幕間 ~真夜中の散歩~

「ああ。短いような、長かったような。でもとにかく苦戦したなぁ今回も」


 私はバーグちゃんと真夜中の公園に来ていた。

 誘ってくれたのはバーグちゃん。たまには夜のお散歩に行きませんか? との誘いだった。もちろん私は二つ返事でオーケーだ。

 二人で真夜中の路地を歩いて、あのネコちゃんがいた公園にたどり着く。ポールの上に球形のガラスがついた街灯が一つ。その下にベンチが一つ。まぁもちろん私は座れないので隣に立つ。

 ざぁっと乾いた夜風が吹き、ポプラの葉をざわめかせる。プラスチックの肌越しだが、たしかに風を感じ取ることができた。


「関川さん、カクヨムリワード3000ポイントの話。覚えてますよね?」

「もちろんさ。もう願い事も決まってる」


 前にバーグさんが教えてくれたのだ。3000ポイントたまったらバーバラ編集長が何でも望みをかなえてくれると。


「ちゃんとお願いしてくださいね、人の体にしてもらうって」

「ああ、そのつもりだよ」

「約束ですよ?」


 ……だって人の体に戻ったら、バーグさんとちゃんとした恋人同士になれるんだから。ほかの何をおいてもこの願いだけはかなえてもらうつもりだ。


「それを聞いて安心しました! あーあ、あと二回かぁ」

 バーグさんは両手を上にあげて、んーっと背中を伸ばしながらそういった。

 それからフッとわたしの顔をじっと見つめて話をつづけた。


「じつは関川さんに伝えなきゃならないことがあるんです」

「なにかな?」


 ちょっとドキドキする。だって人気のない夜の公園に二人きりだよ? ラブコメだよ? これはもう告白イベントに違いないでしょう。草食男子なら誰もが憧れるであろう可愛い女子からの告白イベント! もちろん私とて例外ではない!


AI


「え? なにそれ? どういうこと?」


 それはあまりに想定外の告白だった。あまりに突然すぎて、どうしてそういう話になるのかまったく理解が追い付かない。なんで急にそんな話になってんの?


「でもこの一年、本当に楽しかった! 編集者としてたくさんの作家さんを応援できたし、最後にはこうして関川さんにも会えました」

「まってまってまって……なにを言ってるのかなんにも理解できない」


「信じられないのは無理もないです。でもこれは全部事実なんです。肥前・バーバラ・論子ロンス編集長の正体は正真正銘の『魔法少女ロンちゃん』なんです」

「いや、ますます意味が分かんない」


「そもそも魔法なんて信じられませんからね。でもね、関川さんが人間になれるのも編集長の魔法の力があればこそなんですよ」

「ごめん、まだ信じられないよ」

「そうでしょうね、なにしろ『魔法』ですからね。でもいずれ分かります」


 それからニッコリと、なにか吹っ切ったようなからりとした笑顔を浮かべた。


「ということで次回のお題です! 今回のテーマは【真夜中】。シンデレラの魔法がとける真夜中です。今回のテーマはちょっと個人的なテーマになっちゃいましたね」


 バーグさんは笑っているのに、泣いているように見えた。

 やはり本当なのだろうか? 魔法が実在するのだろうか?

 バーグさんは本当に消えてしまうのだろうか?


 


「ねぇ、どうしたら……」

「いっけない! もうこんな時間! そろそろ無月兄先生と無月弟先生の原稿取りに行かないと! いつも同時に書き上げるんです、あのふたりの先生」


 バーグさんはそう言ってあわただしく走り去ってしまった……

 まぁいつものペースではあるが。


「とにかく最後まで書くしかないんだよな……真夜中か……うん、どうせだったらバーグさんに楽しく読んでもらえる作品にしようかな」


 と、誓いも新たに書き上げたのが『イケナイ真夜中のお夜食』である。

 シリアスな状況のわりになんとも軽いタイトルだった。






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