ex 疎い彼女らは気づかない

「ど、どどどど、どうとは?」


 リーナの問いにアリサは露骨にそんな反応をする。

 どうとはと疑問系で返している割りには、顔を真っ赤にしている限り、大体何が言いたいのかは理解しているようで。

 ……それで大体の答えも察する事ができて。

 それでも聞かれたから補足はする。


「ほら、先輩は男の人な訳じゃないっすか。そういう風に見たりとかしてるのかなって。そういう話っす」


「そ、そういう話……ですか」


 アリサは表情を赤らめたまま、微かにうずくまって。

 それからリーナから僅かに視線を反らしつつ、静かに呟く。


「そ、そんなんじゃ……ないです」


 変に意識して露骨に恥ずかしそうに。


(あーこれは完全にそういうのだ)


 本人がそこまで自覚してないだけで。

 きっとそういう感情がそこにはある。


「そうっすか」


「な、なんでそんなにニコニコしてるんですか! 違いますよ! うん……違います」


「分かってるっす分かってるっす」


「ぜ、全然分かってない顔してますね!」


 ……分かってる。

 ……分かった。


(多分、少しアシストすればくっつくだろうな、先輩とアリサちゃん)


 クルージもあの様子で、アリサもこんな感じで。

 だとすれば多分それは間違いない。

 だとすればアシストしない理由もないだろう。


 アリサもクルージも自分にとってはとても大切な人で。

 その二人が幸せになれるのならば、それに越した事はない筈だから。


 何かすこしモヤっとするけれど。


「……?」


「どうしました?」


「あ、いや……なんでもないっす」


 言いながら、リーナ自身も何があったのかが良く分からない。


(……なんだろう、応援した方がいいと思うんだけどな)


 思うのだけれど。

 それは間違いないのだけれど……それでも。


(……なんか気が進まない)


 何故なのかは皆目見当付かないけれど。


「あ、そうだ」


 そしてその見当が付かないリーナに対し、アリサは半ば仕返しするように少しだけ悪い表情を浮かべて言う。


「それで、リーナさんはどうなんですか?」


「え、どうって何がっすか……?」


「クルージさんは男の人な訳じゃないですか……そういう意味でどう思ってるんですかっていう話です」


「え、どどど、どう思ってるか……っすか?」


 どう思っているのか。

 クルージという先輩は自身にとって大切な友達だ。


 話していると楽しくて。ノリがあって。

 誰かの為に動くことができるような。負わなくてもいい責任を抱え込んでしまうような。

 そんな優しい人で。


『少なくとも俺達は、お前の事を生きている価値の無い人間だとか思ってねえからな』


 そんな欲しかった言葉を言ってくれたような人で。


 可愛いと言って貰えた事が恥ずかしいけど嬉しいような人で。


「だ、大事な仲間で友達……っす。だからそういうのじゃ……ない…………っすよ」


「……」


「ない…………っす」


 違う筈だ。

 応援したい二人の間に入っていこうなんて考えは違う筈だ。

 ……きっと違う筈。


「そうですか。わかりました」


 アリサは少しリーナを見つめた後そう言った。


「な、なんでニコニコしてるんっすか」


「いえ……なんでもないです」


 そう言ってアリサは笑う。

 その意図は読めなかったけど、それよりも。


 自分の事が良く分からない。










 その後、リーナが帰った後の話。


(しかしなるほど……リーナさん、そういう感じか)


 自分が察しのいい方かどうかは分からないけれど、あそこまで露骨なら流石に分かる。


(これは……ボクがアシストした方がいいのかな)


 アリサにとって二人とも大切な人達で。

 その人達が幸せな関係性を築けるのならば、きっとそれに越した事はない。

 越した事はない……筈だけれど。


「……」


 すごく良く分からないけれど、酷く心がモヤモヤする。

 自分にとってクルージは仲良く親しくいたい相手で、本当に大切な人だけれど。

 ……多分それはそういう感情とは違う筈で。

 そうだと思っていて。

 それでも……だからこそ。


 ……自分が抱いている感情も。心のモヤも。


 その正体が分からない。 

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