めた。
それでも、行く当てもなく、人に会うことも出来ていない中、森の中を彷徨い続けたので、精神的には結構追い込まれてくる。これが日本なら、とりあえず道にさえ出てしまえば、どうにか家まで帰ることは出来ると思うが、それがこの場所で通用するかもわからないからだ。
時間にして40分程、進めそうな所を頼りに歩くと、嬉しいことに人里らしきものを発見することができた。
このまま森の中を彷徨ったあげく、ゲームオーバーになるという、最悪な事態にならなかった事とようやく人に会えるという安心感から不安な気持ちは和らいでいく。
そして、森の中に人里があるなんて、本当に異世界に飛ばされたという事実を確認でき、気持ちが高ぶってくる。
さすがに、森の中に家がいくつもあり、テレビでも見たことない生物を確認しているのだ。ここまで手のこんだドッキリ、一般人である俺に対して仕掛けてくることはないだろう。
村の入り口らしき場所につくと、ふと疑問が思い浮かぶ
「言葉は通じるのだろうか?」
せっかく人に会えたとしても言葉が通じないならこの世界に限らず、この場所についての情報も知ることが出来ない。
会話することすら叶わないなら、その時点でゲームオーバーではないか。
いや、最悪ジェスチャーでなんとかなるかもしれない。
異世界に飛ばされた作品は色々と見てきたが、言葉が通用しないものを見た記憶もないので、その心配もないのだろうか。
いくら考えていても始まらないので、言葉の壁にぶち当たらないことを祈り、村に入ってみることにした。
村はそこまで大きくなく、周りを柵で囲んでおり、入り口らしき場所が、さっき確認できた限り正反対側に2カ所あるように思えた。
家は数十件あまりと、店らしきものがいくつか有り、少し大きな建物として十字架を掲げている協会らしきものがあるぐらいのだと思う。
村人と思われる人たちの服装はゲームやアニメでみるようなザ・村人!って感じの布の服?みたいな服装をしていたので、さすがファンタジー世界と感心してしまった。
周りをキョロキョロと見ていると、村人の大人達は不審な目でこちらを見ており、ヒソヒソと声が聞こえる。
よそ者で、しかも学生服ということで注目を浴びてしまっているのだろう。
異世界でも学校とかあるなら通ってみたい。魔法のある世界で学園生活とか、テンション上がるわ。
そんな事を考えていると、子供が数人寄ってきて
「お兄ちゃんお兄ちゃん!珍しいお洋服着てるね!お偉いさん?どこから来たの?」
良かった。聞き取れると云うことは会話が通じそうだ。
「こんにちは、日本って国から来てたんだけど森に入ってみたら迷子になっちゃったんだ」
「ニホン?どこどこ?ねぇ、みんな知ってる?」
一人の子が周りの子に聞くがみんな首を横に振る。言葉は問題なく使える事の確認が取れた。
言葉が通じなかったら、勉強しなければいけないところだったので助かった。
自慢じゃないが英語は大の苦手科目。英語すら覚えれなかったのに、訳もない言葉を覚えるなんて不可能だと思っていたので本当に良かった。
そして再認識、日本語が通じるのに、ニホンを知らないと云うことは、やっぱり俺のいた世界とは違う。
「ここよりずっと遠いところだよ、よかったらこの村のお名前を教えてくれるかな?」
「この村の名前はペポナだよ!自然豊かな街なんだ!」
「ペポナはご飯も美味しいよ!」
「野菜が美味しいよ!」
「遊び場が沢山あって楽しいよ!」
「今から近い広場で遊ぶんだよ!」
子供達は楽しそうに会話してきてくれる、日本じゃ俺みたいな高校生が小学生に話しかけても逃げられるだろうに、なんだかほっこりする。
皆、いろいろな事を話してくれた。馬車で2日、歩いて行くなら5日ぐらいの場所に大きな街があり、その街には王様がいること。
そこに、この村で取れた野菜を売りに行ったり、必要な物を買いに行くようにしているそうだ。
子供達と会話していると、一人の大人がこちらに近づいてきた。
「私はこの村で村長をしているムウラという者だ。見たこともない服装をしている若い者がいると聞いて様子を見に来たのだが、何かこの村に用かね?」
見た目は40後半ほどの渋い感じの男性
突然、別の世界から、変な空間に飛ばされたと思ったら森の中にいました。なんて馬鹿正直に答えたところで信じてくれないだろう。
外でそんなヤツに出会ったら間違いなく頭のおかしいやつだと思う。下手したら、追い出される危険性がある。
「俺はタケルって言います。少し前に、獣に襲われたようで、森の中に逃げ込んだのですが、道がわからずどうすればいいかと彷徨っているとこの村を見つけ、寄らせて貰いました」
嘘を織り交ぜながら、なんとか苦し紛れの言い訳。子供達も迷子になってたみたいだよ~とフォローを入れてくれてる。
「なるほど、魔物に襲われていたのかもしれないな、なら一度私の家に来なさい、話を詳しく聞かせて貰おう」
あてのなかったので、その言葉に甘えて向かわせて頂くことに。
できる限りの情報を貰ってから、冒険を始めていこう
木造の他の家よりも少しだけ立派に見える家に案内され、リビングに通され、机を挟み椅子に座るように促される。
「失礼します」
「あぁ、そうだな、まずは自己紹介して貰っても良いだろうか?」
「はい、松本マツモト 武タケル と言います。日本という国で学生をしていました」
「ニホン?聞いたことの無い国だがそれはどこにあるんだい?」
なんて説明したものだろうか。この村が世界のどの辺りにあるかもわからないし、わかったところでこの世界に日本がないのだから説明のしようがない。
なんとか言い訳しなければ。
「一人旅をしていたんですけど、先ほどいったように、道中で獣に襲われてしまい気がついたら森の中を彷徨っていたのです」
正直かなり強引だと思う。それでもこれ以上の言い訳、俺の頭では思いつかない。
「ふむ、何度も確認を取るようで申し訳ない。私もこの村を預かっているものとしての責務があるのでな」
「こちらこそ、突然お邪魔して申し訳ないです。次はこちらからの質問してもいいですか?」
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