ex 今はまだ、言えない
やれる限り迅速に事を終わらせた筈だが、それでも限度がある。
随分と時間が掛かってしまった。
「クルージさん……ッ!」
黒い霧を倒し切り、それから必死になってクルージの元へ向けてアリサは必死になって走る。
もう事は終わっているかもしれない。否、続いている方がおかしい時間かもしれない。
自分がどれだけ時間が掛かったかは正直関係なくて、入れ替わる形であの場に向かったグレンが既に到達していて、そうなれば何らかの形で事は終わっていて。
だけど……とにかく、一刻も早くクルージと合流したかった。
無事である事を確かめたかった。
そう思って暫く走った時、その道中で誰かを背負って歩いてくるグレンと、その隣りを歩くリーナと鉢合わせた。
そしてそれを見て思わず一瞬立ち尽くした。
リーナもグレンも表情が険しくて。それはこちらを向こうが見付けた時により強い物になっていて。
そしてグレンが背負う誰かの腰から、少なくともあの場で一人しか使っていなかったマイナーな武器である刀を腰から下げていて。
それは……つまりどういう事なのか。
「く、クルージさん!」
思考が纏まり切らないまま、再び走り出した。
そしてすぐにグレンとリーナの元へと辿り着き、グレンに問いかける。
「グレンさん! クルージさんは……クルージさんは大丈夫なんですか!?」
「……意識は戻ってねえがとりあえず命に別状はないそうだ。リーナがギリギリのタイミングで戻ってきたみたいでな。逆にそれが僅かでも遅れたら確実に終わってた」
「……ッ」
生きている。命に別状がない。その事に少しだけ安堵する。
だけど少しだけで。クルージが酷い目にあったのは間違いなくて。
そこに自分がいればそうはならなかったのだと思うと、やるせない気分になる。
そんなアリサにグレンは言う。
「そんな顔するなよ。お前はやれるだけの事をやった。というかそんな顔しないでくれ……お前がやった事を悔やんだら、こいつが取ってくれた選択が間違ってた事になる」
そしてグレンは、どこか自分に言い聞かせるように言う。
「ああ、そうだ。何も間違ってなんていないんだ。間違っていてたまるか。クルージがお前に頼んで、お前が動いてくれて。そのおかげで俺も村の連中も生きている。アイツはあの場で取れる一般的に言えば本当に最善の部類に入る選択をしてくれたんだよ。だからそれで全部綺麗に終わってくれる筈なんだ……その筈なんだよ。だからクルージもお前も……勿論リーナだって。誰も何も間違えてねえ……本当はもっと……せめてもう少し位はうまくいく筈だったんだ」
「……」
本当は。
その言葉には一体どういう意味が含まれているのか。
おそらくろくでもない事を察っせてしまいながらも、アリサはグレンに問いかける。
「……一体何があったんですか」
アリサのそんな問いにグレンは言葉を詰まらせた後、静かに言う。
「とにかくクルージを俺の家まで運ぶ。話はそれからだ……今は両手が塞がってるからな。何があっても何もできねえ」
そんな意味深な事をグレンは言うが、確かに早急に安静にさせた方が良いのは間違いなくて。
アリサはグレンの言葉に頷き、二人と共にグレンの家へと戻る事にした。
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