30 実食

「……やべえ、すげえうめぇんだけど」


「そうっすか! そうっすよね!」


 俺が零した言葉にリーナはドヤ顔を浮かべてそう言った。



 あれからしばらくして出来上がってきた、リーナ作ビーフシチューなのだが……正直もう無茶苦茶おいしかった。

 いや、ほんとなんだろう……改めて俺絶対食レポとかできないなって思う位こういう時なんて言えば分からないから、ほんとシンプルにしか言えないんだけど……すんげえうめえんだよなぁ。

 正直これ間違いなく店出せるレベルだと思う。というか出してくれねえかな。

 ……なんかリーナの飯毎日食いてえ。


「クルージ。お前、今日一で幸せそうな顔してんな」


「だってうめえじゃん」


「いやまあ確かにうめえけど……いや、でもこれマジでうめえな」


「まさかお店以外でこんなにおいしい物を食べられるなんて思いませんでした」


「えへへ、そうっすか? そんなにおいしいっすか?」


「いや、マジでうめえって。これアレだぞ。レストランガイド風に言ったら三ツ星だぞ間違いなく」


「そんなそれは大袈裟っすよ。精々二つ星位っすよぉ!」


 いや、結構自己評価高いんだな。

 だけどその自己評価以上にとにかくうまいからいいんだけど。ほんとすげえ。


 ……ほんとコイツ、逆に何ができねえんだよ。

 絶対にリーナの場合、冒険者よりも遥かに良い職に就ける筈なんだよな。

 ほんと、なんで冒険者なんてやってるのか。俺が冒険者になる前のリーナの知り合いだったら、絶対に止めるんだけどなぁ。

 と、そこでアリサがリーナに言う。


「リーナさん。ちょっとお願いがあるんです」


「ん? おかわりっすか? 一杯あるっすよ」


「あ、いや、そうじゃなくて……いや、それはそれで後で欲しいんですけど違くて……」


 そしてアリサは言う。


「今度ボクに料理教えてくれませんか? その、察してくれたかもしれないですけど、ボク料理できないんで……その、ちょっと位出来る様になりたいなーって」


「「……ッ」」


 一瞬俺と同時にリーナの表情が僅かに引きつったのが分かった。

 そして向こうも俺がそんな表情を浮かべた事に気付いたのだろう。

 なんとなく、言葉を交わさずとも意思疎通が出来た気がした。


 あ、これ結構大変な奴だぞと。そんな感じに。


 だけどまあ……正直な話、アリサの危なっかしすぎる料理テクは本人の身の安全の為にもどうにかした方が良い訳で。

 そしてリーナは前途多難程度で頼みを拒むような奴ではないから。


「いいっすよ。任せろっすよアリサちゃん」


「はい、お願いします!」


 そう言ってリーナとアリサは笑みを浮かべる。

 これでまあ、恐らくはある程度安全な調理が出来る様になるだろう……とは思う。 


 ……多分すげえ前途多難な気がするけども。


 まあだけどそれは、今からやろうとしいている依頼を無事終わらせて帰れたらの話だ。

 冒険者はいつ死んでもおかしくない職業だから。

 本来リーナの様な子が就くのがおかしい様な、危険な職業だから。


 だから。この依頼を受けると言ったのは俺なのだから。とにかく、頑張ろう。

 俺にやれる事なんて殆ど無いのかもしれないけれど。

 それでも……せめて目の前の光景位は守れるように。




 ちなみに食後。食器も洗い終えたタイミングで、アリサに聞こえない様にリーナに聞いてみた。


「そういや、アリサの包丁さばきヤバかったろ?」


「戦慄したっすね……先輩もどこかでアレを見たんすよね多分」


「ああ。前入院してた時リンゴ剥いてもらった」


「あー。それ絶対ヤバイ奴じゃないっすか」


「マジヤバイ奴だったぞアレは」


 なので、俺からもお願いしておく。


「リーナ。マジで頼むぞ」


「前途多難ですけど頑張るっすよ」


「やっぱ前途多難なんだ」


「そりゃそうっすよ……ヤバイ思い出すだけで震えが止まらない」


「……」


 これ本当に無事に帰っても無事でいられるのか、やっぱり心配になってきた。

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