90 状況確認
「……はい。こちらからもよろしくっす」
俺の言葉に、リーナは少しだけ落ち着いたような笑みを浮かべてそう言ってくれた。
実際の所、俺がこんな事を言った程度で何かが変わってくれたのかどうかは分からない。きっと大きな筈のリーナの問題が、俺のこの程度の言葉で全て解決するようなら、きっとリーナは此処にはいないだろうから。
……だけどまあ、少しでも。ほんの少しでもいい。それだけでいいからリーナにとっていい風に作用してくれればいいなとは思うよ。
それで、一応今の話が落ち着いたのだとすれば、次にリーナの口から出てくるであろう言葉は大体想像できる。
「それで……今、何がどうなってんすか!? 正直訳わかんないんすけど! というか先輩大丈夫って言ってたっすけど、これ本当に大丈夫なんすか? 応急処置とかとりあえずしておいた方がいいんじゃないっすか!?」
大体予想通り。
リーナにとって今得た情報は自分のスキルの事や、そのスキルによって色々と奇跡に近いような事を起こした。それだけしか把握していないのだから、こうして一応解決した様な状況になっているのは謎でしかないだろう。
「……とりあえず、クルージに応急処置が必要かどうかは見といてくれないか? 色々あって再生が始まってるとはいえ、だからといって大丈夫かどうかは分からねえ」
これまでリーナとの話を俺に任せてくれていたグレンは、そう言ってゆっくりと立ち上がる。
「いや、グレンさんも相当重症だと思うっすよ!?」
「でもこうして立ててる。立てる位にはお前の逃避スキルの効力が効いてくれた。医学的知識はあまりねえけど、まあ、多分俺は大丈夫だ」
そう言ってグレンは歩き出す。
「俺は回収しねえといけねえもの、回収してくる」
「……回収?」
「俺のハンマー洞穴に置いてきたからな。後は……まあ、もう修復できないような状態だったとしても、倶利伽羅シリーズの名刀をこんな所で放置させられねえだろ」
「……悪いな」
自然とそんな言葉が漏れ出した。
グレンから貰ったあの刀は、事前にそれでもいいと言われていても、壊してしまえばそんな事を言ってしまう位には貴重な物なのだから。
だけどグレンは言う。
「作戦始める前にも言ったかもしれねえが、人の命に勝るようなものじゃねえんだ。仲間の命の価値が世界的な名刀程度より劣ってたまるかよ。お前があの作戦考えて実行に移していなきゃ、今此処にいる誰かが欠けていたかもしれねえ。だから良いんだよこれで。気にすんな」
「……助かるよ」
「いいって。っし、じゃあ行ってくるわ。リーナ、クルージの事を頼んだ」
「は、はいっす」
それだけ言って、グレンは先の洞穴の中へと戻っていく。
そしてグレンに任されたリーナは、俺の前に屈み込み、怪我の様子を見て言う。
「……とりあえず応急処置でできる以上の事、その……私のスキルがやっちゃってるみたいっすね。今止血が必要な所もなさそうですし。自分で言うのもなんっすけど……無茶苦茶な事起きてるっすね。多分、安静にしていれば命に別状とかはないと思うっす」
リーナが安心したようにそう言った時だった。
俺の周りの黄緑色の光の粒子が消滅したのは。
「……消えた?」
一瞬、どうして消えたのだろうかとも考えたが、理由は少し考えれば浮かんでくる。
リーナがもう大丈夫だと思ったから。命に別状がないと思ったから。
俺が死ぬような未来から逃げる必要がなくなったから。
「え、あーそうっすか。多分私が安心したから終わりみたいな奴っすね」
リーナも納得したように言う。
「まあ、そうみてえだな」
「……このまま村で負った傷も含めて完治しちゃえば良かったんすけどね……っと、そうだ」
リーナが良い事を思いついたように言う。
「私がちゃんと先輩の事をヤバいって認識してればいいんすよ」
「ちょっと待って、なんかその言い方やなんだけど」
「先輩が死にそう先輩が死にそう先輩が死にそう先輩が死にそう……あ、なんか良い感じに先輩が死にそうに思えてきた気がするっすよ!?」
「それ良い感じなのかな!?」
まあだけど、そんな事を考えるのは表面上だけで。
大丈夫だと思ってくれたリーナの安堵が本質的に変わるなんてのはそうなくて。
俺の治療はどうやら此処まで。
「……まあとりあえず、アレだったら肩くらい貸すっすよ」
「ありがとな」
「どういたしましてっす……で、結局今、何がどうなってんすか?」
「そうだな……」
言いながら洞穴の方へと視線を向ける。
ハンマーと、そして刀身が折れた刀を持つグレンが出てくるのが分かった。
そしてリーナに言う。
「とりあえずグレンも出て来た。だから……アリサの所に行こう。これまであった事やこれからの事は、その間に話すよ。本当に色々あったんだ、この短い間に」
そしてグレンと合流した俺達は、三人でアリサの元へと向かい始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます