俺は愛に死ぬッ!

@chauchau

実際の所少し嬉しいのが困る


「結婚しよう!」


「出来ません」


「どうしてだ! 確かに、確かに俺たちの間に多くの障害があることは認める! だが、それらは全て乗り越えられるはずだ!」


「そうかなぁ」


「どうしてそんなに怖がるんだ。そんなに俺たちの間の障害が怖いのか? 例えば、……そう、歳の差とか!」


「四百年くらいの差はあるね、でも、まあ、そこじゃないかなぁ」


「体格の差かっ! 大丈夫、俺は君をお姫様抱っこ出来るッ!」


「身長差は1m以上あるかな。ああ、試そうとしないでね。お姫様抱っこされるとか恥ずかしいから」


「見た目の差だろうか!」


「確かに私たちは大きく異なるね。君は人間で、私はそもそもが骨だ。というより、ローブ姿の巨大骨ジャイアントスケルトンで、くわえて顔は羊の骸骨。どこに惚れる要素があるのやら」


「君のためなら故郷を捨てる覚悟は当の昔に決めている!」


「君は元々孤児だから故郷に良い思い出とかないんじゃなかったっけ」


「俺が勇者で、君が魔王だというのが悪いのか!」


「良い悪いで言えば間違いなく悪いだろうね。でも、そこでもないかなぁ」


「じゃあどうしてなんだ! 俺たちの愛を邪魔する一番の障害は何なんだ! 教えてくれ!!」


「うん、だから」


「ああ!」


「そもそも私は君を愛していないんだって」





――バァァァァン!!


「「勇者ァァァアアァアア!!」」


「む。女魔法使いに経験値魔王四天王か。今回は早かったな」


「やかましいッ! 毎度毎度厄介な結界を張ってくれてんじゃないわよ!」


「貴様! 吾輩の呼び方今おかしくなかったかッ!」


「おお、二人とも待っていたぞ。早速で悪いが彼を執務室から連れ出してくれるか」


「本当に、すいません。いつもいつもあたしの連れが本当にご迷惑ばかりおかけして」


「構わんよ。君も大変だな、女魔法使い。それと……、全身コゲついているようだが、大事ないか四天王よ」


「はっ! ご心配をおかけしました。勇者やつを止めるために準備していた爆破トラップに自ら引っかかってしまいこのようなことに……!」


「そ、そうか」


「ははっ、だっせぇ」


「五月蠅いわ、貴様ァ!!」


「いいからあんたもとっとと出るの! これ以上魔王さんの邪魔してんじゃないわよ!!」


「離せ、女魔法使い! 今、俺と彼女はなによりも大切な愛の話をしているんだ!」


「そこに愛はないって何度も言われてんでしょうが!」


「もう少しなんだ!」


「ンなわけあるかァ!」


――バタン


「やっと静かになった」


「城門を開放するのはもう止めに致しませんか。奴らは……まあ、アレですが、やつら以外にも、多くの冒険者が日々魔王様の首を狙ってやってきております」


「それら全てを、殺さずに追い返してくれていること感謝が尽きんよ」


「……それが、魔王様の望みでしたので」


「ここから見える風景をどう思う」


「痩せた土地、ですな」


「そうだ。私たち魔族はその身に膨大な魔力を宿し、生まれてくる。それゆえにヒト族より個として優れているが、だが、無意識のうちに漏れ出る多すぎる魔力が水を、空気を、そして土地を犯していく」


「あくまで、説の一つにすぎません」


「だが、ほぼ事実であると言われている説だ。私たち自身は犯された土地でも生き抜くことが出来る。だが、他の生き物はそうではない。生物の居ない川、枯れてしまった森、崩れていく山々。もう、このままではどうすることも出来ない」


「だからこそ、歴代の魔王様は肥沃な土地を求めてヒト族を!」


「無理だよ。個として優れているといってもそれは多少程度。才ある者であればいくらでもひっくり返すことが出来る程度の差だ。だが、私たちと彼らでは出生率に大きな差がはっきりと存在している。このまま戦い続ければ消え去るのは私たちだ」


「…………、魔王様の御考えは理解しているつもりです。そのためには、やつらと共存の道を歩まねばならないということも。ですが! 変えようのない膨大な過去がある! ヒト族との歴史は殺し合いの歴史! やつらは当然として、同族のなかにも魔王様の御意思に反対する不届きものは今なお数多く存在しております!」


「だからこそ、門を閉じるわけにはいかないのだよ。共存を唱える私が、異を唱える者の言葉を耳にしないなどあっては示しがつくまい」


「それで貴女が死んだらどうするのですかッ!!」


「…………」


「……申し訳ございません」


「構わん」


「ですが、どうか考えては頂けませんか。このままでは御身に危険が及ぶのも時間の問題。魔王様の身にもしものことがあれば、吾輩は、吾輩は……ッ」


――バァァァァン!!


