第14話 『スキル』
「……ロリコンの癖に生意気な」
「私の愛はそれほどという事だよ凛華ちゃん。けれど、そっちも大概だね」
……と、息を切らしつつも満足そうに語り合う二人を死んだ魚のような目で眺めていた俺は、手放しかけていた意識をようやく取り戻した。
腕時計を見てみれば十分ほどしか経っていないのだが、体感的には一時間は過ぎていると思っていただけに、それだけ聞きたくない話だったのだろうと推測する。
「凛華、話が終わったなら離してくれないかな」
「ん、あ、ごめん」
若干驚いたような反応を見るに、俺のことをすっかり忘れていたらしい。
存在感が薄いのだろうかと真剣に考え出してしまうが、それはないと自問自答。
こんな見た目の少女を忘れられるだろうか? 記憶力に自信が無い俺ですら絶対に忘れられない。
「話を戻すけど、御剣……さんはなんでここにいるの。まさかストーカー?」
「さん」を付けるのにかなり躊躇った凛華の言葉はもっともだった。
用事がなければわざわざ俺達に構う必要なんてないだろうから、何かしらあるのだろう。
二人の視線が向けられた士道さんは、
「ストーカーだなんて心外だよ。実は康介さんに頼まれてね」
「うちの父に?」
「ああ。なんでも可愛い娘と友人がダンジョンに行くから、その時にちょいと手解きをして欲しいと言われてね」
「……まあ、事情はわかったけど。出会い頭の挨拶はどうにかならなかったの?」
「それは無理だね。こんなにも運命を感じる出会いをしてしまったのだから」
そうい言って俺へとウインクを飛ばしたが、咄嗟に視線を逸らして回避。
こんなのが運命の出会いなんて俺は認めないからな。
とはいえ、康介さんが士道さんに俺達の手解きを頼むって、その内容はなんなのだろう。
「まあ天使様への愛は心の中で叫び続けるとして、康介さんに頼まれたのはスキルについてだよ」
「スキル……? 本当にそんなものが?」
「結論から言えば存在するよ。勿論会得している探索者は一握りだし、情報もそこまで出回っていないから知らないのは仕方ない」
知っている自分たちが有利になるのだから無闇に広めるということをしなかったのだろう。
情報というのは大きな武器になるだけに、その事実がもたらす恩恵は計り知れないだろう。
ただ、それなら既に探索者には知れ渡っているはずなのだ。
しかし、その答えはすぐに提示された。
「情報をある程度規制しているのは、誰でも使えるようになる訳ではないからだよ」
「……つまり、何か条件があるってこと?」
「そういうことだよ、天使様。でも、きっと天使様なら出来ると信じているよ。何せ私の運命の人なんだからっ!」
「梓、アレには構わなくていいからね」
「う、うん」
冷たくあしらう凛華に一応の同調を示しつつも、話は続く。
「まずは二人にスキルを見せよう。その方がどういうものか理解出来るはずだから」
士道さんは腰に吊るされた剣を抜き、洞窟の壁へ向かって構えをとった。
低めに構えたその立ち姿は隙だらけのように見えて、踏み込めばその瞬間に斬られてしまうような鋭利さを秘めたものだ。
洞窟内は静寂に包まれ緊張感が高まって、戦闘中の時の意識へと切り替わった。
そんな空気を斬り裂くように士道さんの右手が閃いて、同時にヒュっという風切り音と同時に何かに壁が粉砕される轟音が洞窟内に響いた。
土煙が巻き起こり、粉砕された大小様々な大きさの石が周囲に破砕手榴弾の如く飛び散る。
それらをいつの間にか構えていたカイトシールドで、俺達に当たるであろうものだけを的確に防いでいた。
粗方落ち着いてから士道さんは振り返って、
「すまない。少し驚かせてしまったかな」
照れ臭そうな、それでいて可愛げのある笑みを俺たちへと向けた。
「遂に人間を辞めたの?」
「私はれっきとした人間だよっ!?」
「はいはい。みんなそう言うよね」
辛辣なコメントにツッコミを入れる士道さんという図式はなんというか新しいものがあった。
しかも凛華がまるで相手にしようとしていないあたりが非常に報われないと思う。
「……はぁ、ちょっとばかりショックだよ。天使様はどうでしたか?」
「率直に言えば驚きました。あれがスキルなんですか?」
