第43話 3月31日

俺は口につけた缶コーヒーをテーブルに置くと、PCのディスプレイに目を落とし某掲示板をマウスで開く。


そして俺はゆっくりとキーボードを打ち込み始めた。


俺は人を殺してしまった。

何人も……。

そしてこれからも。

ただ、正直誰にも言えないでいるって言うのは中々にモヤモヤするもんだ。

テレビで俺がやった事件を観ても、この頃じゃあまり楽しくも感じなくなってきた。

だからと言ってはなんだが、今までの事をここに告白させてくれ。


全て打ち込みEnterを押す。

すると、一分もしないうちからレスが着いた。


──ハイハイ読んでやるよ。つまらなかったら絶対に許さない。


──イッチのプロフィールは?男?女?


──どうせ構ってちゃんだろ?呪われろ。


くだらないレスが無数に流れ始める。

俺はそれらを無視して再び書き込み始めた。


最初に殺したのは、通りすがりの女子高生だった。

もちろん知り合いでも何でもない。

スマホの画面を夢中で見ていた。

夜だったし人気もない。

最初はイタズラ目的だったんだが、高台のガードレール沿いを歩いて着けて行く時、ふと思ったんだ。

今こいつをこの崖から落としても誰にも見られないし、バレ用がないって。

これって完全犯罪成立するんじゃないか?ってね。

馬鹿だよな。今思うとほんとうに馬鹿だ。

もしかしたら何て考えてなかったんだからさ。

でも、それよりも高揚した気持ちが勝ったんだ。

今なら殺れる。

捕まらずに、殺しという初体験を味わえるってな。

気が付くと、俺はその女子高生を突き落としていた。

彼女は叫び声すら挙げなかったよ。

聞こえたのは肉の塊が鈍い音を立てただけだった。

暗がりだったけど、腕や足があらぬ方向に向いてたな。

最高だった。

最高の気分だったよ。


俺はキーボードから指を離し、一息付いた。


──サイコパスキタ━━ヽ(´ω`)ノ゙━━!!


──自分に酔すぎ


──初体験ってwww


俺の書き込みにレス流れ出す。

それらを読む事もなく、俺はまたキーボードを打ち始める。


その次は爺さんだったな。

真夜中の山道だった。

あいつらあんなに夜中に散歩してんだな?早起きは三文の徳とか言うけど、残念ながらそいつにとって何の徳にもならなかったようだ。

俺は持参したスパナで背後から近付き、思いっきり後頭部を殴りつけた。

年寄りってのは脆いもんだ。

直ぐにピクリともしなくなったよ。

倒れた後も何度か殴り付けて、そのまま突き落としてやった。

運が良けりゃ足を踏み外した事故とかで処理されるかもってな。


──じいさんで喜ぶイッチ可愛い


──造り話としても不謹慎だな


──釣り宣言まだー?


皆思い思いの書き込みをしている。

だがそれでいい、だからこそ心置き無く書き込める。


三件目は子どもだった。

塾の帰りだったみたいだな。

警察だけどって黒いメモ帳チラ見せしたらほいほいついてきやがった。

予め調べておいた廃墟に無理やり連れ込んで、首を絞めてやったよ。

泣いてたな……。

ものすげー罪悪感に際悩まされたよ。

でも、それ以上に興奮したんだ。

やめられねえ、こんな楽しい事やめられるわけねえってな。

ちなみに子供の死体は隠したけど、まだ見つかってないみたいだな。


──はい通報。


──嘘でもそれは書いちゃあかんやつや


──歪んでんなあイッチよ


レスを見ながら、俺は体が火照っいくのを感じていた。

気が付けば書き込みがどんどん増えていく。

そうだ、見ろ……もっと俺の書き込みを見ろ。


待ちきれず再びキーボードを打ち込む。


最後はサラリーマンだ。

意識高い系って言うのか?

茶店でノートPC広げてさ、何か小難しい話してたんだよ。ああいう奴嫌いでさ。

店を出た後着けたんだよ。

そしたら笑える事にさ、俺の家の近くだったんだよこれが。

近くを通ったところでナイフ突きつけてさ、そのままガレージに連れ込んだわけよ。

後は心置き無く滅多刺しだな。

ナイフでやるのは初めてだったけど、あの肉の感触はたまらないな。

牛や豚とは比べ物にならない。

いい経験になったよ。


──逮捕まだか


──飽きた


──誰か女の子の画像貼って和ませて


相変わらずくだらないレスが流れている。

だがそれでいい。


俺はふと、テーブルに置いた時計に目をやった。


時刻は午前0時、どうやら日をまたいでしまったようだ。


最後にと、俺は再びキーボードを打ち込む。


もう夜も遅いしこのくらいにしとくよ。

今日はもう四月一だしな。


──くだらないエイプリルフールだな


──バレバレの嘘


──つまらなかったのでイッチは呪われていいと思う


──エイプリルフールだからってつまらん嘘吐いて楽しいのかイッチよ?


捨て台詞のような書き込みをニヤリと笑いながら見つめ、俺はノートをそっと閉じた。







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