32 そして導きだした最適解
あれから俺の目隠しはそのまま、リーナがある魔術を使った。
洗濯物を乾かす位にしか使い道が無いような初級魔術。そういえば例の魔術教本に乗っていた気がする。
まさしく実用魔術教本である。とてと実用性があるね。
「とりあえず一時間とあれば渇くっす」
……とりあえず俺も覚えておこう。依頼を受けにいった先で雨でずぶ濡れになる事も十分に考えられるのだから。
「……とりあえずリーナさんの分のコーヒー入れますね。お砂糖どうします?」
「あ、私ブラックで」
「ほう、お前ブラック派か」
「そういう先輩も……やりますね」
なんか目隠ししてるけど分かるよ。こいつが凄いいい表情してるの。
「分かりました。……お砂糖入れた方が美味しいんですけどね」
アリサがポツリとそう言うが、悪いけどそれだけは否定する。
コーヒーという奴はブラックが至極なのだ。何故ならそれがコーヒー本来の味わいだから。それ以上の感想はない。間違いなく俺はにわか。
「……そういえば先輩。コーヒー殆ど減ってませんけど飲まないんすか? もしかして見栄張ってブラックにしちゃった感じっすか?」
「見栄張るっていうか見えてないからね。俺目隠ししてるからね。マグカップどこにあんの?」
「ここっすよ」
リーナが俺の手を掴んでマグカップへと誘導してくれた。
「あ、ありがと」
でも何これ。介護かな?
「お待たせしました、どうぞリーナさん」
「ありがとうっすアリサちゃん。じゃあ頂くっす」
そう言っておそらくリーナはコーヒーを飲んだ。
「うわ……にっが。にっがぁ……」
「……お前アレだろ。見栄張っただろ」
折角ブラック好き同盟を結成できたと思ったのに。
「うぅ……ブラック平然と飲んでる人の気がしれないっすよ」
「そうですよね。苦いより甘い方が良いですよね」
「お前らよくブラック平然とおいしく飲んでる奴の前でそれ言えるな」
「だって……ブラックコーヒーですよ」
「そうっすよ」
「なにお前らブラックコーヒーになんか恨みでもあんの?」
先程の相当やらかした俺でもまあとりあえず許してくれてる様な奴らなのに……マジでブラックお前なにしたん?
……そういやグレンの奴もブラックは飲めるけど加糖派だった訳で。なんか俺の周り加糖派しかいなくね?
……これ実はブラック派って無茶苦茶少数派なんじゃね? なんかこの流れでルーク辺りに聞いてみても「そりゃブラックなんて飲むわけ無いじゃないですか」とか平然と言ってきそう。
「……うまいんだけどなあ、ブラック」
とりあえずその声に賛同してくれる奴と廻り合いたいとそう思った。
とまあそんな風にコーヒーを飲みながら時間を潰した。
やがてリーナの魔術によりびしょ濡れの衣服が回復し、ようやく俺の視界が回復した事になる。
「……ようやく光が戻ってきた」
やってみて分かったけど、長時間視界が奪われるというのは中々独特な怖さがあった。暗所恐怖症とかではないけど、それになりそうだって思ったよ。マジで何も見えねえって怖いわ。
「残念でしたね。もういつもの服にもどってるっすよ」
「いやだからそういうのじゃねえんだって」
「だからそこまで全否定されたら傷付くっすよ!」
「えーじゃあはい。エロかったエロかった」
「……あ、うん……そうっすか」
「この流れで赤面すんの止めてくれる!?」
「……クルージさん。ほんとはやっぱりそういう目で……」
「いやだからそういうんじゃないんだって!」
「……だからその全力否定は流石に来るっすよ」
「あーもう面倒くせえ!」
じゃあどう言えば正解なんだよこれ!
と、まあそんな会話を続けたくないので、話を変えることにした。
「そういやリーナ」
俺は少し気になった事を聞いてみる。
「そういやお前、昨日の依頼が駄目ならヤバい位金欠的な事言ってたと思うんだけど、お前今日こうしてて大丈夫だったのか?」
「あー思い出したく無いこと聞きますね」
リーナは少し落ち込んだ様子で言う。
「まあ昨日結構多めに報酬貰ってるっすからね。まあ今日今すぐにヤバいって事はないっすけど、まあ本当なら今日も午後から何か仕事しないとなーって思ってた位には貯金ないっすねー」
なんとなく予想通りである。
今日一日アリサを探してきた訳だが、多分そんな時間は無かったんじゃないかなって思ってた。
昼飯なんかも、俺が奢ってなかってらコイツ大丈夫だったのかなって今になって思う。
と、そんな話の中でリーナが少々不安そうな表情で言う。
「でも今Eランクの依頼もなんか一人じゃ怖いっすからね。ほら……またいつ魔獣が出るかもしれませんし」
……そういえば確かにその辺どうなのだろう。
今、東の草原に魔獣が出た。
それは即ち、本来初心者向けの依頼である筈のEランクの依頼が、初心者にどうこうできる様な依頼では無くなっている可能性が出てきてしまった訳だ。
……多分いい加減ギルドも対応に追われたりしているのではないのだろうか。
……本来駆け出しの冒険者に任せられる筈の依頼が、任せては行けないような状況になってしまっているのだから。
だから極端な話、リーナが次にまたいつEランクの依頼を受けられるのかも分からなくて、仮に受けられたとして無事に帰ってこられる保証がまるでないわけだ。
……なんか心配になってくる。
コイツこれから大丈夫なのだろうか。
と、そこでアリサが自分の事を言うように言う。
「……確かにそれは心配ですね。魔獣が出てきたらリーナさんすっごい危ないでしょうし……あ、そうだ」
そしてアリサがいい事を思い付いた様に言う。
「リーナさん。ボク達のパーティーに入りませんか?」
そんな考えられる限り、今の状況でソロで活動するよりも遥かにまともな最適解を。
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