ありがとう。僕の奥さん。

ドーナツパンダ

第一話

「真未」

「どうしたの?」

「これ…」

一通の手紙。


「愛してる」

拓己からの手紙に書き込まれた一つの言葉。

診断の結果は、アルツハイマー病だ。


10年も一緒に歩んできた夫婦。


一目惚れだった。

花に囲まれる彼女が天使のように見えた。


幸せにしたい。そう思っただけなのに…。


愛する人と愛されてる人のそんな切ない物語。


拓己の年齢は、僅か35歳。

「嘘でしょ?」

突然過ぎるよな?

でも、俺には残りの時間しかない。

残酷過ぎる現実を受け止めてくれた妻だった。


「真未…俺たち別れよう」

「え?」

「俺は、どんどん記憶が残らなくなる。そして、君のことも思い出せなくなって、君と過ごした日々や君との会話も俺の中から消えていく。

それでも…それでも…俺は、俺は……!」

震える拓己の両手を泣きながら真未は重ねた。

「君を愛してる」

「私もだよ」


「だから、最後のお願いだ」

そっと優しく真未の耳元で囁いた最後のお願い。


『ずっと見守ってるから。

だから、どうか俺のことは忘れて、自分らしく生きてくれ』


「さようなら。真未」


さようなら、僕の天使。

さようなら、僕の奥さん。

さようなら、世界。


「ありがとう。僕の奥さん」


「ごめんな。真未」

視界がぼやけていく。

最期は…笑いながら、泣いてしまった妻が俺の結婚指輪がはめてる左手を強く、優しく握ってくれた。


「せめて、最後まで君と恋がしたかった」


最期の言葉で息を絶った。



「貴方をいつまでも愛してます」


天国でも見守ってるから。だから、俺の分まで生きてくれ。


ずっと、ずっと愛してるから。

だから、また来世でも夫婦でいような。

そして、死ぬまで離れないでいよう。


約束するから。


〜終わり〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありがとう。僕の奥さん。 ドーナツパンダ @donatupanda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