お金で愛は買えますか?
お望月うさぎ
第1話
とある国の少女領主はいつも色々なことを主導で進めてきたとても頼りになる領主さまでした。
政治は彼女の作った法で国に平和が訪れ、
彼女が作った兵隊は幾度と無く国を守り、その場には兵隊長と共にまた彼女が居ました。
しかし、やっと冬を越したその国に攻め込んでくる国が現れました。
その国は強国を喰い破らんと兵を進め侵攻している超大国です。
この国はその道中の《休憩所》でしかありませんでした。
力の差は歴然です。
少女は悩みました。悩んで。答えが出ずに、また悩みました。
そしてある日、彼女は兵士達を集めてこう言い放ちました。
「この国もこの侵攻でおしまいです。よって私はこれから今までために溜め込んだ富で三日三晩辞めずに最後の晩餐をしようと思います。今までありがとうございました。これを持ってこの兵隊も解散となります。あともう少しだけ猶予はあると思いますので、もう、なにをしても構いませんよ」
兵士達は何時も先頭に立って自分達の力になっていた少女が宮殿へ閉じこもってしまったことに激しく動揺しました。
実際逃げ出そうとする兵士も居る程でした。
しかしその時、ある一人の男が一際大きな声で叫びました。
「お前達は親離れの出来ない子供か!?違うだろ!?俺たちはこれまで散々ただ1人の女の子に支えされて来たんだ!だから今回は!俺たちが成長した所を見せて欲しいってことなんじゃないのか!あの子が!そんな簡単にこの国を諦めるとでも思ってるのか!」
その男は、若くして兵隊長となった兵隊さんでした。
立場上、領主の少女と何度も作戦を語り合い、この国の未来を語り合った仲です。
話をしている時の少女の顔は、まるで宝物の山を見るかのように輝いていました。
それを思い出していた兵隊長さんは、どうしても少女が本気で国を捨てるとは思えなかったのです。
男の一言で、兵隊は士気を取り戻しました。いえ、むしろ士気が爆発しました。
兵隊達は頑張りました。一般人を装い敵国の陣を通り過ぎる隙に兵糧庫を燃やし、敵国の兵隊が通り過ぎる町や村には何一つ無い状態にして
悪い噂を流し、闇討ちをし、森に罠を貼り、
遂には、退けることに成功しました。
1度も戦闘をせず、誰一人として犠牲者を出さず、退けることだけを目標にし、見事成功させました。
そして全員で列になり、少女の館へ帰還しました。
「我が国の誇る直属兵士部隊、帰還致しました!敵国は侵略路を改め、我が国を遠く迂回する道を選びました!我が隊に損失無し!我が国に、損失無しです!」
泣くのを必死に堪えて兵隊長さんは扉の前で叫びます。
けれど、領主さまは一向に出て来てくれる気配がありません。
「……やはり……この国を捨ててしまったのか……」
そんなことを誰かが言って、皆が俯いてしまったその時、
チャリン。
後ろから、何かコインの落ちる様な音がしました。
皆が振り向くとそこには、大事そうに虹色に輝くコインを抱えたまま唖然としている領主さまが、1枚コインを落として固まっていました。
「な……何してるんですか……?もう兵隊は終わりだって……皆逃げてくださいって……言ったじゃないですか……」
「逃げろ、とは言われてませんね」
「でも……私は……あんなことを言って……それで……」
領主さまはポロポロ泣きました。
それから、国が救われたと聞いてわんわん泣きました。
しばらく経って泣き止むと、何時もの領主さまに戻りました。
「これはなんの為に作ったのですか?」
領主さまが抱えていた虹色のコインを指さして、兵隊長さんが問います。
「良く見てみてください、コインの裏を」
「……これは、私の部下の?」
他のコインにも、1枚1枚別の兵隊さん達の顔が丁寧に掘らています。その数は、丁度兵隊さん達の総人数と同じでした。
「本当はね、どうしてもこの国が諦められなかったから、これを私の部屋に飾ってこの国の最期を看取ろうと思ってたの。でもこれはもういらない。だから」
そう言って領主さまはコインに刻まれた顔に合った人に1枚ずつコインを渡していきました。
「これは今から記念のコイン。この国に私がいる限り、そのコインの価値は無限。なんでも1つ好きな物を買えるわ。……なんならこの土地全てでもね。この私が保証します」
渡し終わった領主さまは皆の前で、そう言い放ちました。
歓喜に湧く兵隊さん達。何に使うか皆ではしゃぎあっています。
でも、1人思い詰めた顔をする兵隊さんが。
それは兵隊長さんです。
気付いた領主さまが心配そうに兵隊長の元に駆け寄ります。
「どうしたの?もしかして、気に食わなかったかしら……?もしそうなら、代わりのものを用意しますから……」
しかし、兵隊長さんは首を振ります。
「いいえ。……ただ、1つ、失礼なことを言っても良いですか?」
「…………?」
「……このお金で、あなたの愛は、買えますか?」
「……!……いいえ。買えません」
そうして、笑って、言いました。
「だって、もうあなたに売ってしまいましたから」
朗らかな微笑みから、残っていた涙を春風が撫でてゆきました。
お金で愛は買えますか? お望月うさぎ @Omoti-moon15
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