第9話 一人にしてくれ
今日も今日とて、こころから手紙を受け取った。
全く、何回やっても彼女にする気はないって言っているんだがな。
そんな事を思いながら、でもどこか今日はどんな風に告白してくるのだろうかと楽しみにも思いつつ俺は指定された空き教室にやってきた。
「おいこころ、今日はいったい何を企んで…?」
そう言いながら教室に入った俺の言葉は途中で途切れる。
目の前にいたのはこころではない別の女子だったからだ。
「あれ…?間違えたか…?」
「ううん、合ってるよ。来てくれてありがとう。高瀬君」
「えっと、君は確か、同じクラスの小峰さん?」
「あはは、名前覚えていてくれてたんだ」
「まぁ、そりゃあクラスメイトだしね。それで?どうしたの?」
「うん、えっとね。私、高瀬君のことが――」
***
「~♪」
私はスキップしながら目的の場所へ向かっていた。
今日こそはお兄ちゃんの彼女にしてもらう。
たとえ上手くいかなかったとしてもまた挑戦すればいい。
前に試したパターンの中で悪くない物を思い出して、多少アレンジも加えてみた。
これでお兄ちゃんをときめかせる事ができればいいな。
「…うわっ」
教室に着いた私は慌てて身を隠した。
中にもう人がいた。
「あれはお兄ちゃんと…誰?」
***
その言葉を聞いた瞬間、俺の思考は完全に停止した。
自分が何を言われているのか全く理解できなかった。
「えっと…え?小峰さんが、俺を?」
「うん、そう。つき合って欲しいの」
「……」
改めて聞いてもダメだ。
全く思考が働かない。
「……」
「急にこんなこと言って、ごめんね?返事、今度でいいから、じゃあね!」
「あ、小峰さん!?」
そう言い残し、小峰さんは教室を出て行ってしまった。
「…うぐ」
一人、教室に取り残された俺は思わずえずいてしまい、空席に腰を下ろした。
「お兄ちゃん?」
「…あぁ、こころか」
「えっと、その。今のって…」
「何だよ、見てたのか…。趣味が悪いな」
「あ、あ~…。そんなつもりじゃなかったんだけど…」
「…悪い、今日はお前の告白に付き合える気分じゃない。先に帰ってくれないか」
「え、でもお兄ちゃんは」
「俺は、えっと、少し頭を冷やしてから帰る」
「そか。うん、わかった」
「悪いな」
「大丈夫?すごく顔色悪いよ?やっぱり私も一緒に」
「今は、その。一人にしてくれ…」
思わず食い気味にこころの誘いを断った。
「…わかった。じゃあ先帰るね。お兄ちゃん」
「ああ…」
そう言い残してこころも教室を後にした。
これで今度こそこの場所にいるのは俺一人。
「…はぁ」
その嘆息は最近のそれよりも大きく意味が変わっているのだった。
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