僕の夏休み!自由研究「米第七艦隊に単独で挑む方法!」

神谷将人

第1話 高橋慶太11歳、小学生独身

「……今日から夏休みかぁ。しかも小学生最後の夏休みだもんなぁ」



 明るい陽射しが窓から差し込み、窓の外ではセミの鳴く声が姦しい。


 北陸の夏は短い……なんて事は全然無く、実はフェーン現象と言う、とってもえげつない科学現象のおかげで、実は日本の中でもトップクラスに暑い。


 しかもどうせ暑いんだったら、日本一ぐらいになれば良いのに、微妙な所でトップグループを形成しているだけ……と言う所が北陸の奥ゆかしい所とでも言うべきかな。



「夏休みの自由研究何にしよっかなぁ……」



 窓から望む山々の新緑を眺めながら、ちょっと独り言。


 昨年は、そのフェーン現象についての調査を行うついでに、ペットボトルを使って、ミニフェーン現象を起こす装置を作ったんだ。


 五年生の夏休みの宿題「工作部門」で優秀賞を取る事が出来たんだよ。


 あの時の母さんの喜び様ったら無かったなぁ……。じーちゃんなんて、「この子は天才じゃ!ワシの後を継ぐのはこの子しかおらん!」とか言っちゃって……。


 その時の事を思い出して、一人クスクスと思い出し笑いをしちゃう。



「慶太ぁーご飯だよぉー。もう起きなさーい。夏休みだからって、いつまでも寝てちゃだめだよぉー」



 台所の方から母さんの声が聞こえて来る。


 のんびり屋さんの母さんだけど、日常生活はいつも規則正しい。


 専業主婦なので、いつでも自宅にいるから、昼間は結構ゴロゴロしてるのかなぁとか思ってたけど、じーちゃんの家に住んでいる外人のお姉ちゃんを連れて来て、母さんが作ったお手製の洋服を着せてみたり、二人でケーキを焼いてみたり。


 でも、本当の母娘みたいに楽しそうなんだよなぁ……。



 自分はこの家では一人っ子なので、そうやってたまに(嘘うそ……結構頻繁に)遊びに来てくれる人がいるって言うのは、家の中が賑やかになって楽しいとも言えるよね。



「おはよぉ……」



 パジャマから部屋着に着替えた僕は、襖が開け放たれた廊下側の入り口から、居間の方へと入って行ったんだ。



「あっ、おはようございます。慶太ぼっちゃん」



 台所の方から、スラリとした美人の外人さんが、流暢な日本語で話しかけて来たよ。


 この人は、ダニエラさん。


 この人もじーちゃんの家に住んでいるんだけど、時々こうしてお手伝いに来てくれるんだ。


 ダニエラさんはとっても賢くて、しかも手先が器用なんだ。


 それで、いつも僕の宿題を見てくれたりしてるんだけど、……そうそう、去年の夏休みの自由研究も、ダニエラさんと一緒に作ったんだよなぁ。


 僕が居間の大きなテーブルの前に座ると、ダニエラさんがテキパキと俺の前に朝食を並べてくれるんだ。


 この前なんて、俺が朝食も食べずに、このまま「ぼーっと」座ってテレビを見ていたら、いつの間にか俺の隣に座って、ご飯を俺の口に運んでくれていた事があったっけ。


 流石にその時は、台所から居間に入って来た母さんに「自分で食べなさい!」って怒られちゃって、しかもダニエラさんまで母さんから「もぉ、慶太を甘やかさないのっ!」とか言われちゃって、あの時は大変だったなぁ。たはははは。



「いただきまーす」



 早速、ダニエラさんが用意してくれた朝食を食べ始める。


 うん、美味いなぁ。このお味噌汁。いつもの母さんの味だ。……それよりも、このちょっと崩れた目玉焼きは……。


 僕が目玉焼きに箸を伸ばそうとすると、なぜか台所と居間を行き来していたダニエラさんが、ピタリとその足を止めて、僕の食べる様子を伺っているみたい。


 あぁ……この目玉焼き、ダニエラさんが作ったやつだなぁ。


 黄身が少し破けて、表面上は白身がまだ半生。にも関わらず、卵の周りには少しお焦げが残ってる。



 ――パクッ!



 僕はその目玉焼きを一口食べると、ダニエラさんへニッコリ微笑んであげたんだ。



「……この目玉焼き、おいしいねっ」



 ダニエラさんは、もの凄く不安な様子で僕の顔を見つめていたけど、僕のその言葉を聞いたとたん、みるみる笑顔になって。なんだったら、ちょっとスキップしながら、台所に戻って行っちゃった。


 ふぃぃ、僕は空気の読める小学生だからなぁ。それに、外人さんが目玉焼きを作ったんだから、このぐらいは大目に見ないとねっ。


 そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと朝ごはんを食べる事に。


 つけっぱなしだったテレビには、アメリカの大きな空母が日本の横須賀港へ来るって言うニュース映像が映し出されているみたいだね。



「わぁ、大きな戦艦だねぇ。強そうだなぁ」



 思わず箸を止めて、僕が画面に見入っていると、いつの間にか、ちゃっかり俺の隣に座って、お茶を入れてくれていたダニエラさんが、にっこりとほほ笑みながら俺に説明してくれたんだよ。



「ぼっちゃん。あれは戦艦ではありませんよ。あれは、空母と言う原子力船で、船の中に沢山の航空機を格納する事ができるんです。そうですねぇ今映っている空母はニミッツ級航空母艦だと思われますので、搭載機はおよそ70機、乗員はおよそ3200名程度でしょうか。本気を出せば、地球上の地表のおよそ70%程度を焦土にする事が出来るだけの戦力を持っていると言えますね。この時代の最強、最大戦力と言えるかもしれません。……まぁ、私には遠く及びませんが……」



 ダニエラさんは湯呑にお茶を注ぎ入れながら、とてもキラキラした目で、そう、乙女が白馬の王子様でも見る様な、とってもキラッキラした目で、一気に僕に捲し立てて来たのさ。


 あぁ、ダニエラさん、機械いじり大好きだから、空母とかもドストライクなんだろうなぁ。……でも、最後の「……私には遠く及ばない」って何だろう……。時々意味不明な時があるんだよなぁ、この人。



「……あぁっ、それより、お茶、お茶っ! めっちゃこぼれてるよっ!」



 ダニエラさんの手元を見ると、いま注ぎ入れたお茶が湯呑からがっつり溢れている。



「すっ、すみません!。すぐに片付けますので。」



 慌てて、台所へ布きんを取りに走るダニエラさん。


 もぉ、ダニエラさんって、真面目で、何でもできる人なのに、時々ポンコツなんだよなぁ。


 僕は、ダニエラさんの焼いたちょっと焦げのある目玉焼きを口に運びながら、しみじみとそう思うのさ。

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