10 捜索と遭遇

「しかしこんなただっ広い草原で人一人見付けるのも難しい話だよな」


 アリサと共にリーナの捜索をしながら俺は思わずそう呟く。

 東の草原。一言で言えばそんな程度で済むが、まあやたら広い訳で、人一人を探すというのは結構な難易度の様に思えた。

 実際地形が所々傾斜となっている為ずっと向こうまで見渡せるという訳でもないし、小さな森の様になっている所もまた東の草原という括りに含まれている。

 正直、見付けられるかどうか分からない


「ボク達のどちらかが探知系のスキルや魔術を持ってたら良かったんですけどね」


「まあ俺達二人ともそういうスキルじゃねえし、そういう魔術も使えねえからな」


 まあこれが俺がソロで受けた依頼ならば運良く見付けられたかもしれないけれど、今の俺はアリサと運気が相殺されて少し運が良い程度だ。何か影響を与えられるとは思わない。


 ……というか本当に相殺出来ているのだろうか。


 ここ暫くの俺の謎の運気低下。常人のそれに近い運気。

 そんな訳の分からない状況下で、本当に俺達は今普通の運気で居られているのだろうか?


 ……少し考えるが、おそらくいられているのだろう。

 いられているから、今の所普通に事が進んでいる。


 だからこそ分からないんだ。俺の身に一体何が起きているのかが。


「……最悪入れ違いになる可能性もあるな」


「そうですね。危険を察して戻っているかもしれませんし」


「それに探知系の魔術を持ってる他の冒険者にも話が行ってたら、俺達が知らない所で事が終わる可能性もある訳だ」


「あ、それもありえますね」


「まあその可能性があるから、夜まで見つからなかったら戻ってくるって話になってんだけど……つまり最悪夜まで捜索か」


「まあ頑張りましょう。その為に携帯食料もある程度買ってきましたし」


「まあそうだけど……あれ正直マズイんだよな」


「……そうですね。できればお昼をそれで済ませる前に……最悪晩ご飯は普通に食べたいですよね」


「そうだなぁ」


「……」


「……」


「サンドイッチでも作って来ればよかったですかね?」


「それもうピクニックじゃね?」


 青空の下ののどかな草原でサンドイッチとか、もう完全にピクニックじゃね?

 まあメシの事は置いといてだ。


「しかし確かにうまく効率よく探せる方法ねえかな?」


 実際、タイムリミットがどこに設定されているのかは分からない。

 もしかするとそれがもう終わっている可能性すらある。

 だから今の様に闇雲に探すのではなく、なにか。何か方法はないだろうか?


 ……そうだ。


「二手に分かれる?」


 割と妙案だと思った。

 二手に分かれれば効率も二倍だから。

 だけどアリサは違う意味で妙案だと思ったらしい。


「確かにそれは良いかもしれませんね。ボクの方はあまり期待できないですけど、クルージさんの幸運スキルがあれば見付けられるかもしれません」


 確かにその通りかも知れない。

 俺がアリサから離れる事により運気が向上すれば、幸運にもリーナを見付ける事だってできるかもしれない。

 だけどそれは俺の運気が戻ればの話だ。


 今、アリサの運は相殺出来ているが、離れたからといって俺の運気は多分戻ってこない。

 だから結果的に運が悪いアリサと普通の俺。正直アリサには悪いし、自分の意見も否定する事になってしまうが、二人で一緒に探しているのと変わらない気がする。


「……どうしました?」


「あ、いや、なんでもねえ」


 どうしようか迷った。

 今の俺の現状の事を告げるべきかどうか。

 だけどそれは中々に言い辛い事ではあった。

 何しろ結果的に俺のスキルがおかしくなりだしたのは……アリサと出会ってからなのだから。


 直接的に何か原因があるかは分からない。だけど結果論だけ言えばそういう事になるから。


 だからそれをアリサの前で直接言ってはいけない気がするんだ。


 とはいえだとすればどうするべきなのか。

 とりあえずアリサを誤魔化して二手に別れ……いや、駄目だ。発案したの俺だけどそれは駄目。

 アリサ一人だとさっきも考えたが二人で探しているのと多分変わらなくなる上に、アリサに何かしらの危険が迫る可能性が高い。


 なにせこの東の草原で……ドラゴンと遭遇した様な奴だぞ。


 場合によっては今リーナが置かれている状況よりもヤバイ状況になりかねない。


 では、うまく今の発言を撤回して二人で探したほうが――


 と、そう考えていた時だった。


「……ッ!? ク、クルージさん! アレ!」


「どうした!?」


 アリサが突然声を上げ、遠くを指さす。

 何かがこちらに向かってくる。

 それが何なのかはすぐには分からなかった。だけどどんどん距離が近づいていくにつれ、そこで何が起きているのかが見えてきた。


「マジかよ……ッ!」


 赤髪の女の子が凄い勢いで三匹の魔獣からダッシュで逃げていた。


 つまりは……俺達が探していたリーナがそこにいた。


「アリサ! 助けるぞ!」


「はい!」


 俺達もそれを認識した瞬間走り出す。

 どういう訳かリーナは凄い勢いでの逃走に成功している様だが、それでもいつ追いつかれるか分からない。

 そうなる前に割って入って助ける!


 そして俺は走りながら、鞘に入った刀に手を掛けた。

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