人間という生き物の本質

1 始動三人パーティー

 昨日はあれからまっすぐ家へと帰った。

 そして一通りトレーニングと魔術の勉強をこなして、明日に備えて就寝。やった事と言えばその位。


 当然、家に帰ってからも色々と考えはした。嫌でも考えざるを得なかった。

 だけどそれでも、いくらかは前向きな気持ちではいられたし……それに、昨日は割りとよく眠れた。悪夢だって見なかった。

 ……多分、それは全部アリサのおかげだ。

 アリサのおかげで俺は今の俺でいられている。


「……よし、準備完了」


 さて、今日はそんなアリサにリーナを加えた三人パーティーでの初仕事である。

 まだ具体的にどういう系統の依頼を受けるかまでは決めていないが、あの日リーナの捜索に出た時のように、やはり初めてのパーティーでは少し簡単な依頼にしておいた方が良いだろう。

 Cランク……いや、リーナいるしD位にしといた方がいいのかもしれない。


 まあその辺り回りは三人揃ってから一緒に考えればいいだろう。


 なんにせよ、とりあえず約束の時間に遅れずに行く事を考えないといけない。


 ……よく眠れた。

 眠れて、寝坊した。

 ガチのマジで時間がない!


「走りゃ間に合うか?」


 言いながら荷物を手に家を飛び出した。

 結構マジな全力疾走である。

 遅刻はマズイ。

 ましてや新たな門出と言ってもいい今日みたいなタイミングは本当にマズイ。なんかこう……モラル的な意味で。


 そして、結果。


「先輩、五分前行動って言葉知ってるっすか?」


「……知っておりますが、ぐうの音もでません」


遅刻はしていない。だけど5秒前である。ギリギリもいいところで、そんな事を言われると頭を下げざるを得ない。


「それにしてもアレっすか? 寝坊っすか? 先輩、髪寝癖になってるっすよ」


「え、マジで? なあアリサ、マジで寝癖になってる?」


「なってますね、結構、その……いい感じですね」


「いやそれどんな感じだよ全然分かんねえよ」


 ……とりあえず後で鏡見て直しとこ。

 とまあそう決めた時だった。


「……昨日、よく眠れましたか?」


 アリサがリーナに聞こえない様な声で聞いてくる。

 ……あの後もアリサは色々と心配していてくれたのかもしれない。

 だけどそれに関しては、この遅刻ギリギリになったのがいい証拠だ。


「眠れたよ。爆睡して髪とか直す時間がなくなる位には」


「そうですか。なら良かったです」


 そう言ってアリサが笑みを浮かべた。

 ……どこか安心した様に。

 と、多分俺も小さく笑みを浮かべていた所で、リーナが言う。


「まあ先輩のエキセントリックな寝癖は置いておいて、そろそろどんな依頼受けるか打ち合わせでもするっすかね」


「え、ちょっと待って。そんなヤバいの俺の寝癖」


「いや、そりゃ……あーいや、うん。大丈夫っすよ、先輩。大丈夫大丈夫」


「その匙投げた感じ絶対にヤベー奴じゃねえか!」


「だ、大丈夫ですよクルージさん。いう程酷くないです。セーフよりのアウ……セーフです」


「ほら今アウトって言いかけたし……ごめん遅れかけて来て悪いけどちょっと先に髪見てきていいかなぁ?」


「どうぞどうぞっす」


「じゃあボク達、そこの依頼張ってあるボード見てるんで。ごゆっくり」


「速攻で直してくる!」


 そう言ってギルド内のトイレへと移動する。

 そして朝注視していなかった鏡を見る。


「……なんだよ、普通にセーフよりのセーフじゃねえか」


 まあ結構寝癖は付いてるけど……でもまあこれなら余裕でセーフ。リーナ先導に二人してからかってきやがった。

 ……楽しそうにしているなら別に良いんだけど。


 ……さて、まあとにかく寝癖直して気合いを入れよう。

 今日はこのメンツでの初仕事。そして冒険者という仕事にはいつ何時命の危険が訪れるかは分からないんだ。

 爆睡できたのは良い。だけど流石に気の緩みすぎも良くない。

 ……気を引き締めろ。


「……よし!」


 髪の毛も水に濡らせばピシっと決まった。

 ついでに気も引きしまった気がする。


 さて……二人の元へと戻ろう。


 一体今日はどんな依頼を受けるのか。

 三人での初仕事に、どこか期待を込めながら。

 俺は二人の元へと踵を返した。

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