27 トモダチ 上

 いや、違う。訂正する。

 まるで待っていたかの様になんて曖昧な話なんかじゃない。


 アリサはずっと此処で俺を待っていたんだ。


 その証拠に……この雨の中で濡れていない。雨が振りだす前からずっとアリサは此処にいなければそうはならない筈だ。

 ではいつから此処に居たのだろうか? そもそもなんで此処に居るのだろうか?


 そんな問いに答えを出す事は難しく無かった。


 前者はリーナが発見したタイミングから雨が降り出すまで。

 後者はそもそも落ち込んだ様子でずっと俺が帰ってくるのを待っていたのを見れば。

 そして俺を見て少しだけ安心した様な表情を浮かべた癖に、リーナをみたら驚き気まずい表情を浮かべている。

 そんなアリサの様子を見ればすぐに分かる。


 リーナがアリサに逃げられて落ち込んでいたように、予想通りアリサはアリサで酷く辛い状態だったのだろう。

 そして……唯一事情を知る俺の所に相談にでも来ていたのだろう。

 それも、もしリーナと遭遇した後すぐに俺の家へと向かったのだとすれば。俺と入れ違いになる様なタイミングで此処にやって来たのだとすれば。

 ……この長時間俺を待ち続ける位に、事を重く受け止めているという事になる。


 ……とにかく何か声を掛けてやらないといけないと、そう思った。

 だけど俺がアリサの名前を呼んだ後、それ以上に何かを言う前に。

 俺達を見てアリサが何か行動を起こす前に。

 最初に動いたのはリーナだった。


「先輩。先に行かせてもらってもいいっすか」


「あ、ああ」


 止めるつもりは無かった。それ以前に止める権利がなかった。

 そもそもがこれはアリサとリーナの問題なのだ。俺はあくまでそれを仲介する役割。距離が近い第三者。そういう立場の筈なのだ。

 だから……事が動ききるまでは。

 俺が動かなくてはならない様な状況になるまでは、多分きっと一歩後ろに引いていた方がいいのだろう。


 そしてリーナは前に出る。

 それを見てアリサはどうすればいいのか分からないという様な表情を浮かべていた。

 アリサにとってはどうして此処にリーナが居るのかも分からない。そして今日リーナから逃げた事を酷く重く抱え込む位に深刻に考えていて。きっと今の表情を見るに、リーナがあまり自分に対していい印象を浮かべていないのではないかという様な不安に包まれている様に思えた。そうとしか見えなかった。


 そして何も言えないでいるアリサとの距離を詰めながらリーナは言う。


「まあ、なんすかね。あんまり長々と前置きすると話し拗れそうなんで、ズバッとストレートに言うっすよ」


 そしてアリサの目の前まで距離を詰めたリーナは、しゃがみ込みアリサっと同じ目線に合わせながら……優し気な声で言う。


「改めて、私と友達になって欲しいっす」


「……え?」


 アリサからすればそんな言葉が飛んで来るとは思わなかったのかもしれない。

 アリサはとても驚いた様な表情を浮かべ、そして困惑した様に言う。


「え、なんで……だってボク、リーナさんから逃げて……それって酷い事……ですよね?」


「……それ、私を不幸スキルに巻き込まない為にっすよね」


 リーナがそう言うと、アリサは驚愕の表情を浮かべながら俺へと視線が向けられる。

 ……まあそうなるわな。それはリーナが知らない筈の事で、状況的に俺が教えないとリーナが知る事のないであろう情報なのだから。


 そしてアリサの視線に、俺は答えない。


 秘密を漏らす。それは正直いい印象は持たれないだろう。だけど今は俺が弁解するべき状況じゃ無い。下手な自己防衛の横槍を入れるべきタイミングではない。

 何しろ俺の事は今別にどうでもいいんだ。今はアリサとリーナの話。


 許してもらえるかは分からないけれど、俺が死ぬほど謝るのは後で良いんだ。

 今は二人をフォローできればそれでいいんだ。

 そしてリーナは言う。


「だったらそれは酷い事なんかじゃないっす。ただの人思いの優しい行動っすよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る