第23話 たったひとりの姫君のため
終わりの日は前触れもなくやってきた。
ケイルの小言を聞き流して星騎士イオの身体に乗り移って占星術の修行をしていた時、トレミー=ドミニオンはマレの気配を感じた。天星宮のすぐ近く、結界内に。ありえないことだった。〈転移〉を使えば可能だが、あれは一度訪れた場所でないと飛べない。
頭を掠めた違和感を意識しながら向かった場所にいたのはーー〈不死の大公〉ハストラング。マレの大公が、ベネの領域内にいる。目を疑う光景だった。
誰かが手引きしたのか。トレミーは内通者の存在に気付いた。が、それ以上を考える暇を相手は与えてくれなかった。
結界の中ではマレの〈星〉は占星術を使えない。大公といえどそれは例外ではない。しかしハストラングは術に頼らずとも強かった。元来の超人的な身体能力はもちろん、その身体をまるで捨て駒のように酷使してくるのだから性質が悪い。それでもトレミーは強化した星騎士の体捌きと占星術を巧みに使ってなんとか互角に持ち込んだ。
しかし、やはり変だった。
相手に殺気がない。ニアンナを殺しに来た時とは大違いだった。人目を避けるように天星宮に忍び込む姑息さといい、どうもハストラングらしくない。相手が抱いている〈星〉は間違いなくハストラングのものだというのに、だ。
こいつは自分に殺されたがっている。殺されることで何かを成そうとしている。
(だが、何を?)
七年前に自分を天星宮に舞い戻らせたのはこのマレだ。いずれ大公と相まみえることがある。それを知っていたからこそトレミーは研鑽を重ね、マレに対抗する占星術を開発してきた。全てはこの〈不死の大公〉を倒すためーートレミーは、剣の切っ先を下ろした。
確証はない。ただ直感はそう告げていた。星騎士の『誠心の刃』を壊すことで極星の姫を殺す方法では〈予言〉は成就しなかった。ならば直接、と考えるのは至極当然のこと。そして、本来の姿を晒さずして極星の姫の元に近づけるのは、星騎士だけだった。
迷いはなかった。命を懸ける覚悟は七年前から決めていた。トレミーは刃を交えつつ戦う場所を移動した。レイリスの塔のふもとまで辿り着いたところで、トレミーはハストラングへと突っ込んだ。わざとらしく大きく振りかぶるハストラング。このまま突っ込めばたぶん、星騎士はハストラングを倒せるのだろうーー彼の望み通りに。
交差する瞬間、星騎士の身体は崩れ落ちる。突如意識を失った相手にハストラングが戸惑うのが、見ていなくてもわかる。
トレミーの本体は飛び起きてレイリスの塔から出た。抜け殻となった星騎士に気を取られているハストラングに、無造作とも取れる仕草で剣を突き刺した。
「おい〈不死の大公〉、覚えておけよ」
憎悪はない。恨みも。ただ殺すという明確な意志を込めて刃を食い込ませた。
「お前を倒したのは俺だ。星読師トレミー=ドミニオンだ」
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