マン×ドール オーバーライド
蒼風
プロローグ
夜、山あいの開けた場所に人工の建造物がある。四方を高い塀に囲われておりその敷地内には地上七階建ての無機質なビルを中心に複数の建物が存在していた。
主な出入口であろうゲートは大きく頑丈な鋼鉄の扉で閉ざされており関係者以外の侵入を拒んでいる。
ゲート正面の左側には守衛の詰所があり待機中の守衛が二人、世間話をしていたが突然の呼出し音に中断される。
『本部より各員へ、Eエリアのセンサーに動きがあった。誤作動の可能性もあるが警戒せよ』
その言葉がが終わるなり一人が端末のスイッチを入れ
「こちら正面ゲート、了解した」
本部への返答をする。そして行くか、ともう一人に声をかけ出入口近くに立て掛けてあった小銃を取りゲート前に移動した。
ゲートを背にして辺りを見回す。塀の上の仲間がサーチライトで周囲を照らすが何もない。
やはり誤作動じゃないか?と片方が呟く
その時だ。前方の道路の先の方から音が聞こえた。
二人は銃を構える。音が近づくにつれ振動が大きく足元に伝わってくる。
そして巨大な影が姿を現した。すぐに複数のライトによって照らされ正体が露になる。
6つの太い脚を持ち胴体に戦車の砲搭を載せた姿、それは
「鉄蜘蛛だと…」
一人が呻いた。こんな山奥にいるはずの無いものだからだ。
「本部!こちら正面ゲート前!鉄、鉄蜘蛛が現れた!至急応援を頼む!」
本部へ報告するが応援は間に合わないだろう、しかしこのままにしてはおけない。
撃て!と指示を出す。異変に気付き駆けつけた者、塀の上の者など数名による射撃、だが彼らの装備では鉄蜘蛛の装甲にダメージを与えること出来ない。
『あー、あー』
ノイズ混じりの声がした。それが鉄蜘蛛のスピーカーから発せられたものだと気付いた守衛は攻撃を中止させる。
『警備の諸君、お勤めご苦労!だがこれからそのゲートを吹っ飛ばす!』
場違いな調子の声に困惑する守衛
『5秒やろう!だから死にたく無い奴はさっさと逃げろ!5ー』
はあ?と声が出た。しかし目の前の状況を見るとこれは脅しではない。
『4ー』
そう判断した瞬間、守衛はすぐに体を森の方へ向ける。
『3ー』
退避ー!と叫び全速力でその場から駆け出す。
『2ー』
無我夢中で走る。
『1ー』
顔を両腕で隠し茂みへ飛び込んだ。
鉄蜘蛛の内部、覗き窓からゲートから離れて行く守衛達の様子を伺っていた男は笑みを作る。
「そう、それで良い」
そして、撃てと砲手に指示する。爆音と共に発射された砲弾は扉に命中、大きな爆発を生み2枚の鋼鉄の扉を吹き飛ばした。鉄蜘蛛は崩れかけたゲートの下をくぐり敷地へと入ると50mほど移動したところで足を止めた。
「そんじゃ行きますか」
砲搭上部のハッチが開き一人の男が姿を見せる。夜にも関わらずサングラスを掛けロングコートを風になびかせる。脚越しに地面に降り立つと高らかに言い放った。
「我々は逃げる者には危害を加えない、だが挑んでくる奴がいたら全力で答えよう!」
一台の装甲トラックがゲートをくぐり入ってくると男の後方に停まり後ろから武装した集団が降りてくる。男は振り返り
「そんじゃ、この辺は任せたわお前ら」
そう言うと中央のビルに向かって歩きだした。
混乱する敷地内、ビルまであと少しという所で男は突如振り向きながらに腰の銃を抜き2発撃つ、見るとそこには小銃を持った警備兵いたが右足と右肩に弾を受け崩れ落ちた。 男は銃口を警備兵の頭に向ける。
「不意討ちなんて考えないことだな、悪いが俺にはそういうのは全て視えてるんでね」
何が目的だ?右肩を押さえ痛みに顔を歪ませながら警備兵は問う。
「ちょっとあのビルの地下に用があってね」
男は銃を元の位置にに戻すとこれ借りてくわ、と男は落ちている小銃を拾い再び歩きだ した。
ビルに入ってからも警備に囲まれたが男はそれらを無力化していく、ふとフロアの天井の隅に設置されている監視カメラに目が止まる。興味津々に近付き恐らく全身が映るだろう位置に立つそして
「右手はチョキで、左手もチョキでー」
左右のチョキをカメラに向け
「イエーイ!」
本人が一番面白いと思う変顔を決めた。
「何をしとんるじゃ貴様はー!!」
後ろから響く声、そして本気の蹴りが男を襲う。
「ぐえーっ」