「だから俺と結婚を!」


今真面目な話をしているんだシリアスシーン真っ最中だ、どっか行けぇぇ!!」


「すいません、少し目を離した隙にほんっっとにすいません!!」


「いいや行かないね! 惚れてる女が苦しんでいる時はそっと傍に居てやるのが男ってもんだろうが!!」


「貴様の何処にそっと要素があるのだ!!」


「男が四の五の言ってんじゃねえ!」


「五月蠅いわッ!!」


「魔王! 君が悩んでいることを解決する方法がある!」


「おぃ、無視するなッ!」


「一応聞こう」


「俺と結婚しよう!」


「帰れぇええ!!」


「落ち着きなさい、四天王。それで? 君と結婚することでどうして私の悩みは解決するのかな」


「君は知らないかもしれないが、ヒト族の間では勇者という名はそれはそれは影響力がバカでかいんだ!」


「それは知っているよ。なにせ勇者信仰なんてものまであるくらいだものね」


「つまりはそんな俺と結婚をして、ちょー! ラブラブっぷりを周囲に示せば、『なんて素晴らしい夫婦なの! あの二人の間を割くなんて出来るわけがない! これはもうヒト族と魔族は共存するほか道はないわ!』とこうなるに決まっている!!」


「なるかなぁ?」


「大丈夫だ、ならない場合でも考えがある」


「ほう、二段構えは好きだよ。どうするんだい」


「俺の力を以てして、言うことを聞かない世界を滅する」


「魔王か貴様は!?」


「魔王は彼女だ!」


「どちらにせよ。そういう手は取りたくないよ。だいたい、まず勇者と魔王が結ばれることを祝福するものか」


「そこは安心してほしい。女魔法使い、例の物を」


「人を秘書みたいに言わないでよ、はい、どうぞ」


「書物? なんだい、これは」


「俺たちの世界では、昔から読み物で異種族との結婚をモチーフにしたものが数多く存在している。そのなかでも、魔王と結ばれたおとぎ話を集めたものだ!」


「ふむ……、なるほど? それにしても、日々魔王という驚異に晒されているなかでこういうものを書いてしまうとは、君たちヒト族の想像力は目を見張るものがあるね」


「想像力豊か、という点では俺も同意しよう。まったくもって俺のように現実しか見ないものには考えられないものばかりで頭が下がる」


「魔王さんと結婚なんて言っている時点であんたも十分想像力豊かよ」


「むしろ、妄想力と言うほうが良いかもしれんぞ女魔法使い殿」


「ああ、そうですね四天王さん。そっちのほうがぴったり」


「それで?」


「ああ、すまない話がそれてしまったな。つまりだ、このような物語が存在している以上、ヒト族のなかにも魔王との結婚を祝福してくれる可能性を持つものは必ず存在しているということだ。ほらいける!」


「最後雑だな」


「……俺は、勇者と言われても所詮はちっぽけな人間だ。出来ることは限られているし、出来ないことのほうが多い。でも、君と一緒に歩む未来のために出来ることはなんでもする! こんな書物を集めることしか今は出来ていないけれど、勇者の名を使ってでも必ずなんとかする! 俺の全てを用いて君との未来を正当化してみせる!! だから……!」


「……」


「君の心のままに生きてほしい」


「だから心のままに君を愛してはいないと言っているんだが?」


「結婚は習うより慣れろだと薬屋の婆ちゃんも言っていたから大丈夫だ!」


「無茶苦茶か貴様はァ!!」


「はい、もぉ! 今日は帰るよ!!」


「勇者は二度と来るな!!」


「なんだ! 女魔法使いは良いってか! 差別か! 覚えてろぉぉぉお!!」


「はいはい」


「またな」


「魔王ぉぉお! 明日もまた来るからぁああ! 愛してるぅう! 君を誰よりも愛して、」


――バタン


「魔王様」


「どうした」


「城門を閉めましょう」


「うぅん……」

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