幕間 ~最後のお題~
「なんか不倫ものみたいな雰囲気と思わせて、焼肉とはな……」
なんかこういう展開ばかりなのだが、私とカノーさんはバルコニーに七輪を引っ張り出して焼肉を食べていた。
季節は春、ちょうど庭の桜が満開で、花見をしながらの焼肉である。
「そこは、ひとヒネリしてみたんです。なんかそういうギミックを入れるのが今回は楽しくて」
「そうだな。焼き肉と一緒だな、肉だけ食べてると意外と飽きちまうんだよな」
「ですよね、やっぱり白米とかないとね」
「そうそう。白米だよ、白米」
ちなみに今回の白米はわざわざ土鍋で炊いてみた。
炊き立てのつやつやふっくらご飯との相性はとにかく最高だ。
たっぷりとタレを絡めたカルビと頬張るとそこはもう天国だ。
ということで、私たちはしばらく無言で肉を焼き、白米を食べ、ビールをガブガブと飲んだ。
最後に薄緑色のプラスチックのメロンカップに入ったシャーベットを食べると、焼肉の興奮からゆっくりと冷めてくる。
「さて、いよいよこれで最後のお題だな」
「そうですね。今回はカノーさんにすごくお世話になりましたね」
「おっと、まだ礼を言うのは早いぜ」
と、カノーさんのスマートフォンからホーホーとフクロウの声が聞こえてきた。
ちなみに私の着信はガチョウでガーガーだ。
「ちょっと出るぜ」
「どうぞ、遠慮なく」
カノーさんはスマートにスイッチを押して耳にあてがった。
「そろそろ連絡が来る頃だと思ったぜ、バーバラ編集長」
やっぱり……薄々気付いてはいた。
カノーさんとバーバラ編集長はつながっていると。
ただ、二人が仲間なのか、敵なのかはわからなかったのだ。
「とりあえずアンタの望み通り、関川サンにここまで書かせることには成功したぜ」
「ああ抜かりはない。これまで書いた九作はそれぞれ指定のサーバに投稿している。これでラスト一つだ」
「分かってる。ちょっと残酷な気もするがこれも関川サンのためだ」
「ああ、そろそろ目覚めてもらう時間だからな」
「それよりバーグちゃんのこと、しっかり頼んだぜ」
私はカノーさんの会話だけを聞いていた。
この断片だけではなんのことかよくわからなかった。
だが少なくとも私の目ノ前で話してくれたことに意味があるのは良ク分かった。
「で、バーバラ編集長、最後のお題は決まったのか? なるほどな。たしかにこの物語の最後にふさわしいな。わかった。ちゃんと伝えるよ。でも関川サンにとっては最後まで難問続きだったな。いい結果になるといいな」
そう言ってカノーさんはスマホの電源を切った。
それからちょっと私から目を逸らし、ひとつため息をついて肩をすくめた。
「そうだな、ニュースが二つある。悪い方ニュースともっと悪いニュース。どっちから聞きたい?」
「悪いニュース、しかないんですね」
「まぁな。人生なんてそんなもんだろ? で、どっちがいい?」
「じゃあ、悪い方で。どっちにしても両方聞くのは確定みたいだし」
「よし。まずは次のお題が決まった。【ゴール】だとよ」
「たしかに悪いニュースですね。なにを書いていいかさっぱり思いつかない」
なんか苦笑してしまう。
ずっとコンナノバッカリだった。
「もっと悪いニュースの方だが……このお題を書き上げたら、関川サン、あんたは『消失』することになる」
消失……突然の言葉にどう反応していいか分からない。
アカウントが飛ぶとかそういう事ではナサソウだった。
たぶん私自身の存在が消失する、消滅する、そういう意味だととれた。
だがその感覚がまるでつかめない。
自分のことだというのに不思議なほどリアリティーがカンジラレナイ。
ナノニ、それを自然と受け止めたことが自分でもオドロキだった。
ツマリハ……ドコカデ予感していた、という事なのダロウか?
あの日消えたバーグさんのように……
「それでもまぁ、書かないわけにはいかないんでしょうね」
「そういうことだよ、関川サン」
私はサクラの木を見上げた。
それでなんとなく話の構想がマトマッタ。
たぶん私の最後にフサワシイ、そしてゴールのお題に沿った、そんな話になるんじゃないカナ。
タイトルは……そうだな『終点』がイイダロウ。
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