69 出発前の朝

 翌朝。朝食時。


「で、そういう訳でグレンをパーティーに入れようと思うんだけど、二人はどう思う?」


「いいんじゃないですか?」


「異議なしっす」


 グレンがこの村に滞在し続ける事による不安など、そういうネガティブで思わず同情を誘ってしまうような話はひとまず置いておいて、フラットに、そうした方が開業資金も早くたまるだろうし、実力も申し分ないしどうかなといった話をした訳だが、大体予想通りというか予想以上にあっさりと。二つ返事で許諾された。

 そしてそのスピード感をグレンは全く想定していなかったのだろう。流石に二人に対して言う。


「え、いや、ちょっと待て。そう言ってくれるのはありがてえんだけどよ、いいのかそんな簡単に判断して。こういうのってもうちょっと慎重になるもんじゃねえの? なんかこう……安直すぎねえ?」


「グレンさんの場合もう大体どういう人か分かってるっすから。第一慎重に考えなきゃいけない相手な時点で候補としてはちょっと難ありじゃないっすか?」


「リーナさんの言う通りです。ボク的にもグレンさんなら普通によろしくお願いしますでいいかなって。まあ……断る理由探す方が難しいと思うんですけど」


「な、言ったろ? 大丈夫だって」


「お、おう……ってなんか心配になってきたぞ。会って一、二日の俺を信用して実は悪い奴だったらどうすんだ? コイツら人の事簡単に信用してその内壷でも買わされたりしないだろうなぁ!?」


「そんな事心配し始めてる時点で絶対悪い人じゃないですよね」


「つーかお前パーティー入れる判断が安直だったら俺とアリサがパーティー組んだのも、そこにリーナが加わったのも安直な判断になるじゃん」


「いや、お前らのは違うだろ。なるべくしてパーティー組んでるだろ」


「じゃあお前のも違うだろ」


「違う……か」


 グレンは自分の立ち位置に半信半疑になってるような表情を浮かべるが、やがて俺達に言う。


「まあお前らがそう言ってくれるんなら、ありがたく受け取っとくわ。これからよろしくな」


「はい!」


「よろしくっす!」


 そんなやり取りを交わして、これで無事グレンも俺達のパーティーに加入だ。

 冒険者のパーティーは一般的に二人から四人で構成される。

 つまりはこれで……完成した訳だ。俺達のパーティーは。


 ……少し前までは考えもしなかったけど。こんな形に落ち着くとは思いもしなかったけど。

 本当に……良いパーティーを組めたと思うよ。


 と、そんな風に感慨深く三人を見ていた時だった。


「……あ」


 ふとリーナが何かに気付いた様にそんな声を上げる。


「どうしました?」


「あ、いや……この流れだとグレンさん、王都に戻った時に冒険者としてギルドに登録する訳じゃないっすか」


「おう、そうだな。それに加えて新居探しに、工房持てるまでの間鍛冶の腕鈍らねえように金払ってでも少し触れる所も探さねえとだし……やる事一杯だな」


「まあそれは皆で手伝うとしてっすよ。今私が言いたいのはそういう事じゃなくて」


 そしてリーナは少し嬉しそうな表情を浮かべて言う。


「王都に戻ってから冒険者になるって事は……グレンさん、私の後輩って事になるっすね」


「……ッ」


 グレンが声にならない声を上げて、戦慄するような表情を浮かべる。


「つまりグレンさんというかグレン後輩って事っすね。いえーい、後輩」


 そう言って笑みを浮かべてピースサインをするリーナ。

 そして尚も戦慄の表情を浮かべるグレン。


 分かる……分かるぞ、グレン。

 リーナは凄い奴だ。スキルの影響がどこまであるのかは分からないが、多分普通に尊敬すべき所も一杯あるような相手だ。

 だけど……だけどな。


「へい後輩、返事ないっすよー」


 なんか失礼かもしれないけどコイツの後輩って嫌じゃねえ!?

 そしてグレンもこの状況で黙っている男じゃない。


「……異議ありだ」


 よっしゃ頑張れグレン! 負けんなグレン!


 そしてこれから始まるであろう神樹の森での戦いの前に。


 割と普通に不毛そうな戦いが始まった。

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