58 きっと最後の報告を

 村の端の墓地に両親の墓は立っている。

 そこに向かうまでの間もすれ違った村の連中からは碌でもない視線を向けられたが、それはもうどうでもいい。どうにかしようとも思わない。当然それらは吐きそうな位辛いけれど、もう本当にどうでもいいんだ。

 そんな事よりも。どうでもいい連中の事よりも。これから両親に何を伝えるべきかを考えるべきだと、そう思った。


 やがて人気のない墓地に辿り付く。

 人気が無いが故に少しは心も落ち着いた。あまり鬱々しい心境で両親の墓の前には来たくなかったから、それだけは本当に良かったと思う。

 とにかく多少は落ち着く事ができながら、両親の墓の前に立った。

 とりあえず大した事は出来ないけど、軽く墓を綺麗にした後、持参した花を添える。

 そしてそれらが終わってから手を合わせて黙祷。


 墓参りの一連の流れとしては、ひとまずこんなものだとは思う。


 だけどこれで墓参りを。両親への多分最後になる報告を終える事なんてできない。

 黙祷をしながら、少し伝えたい事は伝えたつもりだ。

 だけどもうこの世にいない人に対して思いを声に乗せても届くかどうかが分からないのに、心の中で話してる振りをして自己完結させるのは、少なくとも今は違うと思うから。

 だから俺は、態々墓参りに付き合ってくれた皆に言う。


「なぁ、悪いんだけどさ……少しだけでいい。一人にさせてくれないか?」


 もう今更だとは思う。散々情けない姿を晒した。恥ずかしい姿を晒してきた。

 だけど……まあ、流石に墓に話しかけるような所を見せるのはさ。

 内容も内容だし。


「分かりました。ごゆっくり」


「俺らは向こうの方いるわ」


「一応誰か来ないかも見とくんで、安心してほしいっすよ」


「……悪い、皆。助かる」


 三人共、それ以上何も聞かずに気を聞かせてくれた。

 本当にいい奴らだって、改めて思う。


 ……さて。


 一人になった。

 そしてこれが多分、最後の墓参りだ。

 最後だからこそできる事ならこんな酷い怪我を負った姿を見せたくはなかったけど、それでもまあ、見せられたのはきっと悪い事だけじゃなかったと思うからさ、親不孝だとは思うけど少しは許して欲しいなって思うよ。


 そう、思いながら話を切り出す。


「……ごめんな、こんなひでえ怪我してて、ろくでもねえ事にもなっててさ。こんな状態で安心してくれなんて言うのは無茶苦茶なのかもしれないけどさ……だけど、安心してくれ」


 俺一人で帰ってきてたら虚言でしかなかったかもしれないけど、今は違う。

 違ってくれている。


「こんな状況でもグレンと……あと、ユウがさ、味方してくれた。ちゃんとさ、分かってくれる奴らはいてくれたんだ」


 そして。


「あと、さっきさ、女の子二人いただろ? ……仲間なんだ。金髪の奴がアリサで赤髪の奴がリーナ。こんな俺の事もちゃんと考えてくれるようないい奴らなんだよ……ほんとに、良い奴らなんだ……そんな仲間がさ、俺にも出来たよ」


 それから。そんな事から話し始めて……今の生活の事とか、きっと二人が生きていて里帰りしたらこんな事を話しただろなって、そう思う事を話した。

 届いているかどうかなんてのは分からない。黙祷で心中で思いを語るよりも言葉にした方がとは思うけど、結局届くかどうかなんて確証はない訳だから。どこまでも自己満足でしかないかもしれない。

 だけどさ、やっぱり来れてよかったと思うよ。

 数少ない村に戻ってきて良かった事の一つだ。




 やがて伝えたい事を伝えた後、俺は三人の元へと戻った。


「もういいのか?」


「ああ、もういいよ。伝えたい事は伝えられた。だから行こう、皆」


「そうっすね」


「クルージさんがそれでいいなら」


 そして俺達は墓地を後にする。

 これでもう、お別れだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る