第31話 ヒトコワ弍・狩人
晩秋の澄んだ空気の中で、山の木々が紅く山化粧していくさなか、私は十年来の付き合いである猟銃会の友人と鹿狩に来ていた。
互いに無線で連絡を取り合い、獲物を追い詰めて行く。
『足跡だ……むっ、いたぞ!川上から迂回するから挟み撃ちにしよう』
無線から聴こえる友人の声。
首から引っさげた双眼鏡を手に取り覗き込む。
前方の川上に猟銃を構えた友人の姿、そこから少し下った川下に、大人の牝鹿の姿が確認できる。
早足は厳禁だ。
三歩進んだら歩みを止め、獲物を確認しつつまた歩を進める。
適正な射程距離まで詰め寄り、物音を立てないよう細心の注意を払いながら猟銃を構える。
感覚を研ぎ澄まし、神経を集中させる。
照準を合わせ、引き金にそっと指を添えた。
深呼吸をし息を止める。
それと同時に一気に引き金を引いた。
重い金属音の衝撃が耳元で響き渡り、指先から全身に反動が伝わる。
残響する破裂音。
木々の間から無数の鳥達が慌てふためくようにして飛びたって行く。
狙いを定めた照準の先で、獲物がグラりと揺れ動き、地面へと突っ伏した。
銃を下ろし獲物へと駆け寄った。
荒ぶる呼吸を整えながら倒れた獲物を見下ろす。
外傷と様態を確認し、私はポケットからスマホを取り出した。
ダイヤルをタップしコール音が数回なった後に、私は大きく吸った息を吐き出すようにして口を開いた。
「たた、大変だ!し、鹿狩をしていたら友人が目の前に現れて流れ弾に当たっちまった!!」
『場所は?被害者の様態は!?』
鬼気迫るような緊急隊員の声が通話口から聴こえる。
俺は予め決めておいた台詞をさも取り乱したような口調で伝えると、足元に転がる友人の死体を見下ろしニヤリと笑った。
お前が悪いんだ……さんざん陰で俺の悪口を言っていたお前が……ずっと邪魔だった。
ガサガサと音がし不意に顔を上げると、先程の鹿が木々の間からじっとこちらを見ていた。
俺は鹿に手を振りながら、堪えていた笑いを腹の底からぶちまけた。
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