幕間 ~SFみたい、なんて一言で片づけて良かったのか?~

 私はまだ館の中にいた。

 会社には有給休暇を申請し、一週間ほど休みをとる許可も得ている。

 何故だか、今はここにいないといけない、そんな気がしたのだ。


「21回目、ハフッ、うまく料理したみたいだな、ハフハフッ」


 このところ、カノーさんとテークアウトのディナーを食べながら話すのが日課となっている。今晩のメニューはお好み焼きとたこ焼きだ。


「ちょっと、ハフッ、飯テロに走ってしまいましたけどね、ハフッ」

「ハフハフッ、まったく、夜中に読むのは危険だな」


 そう言ってまた『たこ焼き』を口に放り込み、ハフハフ言いながら食べる。


「ところでカノーさん、そろそろ話してくれてもいいんじゃないですか? グビッ」

「そうだな、そろそろ話す頃合いだろうな。グビッ」


 私たちの周りにはビールの空き缶が並んでいる。

 バラバラのパッケージの空き缶。

 よく見るとどこかで見たような……


 これは『プレミアモルツご当地バラエティーセット』だ。

 バーバラ編集長が贈ってくれたものと同じだ。


 これは偶然だろうか?


「まずバーグさんの居所だが、彼女はここから三十分ほど離れた『カクヨム第十サーバー』に囚われている」

「それは彼女の精神が、ということですか?」


「厳密には彼女のAIプログラムだな、クロネコの体はご存知の通りバーバラ編集長の膝の上だ」


 私はコクリとうなずく。


「彼女は一度、実在の人間になったはずだが、どういうわけだか消失してしまった」

「それは私も覚えています。背中にあった彼女の感触も覚えています」


「なぁ関川サン、不思議だとは思わなかったのか? 人が急に消えるなんてことが? 猫がしゃべりだすなんてことが?」

「そりゃまぁ思いましたよ。でもそういうモノなのかな、って」


「それをSFみたい、なんて一言で片づけて良かったのか?」

「それ以外の説明なんてつけようがないですよ」


「じゃあ、これまで自分のことを疑ったことがなかったのか?」


 不意に心臓がドキリと脈打つ。


 ……あったのだ。

 これはすべて私の妄想だったのではなかったか? と。


 でもそれを認めることが怖かった。

 それは私がコワレテイル、と認めることだったから。


「ま、今日の話はここまでだ。それより次のお題も出てる」


 カノーさんはまたPCをくるりとこちらに向けた。


 いや、今は自分の問題の方がお題より重要なんだけど……


「まるで書ける気がしないよな……ほんと意味不明だ」

「そうですね……連作するにはホントハードルが高いです」


【尊い】


 PCにでかでかと表示されている。


 またへんなお題だな。

 コンナノバッカリダヨ。

 加えると、もう何を書けばいいのか考え始めてしまって、自分のことも後回しになってしまう。


 なんかもうお題に振りまわれているのが自分でも良く分かる。


「だがまぁあまり深刻になるな。いずれ真実は明らかになる。この十回のお題を書き上げた後にな」



 ……という経緯の後で書き上げたのが『かな子さんが倒れた!』である。

 考えてみると、タイトルの中に『尊い』が一文字も含まれていなかった。


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