三
「なんだこれ?」
目の中にゴミでも入ったのかと思い、立ち止まって目を擦るが、変わらず歪んで見える。
「ん?武なにいってんだ?」
「なぁ学、ここなんかおかしくないか?」
なんて説明したら良いのだろか。
その部分だけ明らかに怪しい。違和感を感じる。奥を見ることはできるのだが、平行になっていない。ぐにゃぐにゃ、グネグネ、どの表現が正しいのかわからない。
夏の猛暑の時、コンクリートからの熱により視界が揺らめいている、それをさらに強くした感じだろうか。
それなら揺らめいているという表現になるのでやっぱり違う。
何かの番組で見たことのあるような、ブラックホールのようなものだと説明したらいいのか。
ブラックホールの実物なんて見たことないから想像でしかないのだが。
「学、5メートルぐらい先の道、なんか歪んで見えないか?」
「武……お前いくらテストができなかったからって現実逃避するために頭をパーにすることはないんだぜ? 俺たち友達じゃないか、辛いがあったら何でも相談しろよ?」
たしかにテストの点は悪い。だけどそれは今関係ない。こういった返答が来るということは、目の前になんと表現したらいいかわからない歪んでいるものが見えないのだろうか。
俺にだけ見えているということなのか。好奇心からゆっくりだが少し近づいてみる。学は不思議そうな目で俺のことを見てきていたが、今は目の前の事の方が重要である
少しづつ、半歩づつ近づいていく。
別に吸い寄せられることもない。
学にしてみたら俺は少し歩いたと思ったら前を見つめたままボケーっとたってるだけにしか見えないだろ
「こいつ大丈夫? おかしくなった?」みたいな顔してるし
物は試し。
さすがに自分の体を突っ込むとか無謀なことはしたくないのでポケットに入っていたポケットティッシュを放り投げてみる。
いきなりの行動に学が、「あぁ、こいつもうだめだ。本当におかしくなっている」みたいな表情になっていたがそんなこと気にしない。
ポケットティッシュはあっさりその歪んでいるところを通り過ぎて地面に落ちる。
何もおきない。
俺の目がおかしいだけなのか。
周りを見渡してみるが歪んで見えるのはその部分だけ。
「不思議だ」
「いや、お前のほうが不思議だよ、不思議ちゃんだよ?」
じっとしていてもどうにもならない
「学、ちょっとこの道はやめておいて、もう一本横の道から帰らないか?」
「いいけど、本当にどうしたんだよ」
方向転換してきた道を戻るため歩きだした・・はずなのだが、数歩進むといきなり目の前にさっきと同じ歪みが発生した。
最初に歩いてきた時は何の違和感もなかった。学校から出てこの場所に歩いてきてる間に俺の目がおかしくなったのかそれともさっきの空間がここにも現れたか、はたまた移動してきたのか。
「学、悪いんだけどさちょっと俺の前歩いてくれないか?」
別に犠牲にしようと思ったわけではない!決して違う!
ポケットティッシュだって普通に通り抜けたんだから人体になにか影響があるようなことはないだろうと踏んだからだ!たぶん
「本当に今日はどうしたんだよ?まぁ前歩けばいいんだろ?わかったよ」
学はそういって歪みのある空間を通り抜けた、あっさりと
俺の目がおかしいのかと真剣に考えてしまう。帰ったら眼科にでもいこう。
ゲーセンとか行ってる場合じゃないな
「学、悪いけど今日はゲーセンなしにしてくれない?家の用事あったこと忘れて
俺は学に近づくために歩き出した歪みなんてただの錯覚だと思い込んで
だけど念のため触れないようにギリギリまで端によって歩き出した途端、歪みが目の前に現れ、吸い込まれるように中に入ってしまった。吸い込まれたというよりも、自分から突っ込んだという表現が適切だったが。
「うぁあああああ!!」
急に視界が真っ白になったことから、情けない声を上げてしまう
「ぇ?」
目の前にあったはずの風景がまったく違うものに変わっている。さっきまで歩いていた道路はなく、すぐ近くにいたはずの学もいなくなっている。
全てが真っ白な部屋に、机がひとつあるだけ。広さは4畳もないだろうという部屋に一人立っていた。
「どこだよここ! どうなってるんだよ!?」
気を失わされて誘拐された?
さっきまで普通に歩いていたのにそれは不可能だと思う。
車か何かによって事故にあったのだろうか?
ならここは死後の世界?
さっきまでの歪みは何だったのか?
避けようとしたらいつの間にか目の前に来ていて、吸い込まれた?
突然の事で頭が回らない
周りを見渡しても壁
扉は無い
窓も無い
天井も2メートルぐらい
あるのは壁側に寄せられた机と、その上にある数枚の紙
他には何も無い
警戒しながら壁に触りながら、扉のような物があるのではないかと触れながら歩いてみるが何の反応も得られなかった
残された行動手段としては、机の上にある紙
何か起きるかもしれないと、警戒しながら机の上にある紙に手を伸ばした
まとめて手に取る。
日本語で記されていたのがより誘拐か、もしくはテレビ番組のドッキリではないかと不信感を与えられた
一枚目
【これからあなたが向かう世界は名前は多種族が生きており、魔法などもある世界、これまであなたがいた世界とはまったくことなる世界でしょう。その世界の名前はセルモアと言います。】
二枚目
【あなたは自らの選択によって、セルモアに向かうことを承諾致しました。元の世界に戻ることはできません。】
三枚目
【20秒後に、転送させていただきます。】
頭の理解が追いついてない
過ぎる(よぎる)のは3日前、パソコンで回答したアンケートもどき
普通に考えてあり得ないことが自分自身に起きている。
本当にあるのだろうか、想像上でしかなかった世界が。
求めた世界が本当に実現するなら、俺の本当の物語がこれから始まるのではないだろうか。
現状に不安はあるが、ファンタジー世界で自分が活躍できるのなら……。
どんな出会いがあるのだろうか? 特殊な能力が与えられるのではないか? もし魔王がいるならどんな風に世界を救えるのか?
そんなことを想像してしまう
20秒経過したのだろう。
先ほどと違い、視界が闇に包まれた。
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