神生争談
@flame_crow
プロローグ
神様は、いるのでしょうか?
世界が一変した日――〝
2030年12月31日午後11時27分――日本上空に突如、全長二百メートルを超える機械の巨人が現れました。その姿は全体として鋭利なフォルムで、刃のような翼を羽ばたかせ、全身が黒に染まっていたことから、〝悪魔〟と呼ばれました。
〝悪魔〟は、全世界に向けて翼を放ちました。着弾した翼からは、〝悪魔〟と同じような小型の人型機械――〝使い魔〟が現れました。〝使い魔〟は、世界各地の発電施設や油田等、エネルギーがあるすべての場所を襲い、世界を暗闇に染めました。各国の軍は防衛しようとしますが、まったく歯が立ちませんでした。最新の武器も、核兵器も効きませんでした。
七歳になったばかりの私は、真っ暗になった家から両親と共に脱出し、避難所――小学校へ向かいました。小学校の中は、逃げてきた人で埋まっていて、冬だというのに異様に暑かったことが印象的です。
幸いにも、〝悪魔〟が襲ったのは大規模な施設だけで、小学校には来ませんでした。ただ、真っ暗になった外を見て、私は神様というものがいないのではないか、と思いました。
ところが、事態は急変しました。
〝悪魔〟が世界を制圧してからしばらくすると、再び日本上空に巨大な物体が現れました。〝悪魔〟とほぼ同じ姿をした機械の巨人――〝悪魔〟よりも人に近く、全身から緑色の淡い光を放っていました。それは、〝悪魔〟を倒すために動いたので、後に〝神〟と呼ばれました。
〝神〟は、〝悪魔〟と戦い始めました。
二体の巨人は、銃、剣、拳、果ては炎や雷といった魔法のようなものまで、多種多様な攻撃方法を使って、戦っていました。
その余波は、世界各地に影響を及ぼしました。彼らが放つ攻撃は、片方がそれを避けると、一国の半分近くが瞬時に消し去りました。傷つき落とした巨人の腕や足といった構成物は、それだけで幾つもの建物を壊し、何千何万もの人々が死んでいきました。
私の避難している場所も、例外ではありません。両親はそれに巻き込まれて亡くなり、たまたま私だけが生き延びました。他の生き残った人々は逃げたけど、私はどこに逃げても同じだと直感的に悟ったのです。その場で、巨人の戦いの行く末を、見守ることにしました。
互いに傷つき、巨人の戦いは終焉へと向かっていました。翼は共に折れ、二つの巨人は私のいる小学校の近くに降り、殴り合いました。そして、最後の激突が始まりました。
黒い巨人は全身から銀色の輝きを放ち、緑の巨人は全身を金色の光に染め、ぶつかりました。
その激突は、互いのすべてを賭けたものでした。銀と金のエネルギーは世界中に飛び散り、今まで以上の被害が起きました。後で判明したことですけど、最終的に世界の総人口は百分の一以下にまで減少したそうです。
やがて、銀色の光が消えました。〝悪魔〟の両腕は粉々になり、黒い巨人は力尽きました。
私は、巨人の戦いが終わってから、走り出しました。
なぜ走り出したかは、よく覚えていません。多分、自分が殺されるのは覚悟の上で、文句の一つでも言いたかったからだと思います。
巨人たちの前に私が立つと、緑の巨人のコックピットが開きました。そこから、青年が降りてきました。腰まで伸びた、緑色の髪が印象的な青年です。
青年は、私の下へと歩いてきました。そして、
「……すまない」
地面に膝をつけ、私の肩を掴んで謝り出しました。彼の瞳から、幾粒もの雫が落ちています。
「すまない、すまない……」
彼は、何度も、何度も謝りました。
私は、彼にどんな言葉をかければ良いのか分かりませんでした。
もちろん、両親が死んだ原因の一端は彼にあります。責めたくもなります。ですが、彼は多分、あの黒い巨人から人々を護るために戦っていたと思います。結果として被害は出たけど、それでも彼は、人のために戦っていました。おまけに、心底自身の過ちを悔いています。そんな人を責めることは、私にはとても、できそうになかったのです。
だから、私は口を閉ざすことにしました。何か聞こうとも思いましたが、幼心に、彼が抱えていることが理解できないものであることは、察することができたからです。
彼は、しばらくの間泣いて、謝っていました。いつまで謝っていたのか、私は覚えていません。ただ、長い間、彼は謝っていたと思います。
その後、彼はようやく俯いていた顔を上げ、私を見ました。整った顔立ちで、絵画に描かれた人が息をしているような、そんな若くて綺麗な人でした。ただ、今まで見てきた人の中で、一番悲しそうな顔をしていました。きっと、私が想像する以上に、多くのものを失ってきたのだと思います。
彼は、あまり多くのことは語りませんでした。私がどんな子で、どんな風に生きて来たか、という様に、私のことを聞くばかりでした。
ですが、私が今後生きていくために必要なことを教えてくれました。たとえば、
『どんな状況でも、生きることを諦めないで、考えて足掻いて』
『人のためにすることは、いつか自分にも返ってくる。だから、できるなら、困っている人がいたら助けなさい』
といった、心構えのようなものです。難しいことも教えてくれましたが、私はなんとなく、それが分かりました。彼の言葉は、私の中に深く刻み込まれました。
それから、彼はお守りだと言って、虹色に輝く一個のペンダントをくれました。これを持っていれば、いつかまた会えると言ってくれました。ただ、
『でも、これはただの物に過ぎない。物に固執して、大切なモノを失ってはいけない』
と、良く分からないことを言っていました。
彼は必要な事を伝え終えると、最後に笑顔で別れを告げ、巨人と共に飛び立って行きました。
私はその姿をずっと、ずっと見ていました。彼が消えた後も、私はしばらくの間、その場に佇んでいました。
そして、〝世界の崩壊日〟で西暦が終わり、新西暦11年1月。
――私は、再び青年と出会った。
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