第2話 星々は語る

 神話は語る。

 ファイノメナ〈天上国〉が滅亡した時、三つの星が地に落ちた。

 一つは北の地へ。砕け散ったベネフィック〈吉星〉は無数の星々となって天に昇り、北の地をあまねく照らした。

 一つは南の海へ。砕けることなくマレフィック〈凶星〉は海底に沈み、浮かぶ孤島もろとも海を赤く染めた。

 そして最後の一つ、極星は輝きの弱い北の地を憐れみ、その民の一人に宿った。極星は大地を潤し、生きとし生けるもの全てを祝福した。その極星を胸に宿す者は姫と呼ばれ、やがて極星の姫を中心にして王国が成り立ち、北の地は栄えた。

 しかしマレフィック〈凶星〉の加護を受けた者達ーーマレは北の地に生きる者達を脅かし始めた。マレが狙うは北の民が持つ極星、かつて天上の国を照らした至高の星だった。

 マレは抱く姫ごと極星を奪い、南の孤島ネメシスに幽閉した。

 極星の加護を失った地は荒れ、天は嘆いた。誰もが王国の滅亡を予感した時、いと高き天と地をあまねく照らす星々は、一人の騎士を召喚した。騎士は目覚めるなりマレの領域であるネメシスに赴き、立ちはだかるマレを打ち倒した。そして、最深部に閉じ込められていた極星の姫を救い出した。

かくして滅亡の淵にあった王国は極星の加護を取り戻した。使命を果たした騎士は、極星の姫に誓う。世々限りなく、この胸に星がある限り、極星の輝きを守り続けることを。誠心の誓約を交わして騎士は眠りについた。やがて幾度となく訪れるだろう、極星を脅かすマレが現れる時まで。

 称賛と希望を込めて人々は眠れる騎士をこう呼ぶ。

 極星を守護する騎士、星騎士、と。

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