「ああ、これだよ凛華ちゃん! これが普通の反応だよ! 普通って素晴らしい!」
「いいから早く説明して」
俺にはオーバーリアクションな士道さんに微妙な気分になりつつも、凛華が急かしたお陰でスキルについての話が始まった。
「えっと、さっき私が使ったのは斬撃を飛ばすスキルだよ。結果は見ての通りだね」
そう言って今しがた粉砕した壁だった残骸をチラリと見た。
剣を振っただけのように見えたが、あれがスキルを使うための動作だったのだろう。
それにしても、斬撃を飛ばすなんて人間には絶対に不可能な芸当をこうして見せられると、スキルがどういうものかなんとなくは理解出来た気がした。
人間では不可能な現象を引き起こすものがスキルなのだろう。
「使い方は……感覚的に『出来る』としか言い様がないんだけれどね。他にも幾つか使えるものはあるけれど、それは秘密だ」
「……はあ、なるほど」
「そしてお待ちかねのスキルの習得方法だけど、これには二通りの道が存在する」
指をピースの形にしてから、一本を折った。
「まずは、スキルストーンというダンジョンのボスからドロップする希少な道具を使うことだね。小さな石ころなんだけれど、これを飲み込むとスキルが手に入る。因みにこっちの方法が
「そんな話は聞いたことがないけれど?」
「それは探索者としての実績が一定以上に達していないからだろうね。いずれ凛華ちゃんも話を持ちかけられると思うよ」
探索者の実績というのは恐らくはランクが関係しているのだろう。
ランクは納めた魔石の量や戦闘能力などを総合的に判断されて決められるものだ。
Eから始まってD、C、B、A、Sという順で上がっていく探索者ランクで、凛華は確かCランクだったはずなので、スキルについて教えられるのはBくらいからなのだろう。
そんな条件があったなんて初耳だし、スキルの習得方法もスキルストーンについても初めて聞く内容だった。
頭の中で整理して、残されたもう一つの方法を聞いてみる。
「てことは、普通じゃない方法があるんですか?」
「そうだね。二つ目の方法は――魔物との戦闘で
「えっ……?」
さらりと言われた内容に驚き、理解をするのに数秒かかってしまった。
凛華はどこか疑っているのか、隣で訝しげな視線を向けていた。
「いきなり死にかければスキルが習得出来ると言われても信じられないだろうし、そう簡単に信じて欲しくもないんだけれどね。でも、これは実際に起こっていることだからね」
「……つまり、スキルを習得したければ私と梓に死にかけろって?」
「そんなことさせる訳がないじゃないか。凛華ちゃんはともかく、天使様を危険に晒すくらいなら私が身代わりになる」
迷いなく言い切った士道さんをかっこいいと思うべきか、余計なお世話だと言うべきか。
……あと、天使様は勘弁して欲しい。
言われる度になんか、こう、ムズムズするのだ。
いや、それは今は置いておこう。
問題は二つ目のあまりに不穏過ぎると感じてしまう習得方法だ。
これが知られてしまえばスキルを求めてダンジョンで死亡する探索者は後を絶たなくなるだろうことが用意に推測される。
だからこそ情報が統制されているのだろう。
「こっちは聞いての通り危険が付き纏う方法だね。しかもスキルを習得出来るという確証はまだない。だから、現実的には一つ目の方法しか取れないって訳だね」
それはまともな思考が出来るのなら当たり前だと思う。
スキルのために死の危険を犯すような人ははっきり言って頭がおかしいとしか言い様がない。
だけど、こうして士道さんから話されるってことは、少なくともその方法でスキルを習得としたことがある人がいるのだろう。
生きていなきゃ話が伝わらないだろうから。
「……で、それを私と梓に言って、あんたはどうする気なの? それだけではい終わり……じゃないんでしょ?」
「ご明察だね。それで、私から提案なんだけど――」
そこで一度言葉を区切って、まるで子供がピクニックに行くかのような無邪気な笑顔を見せながら告げられたのは、
「――ここのボスを倒してみないかい?」
命懸けのゲームの提案だった。
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