床を3回転がり壁ぶつかり止まる男、しかしすぐに仰向けに倒れる。見上げた視線の先にはこめかみに血管を浮かせながら怒りを顕に自分を見下ろす腰に長刀を吊るした眼鏡の男が立っていた。
「よう、遅かったじゃないか」
「よう、じゃない!貴様今何してた!?」
「へ?カメラあったからアピールしとこと思って」
眼鏡は男の胸ぐらを掴み無理やり立たせる。
「どこの世界に襲撃した施設のカメラにダブルピース決める馬鹿がいる!」
「ここにいるぜ!」
男は親指を立てどや顔で答える。眼鏡は怒りのボルケージが一瞬最高潮に達したが、すぐに冷静になり呆れ顔になりながら男から手を話した。
「全く、貴様には付き合ってられん!」
男に背を向け地下への階段の方へ歩きだす。
「あー、待ってくれよー」
駆け足で追い付く男、そして二人並ぶ形になる。
階段を降りると長い通路が続いていた。
「おい」
眼鏡が口を開いた。
「ん?」
「一つ聞きたいんだが、何故今回貴様はここまで動いた?しかも鉄蜘蛛まで持ち出して」
男は少し天井を眺めたあと切り出した。
「俺の目的とやるべきことが一致したからかな」
「それは一体…」
眼鏡が聞き返そうとしたとき、正面の丁字になっている箇所その両側から装甲服が二人が現れこちらを狙ってきた。
だが装甲服達が撃つよりも速く眼鏡が距離を詰め二人の間に滑り込む、そして腰の長刀を鞘ごと掴み引き抜くとまずで左側の装甲服の守られていない喉元を素早く小尻で突く、その後長刀を回転させ持ちかえると反対側から迫っていた装甲服も同様に喉元突きバランスを崩したところに膝蹴りを繰り出した。それを受けた装甲服は仰向けに倒れ動かなくなる。
その傍ら何とか立ち上がった左側装甲服に対してサングラスがおりゃー!とハイキックを決め上半身を壁に叩きつけられた装甲服はそのまま崩れ落ちた。
「あー、危な」
「油断するなよ貴様、それでこれはどっちに行くんだ?」
「こっちこっち」
二人は左側の通路に進む。少し歩くと男はある扉の前で立ち止まる。
「ここに、貴様の目的のものがあるんだな?」
「ああ」
男が扉に手を掛けようとするが、すぐ側の壁に電子錠の操作パネルに気づき手を止める。
「どうした?」
眼鏡は動作を中断した男に問う。男は爽やかな笑顔を見せると
「開け方わかんない」
てへ、と舌をだす。眼鏡は一瞬固まったがフー、と一息つくとゆっくりと長刀を抜き刃先を男に向けキレた。
「何が、わかんないてへ、だー!馬鹿かこの場で叩き斬るぞ!」
「まーまー落ち着け、ちょっと待ってくれよ」
「私を怒らせてるのは貴様だろうがー!」
そんなやり取りをしていると男の胸元から呼出音が鳴り始めた。男は通信機を取り出す。
「ん?俺だけど」
『あ、隊長っすか?こっちは指示されてた作業終わったっす』
通信の相手は別動隊のメンバーだ。
「おー、ご苦労さん、それで結果は?」
『ここのシステムの中枢部に潜ってメインの記憶装置覗いたんですけど、まー隊長の読んでた通り黒いデータがわんさかで』
「おーやっぱりか、了解、それじゃ重要なやつ優先でコピーとって撤収してくれ、あとわざと痕跡は残しといてな」
『了解っす、それじゃあ』
「あっ、ちょっと待て実は今目的地なんだがドアが」
『あー、はいはい、っと、そっちのロックは解除したっす、それじゃあ』
プツンと通信が切れる。二人が再び操作パネルを見ると緑のランプが点灯している。
「流石だなあいつは」
「だろう、スカウトした俺の目に狂いはなかったぜ!」
「貴様は黙ってろ」
「えー」
ドアを開け部屋に入る。そこは倉庫になっていて様々な表記の段ボールやケースが積まれている。男は迷うことなく奥に進みだし眼鏡がついていく。
「本当にここにあるんだな?」
「ああ、間違いない」
部屋の奥、そこには一つのカプセルが台の上に置かれていた。人が一人入れる程の大きさで床には電力を供給するためのケーブルが通っている。
「これは何だ、棺桶か?」
カプセルの周りを歩きながら眼鏡が言う。男はカプセルの小窓から漏れる光に照らされながら口元に笑みを作ると言った。
「いいや、これはゆりかごさ」
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